第48話 猛吹雪

 魔法使いがつい大志を抱いてしまう魔法の一つが、天気を操る気象操作魔法だろう。

 これさえ出来れば、神になったも同然とか何とか抜かして、すったもんだした挙げ句大失敗して、ご近所様に多大な迷惑を掛けるのが、毎度お約束のパターンだった。

 まあ、魔法としては健全なので、許可制で実験出来るのだが、また一人やらかして術を大暴走させた結果、学校周辺は未曾有の猛吹雪に見舞われていた。

「ったく、今度はどこの馬鹿野郎だよ。チャレンジは悪くねぇけど、これは気合い入りすぎだろ!!」

 寮の窓の外は真っ白な暴風だった。

「おう、街道が吹雪で全面封鎖だって。この学校、陸の孤島になっちまったぞ!!」

 アリーナが部屋に入ってきた。

「ったく、また迷惑掛けちまったじゃねぇかよ!!」

「この辺りの風物詩だ。それより、猛吹雪で陸の孤島ってきたら……これしかないよね?」

 アリーナが暗い目つきで、ナイフを取りだした。

「……なんです?」

「……猫だけどこれで我慢しておこう。もう探偵は手配してある。心置きなく逝け」

 アリーナがナイフを片手に暗い笑みを浮かべた。

「た、探偵ってなんだよ!?」

「知らないのか。人間の社会では、こういうシチュエーションの時は誰かが殺されないといけないんだよ。それを解決するのが、なぜか都合よくそこにいた探偵って決まってるんだ。私は実はコイツが真犯人だと思ってるけどな!!」

 アリーナが素早く私を掴んでベッドに押し付けた。

「……いいよ、アリーナになら好きにされていいって決めてるもん」

 私が呟いた瞬間、アリーナが驚愕の表情で固まった。

「馬鹿野郎、お前なにいってるか分かってるのか。この私に好き勝手されて、文句もいわねぇって、相当な根性だぞ!?」

「他にどうしようもないだろ。ほら、やれよ!!」

 アリーナはナイフを放した。

 そのままドスッと自分の足に刺さったが、全く反応しなかった。

「お、おい、少なく見積もっても、それ痛いはずだぞ!?」

 アリーナは答えず、足を引きずって部屋から出ていった。

「……痛覚は正常らしいな。ならいいや!!」

 私はまた窓の外を眺めた。

 それにしても、なにをどうやったらこうなるのか分からない程、派手な吹雪だった。


「街道が封鎖されて物もこないからって、特に食い物がほとんどないねぇ」

 食堂は臨時休業のため、おやつでも買いにと購買に行ったら、食い物という食い物がほぼ品切れだった。

「まあ、そりゃそうか。いつでも、これだけはあるからいいけどさ!!」

 他に猫でもいなければまず消費されない、猫缶とちゅ~るは山ほど在庫があった。

「猫も悪くないぜ。ちゅ~るを自分で買って食う猫だぜ!!」

 ちなみにこれ、マジで美味いので猫は要注意である。

 ハマったら最後、もう止める事すら考えられなくなるのだ。

「よし、買ったぜ!!」

 猫缶一個とちゅ~る一袋を抱え、私は部屋に戻った。

「のひょ!?」

 部屋に帰ると、大量の猫缶と最近見かけるようになったドライフード、通称カリカリが山ほど置いてあった。

「……カリカリは高級品だからな。食った事ねぇよ」

 なんだか分からないので取りあえずベッドに乗ったら、雪塗れのアリーナが入ってきた。

「おう、メシがねぇと思って街までいってきたぜ。死ぬかと思ったぞ!!」

「馬鹿野郎、街道が封鎖される天気だぞ!!」

 アリーナが私を抱えた。

「寒い、風呂だ!!」

「ってか、さっきの足の怪我どうしたんだよ!?」

 アリーナは笑みを浮かべた。

「あんなもん、唾付けて気合い入れれば治る!!」

「あ、新しい回復魔法か。興味深いな……」


「よし、今日は普通に洗ってやろう。前に使ったノミ取りシャンプーのダメージが凄いぜ!!」

「……だから、無闇に使うなっての!!」

 アリーナは私を洗い、抱きかかえて湯船に入った。

「こんな感じで、サーシャのためなら何だってやるぞ。もう決めた事だからな。あんな面倒なものを押し付けたんだから」

「……面倒ね。今に始まった事じゃねぇ。猫がここにいるだけで、面倒な事しかねぇよ!!」 私は笑みを浮かべた。

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