第49話 猛吹雪の直し方

 どっかのバカが気合い入れすぎた気象操作魔法の失敗の余波は、時間と共に深刻化してきた。

 暴風の煽りで校舎も一部でぶっ壊れ始め、ほぼ確実に大災害への道を歩んでいた。

 大志を抱くのは魔法使いの常だが、近所迷惑は考えた方がいいのは間違いない話だった。

「……おい、これどうすんだ?」

「……私ですら分かるほどの、強烈な魔力の乱流が起きてるね。これは、私にはどうにもならないな」

 寮の部屋でアリーナと話していたら、雪塗れのひげもじゃオジサン事こと学長が飛び込んできた。

「二人とも一緒とはちょうどいい。邪魔くさいので吹雪を止めようとしたら、逆に加速させた挙げ句、制御不能の暴走状態になってしまってな。もはや、一人ではどうにもならん。ちょっと手伝ってくれ!!」

 ひげもじゃオジサンは私たちに素朴な手作りのしおりを手渡した。


『よくわかるきしょうそうさまほうのてびき』


「……なんで、オール平仮名?」

「馬鹿野郎、そこじゃない。気象操作魔法なんて使えるか!!」

 アリーナが怒鳴った。

「問題ない。難しい漢字にはルビを振っておいたからな」

「……ああ、中は漢字があるのね」

「そうじゃねぇよ、ルビ振ったって呪文は唱えられねぇよ!!」

 アリーナが再び吠えた。

「問題ない、やれば分かる。とにかく急がないと、この一帯が壊滅してしまう」

「おう、アリーナ。私たちも、大志を抱く時がきたぜ!!」

 私はベットから飛び降りて、ニヤッとした。

「お、お前はいいかもしれねぇけど、私はどうするだよ!?」

「ヘイ、行ってみろよ。行けば分かるさ!!」

 私はひげもじゃオジサンの後に続いた。

「馬鹿野郎、なんで私までって思うけど、二人にしたらもう止まらねぇ!!」

 アリーナが慌てて追いかけてきた。


「おい、吹雪でしおりが読めねぇよ!!」

「魔法で読むから問題なし。同じ内容を、魔力光でアリーナの前に表示してやる。これなら読めるだろ!!」

 アリーナの前の空間に、赤色で光る文章の羅列が浮かんだ。

「……これ、魔法工学でなんか応用出来そうだぞ!?」

「今はこっちだって。ひげもじゃオジサンが諦めないでなんとかしようって気合い入れたら、さらに暴走してそろそろ喋るのもツラいぜ!!」

 私たち三人は、立っている事すら出来ずに地面に伏せていた。

 その背後で校舎の屋根が飛んだり、壁が倒壊したり、窓ガラスが粉々になったりしていた。

 魔法事故に備えて、特殊強化されているはずなのにだ。

 これでわざわざ外にいる私たちは、熱く大志を抱いたあまり暴発した馬鹿野郎でしかなかった。

 ひげもじゃオジサンの呪文詠唱が続き、暴風の破壊力は加速度的に上がっていった。

「……なまじ魔力が高いから、外れるとこの有様だぜ!!」

 私は基本知識だけで、即興で考えた呪文を唱えた。

 本能で危険を感じ、私は三人を結界で包んだ。

 ほぼ同時に、ほとんど破壊兵器のような暴風が巻き起こり、校舎の倒壊が始まった。

「馬鹿野郎、なにやってる!!」

 結界の中でアリーナが怒鳴った。

「うん、これは難しいぞ。面白い」

 私はニヤッとした。

「うむ、いい顔だ。これぞ、魔法使いだな」

 ひげもじゃオジサンが呪文を唱え、今度は暴風に混ざる雪の量が加速度的に増えた。

「ほれ、お前さんも!!」

 ひげもじゃオジサンが、アリーナに笑みを浮かべた。

「馬鹿野郎、呪文も出てこねぇよ!!」

「はい……」

 私はアリーナの前の空間に呪文を浮かべた。

「……いけと?」

「……信じろ!!」

 私は強く頷いた。

 アリーナは頷き、呪文を詠唱した。

 吹雪が止むどころか、超勢いがいい太陽が空に上った。

「……おい、季節ごと変わっちまったぞ」

 アリーナがポカンとした。

「うむ、なかなかいいセンスだ。初めてとは思えん」

 ひげもじゃオジサンが笑った。

 私は遠くを見て、小さく笑みを浮かべた。

「……まさに、神の力だ。ところで、神ってなんだ。食えるのか?」

 アリーナが、笑みを浮かべている私の毛をバリカンで綺麗に刈った。

「……ダメだった?」

「ダメに決まってるだろ。これ、どう直すんだよ!!」

「これ以上は触らん方がいいだろう。今度は、大洪水になりかねん……」

 かくて、季節を変えるという荒技により、猛吹雪は終わったが数秒で猛暑に変わったため、体調を崩す者が続出した。

 また、校舎始めとした被害は甚大で、授業は可能だったが莫大な修理費は事の発端になった学生に、なにもなかった事にして丸ごと押し付けられたという。

 これもまた、魔法使いの生きる道だった。

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