第36話 勝手に出来た禍根
私にしてみれば不慮の事故だし、特に何とも思っていない。
しかし、聞けば一時はかなり危険な状態だったらしく、完全に治るとはいえまだそこかしこに傷が残ったままの私をみて思う所があるのか、アリーナが来なくなってしまった。
他にロクな喋り相手すらいない私としては、これは非常に寂しい事だった。
「はぁ……あんな下らんことでね。まあ、会いたくないっていうならしょうがないけど、こういう時どうしていいか分からないんだよねぇ……」
いつもならアリーナが抱えに来る時間で、寮のベッドの上で私は多きく伸びをした。
しばらく待ってもアリーナが来なかったので、私はため息交じりに食堂に行った。
いつも通りに猫缶定食なる謎のメシを終え、私はため息を吐いた。
「……全く。これじゃ、なにか研究する気も起きないから、こういうときは寮の部屋……と見せかけて屋上だな」
私は校舎の屋上に向かった。
「雪……それも大雪。さすがに、いるとは思えないけど、アイツならやりかねん」
私は大雪降る屋上に出た。
全く、こんな天気を喜ぶ猫は、変わり者のノルウェージャンフォレストキャットくらいだろう。
こんな時は、広い屋上が大変だった。
「ん?」
雪の中はっきり見えなかったが、なにか小さな球状のものが多数浮いていた。
「……よく分からんけど、いやがったな」
私は三歩踏みだし、自分の周りに結界を張った。
球状の物体が十個ほど鮮やかなフォーメーションを組み、一斉に攻撃してきた。
謎の光線が私に向かって猛射されたが、そんなもんで破られるような、ヤワな結界などではなかった。
お得意の反射型結界で攻撃をそのまま跳ね返したが、球状の物体はいともあっさり避けた。
「ほう……やるな」
跳ね返せたということは、魔法の一種だった。
「……私も座して過ごしていたわけではないのだよ。対空攻撃魔法!!」
呪文を唱えると、私の前に十本の光の槍が現れ、球体目がけて飛んでいった。
ちなみに、対地攻撃魔法もある。
なぜ分けてしまったかは、私も謎だった。
「……ほう、避けるか。だが、甘いな」
一度は避けられた光の槍は、そのまま百八十度転進して再度球体に向けて突き進んだ。
結果、十個の内五個を消滅させ、残る五個をひたすら追い回した。
「……どこまでも食らいつくぜ。そんな甘い魔法じゃねぇぞ」
しかし、球体も粘った。
本体からなにか飛び出し、気色悪い小さな光弾を無数に吐き出してきたが、その全ては私の結界が阻んだ。
そのうちに、一個ずつ球体の数が減っていき、降り積もる雪を残して静けさが残った。
「フン……。なに、いじけてやがるんだかな」
私は苦笑して、屋上を歩いた。
「うわ、サーシャ。ガードも配置しておいたのに、なんでここに!?」
やはりいつも通りの場所にいたアリーナが、慌てた。
「ん、暇だから。ガードってあの丸いヤツか。猫のオモチャにはちょうど良かったぜ!!」
「……くるなって意味で、あそこまでやっといたのに、ぶっ壊してくるか」
アリーナがため息を吐いた。
「だって邪魔だもん。ぶっ壊して悪いものを、あんなとこに置いておく方が悪い。攻撃までされたんだから、弁償はしないぞ!!」
私は笑った。
「……どの面下げて会いにいけっていうのよ」
「この面でいいじゃん。お好きな面でどうぞ。どれも、アリーナだから。とにかく暇なんだよ。どうでもいいから、なんとかしやがれ!!」
私はアリーナの足を蹴飛ばした。
「ひ、暇……今は洗えないしな」
「ああ、面倒だ。とにかく抱えてウロウロしてろ。ここは寒いんだよ。とっとと中に入りやがれ!!」
アリーナは私を抱え、校舎の中に入った。
「これ、お前が付けた癖なんだからな。もういらないっていうなら、別にそれは構わないけどよ!!」
校舎の中をアリーナに抱えられて歩きながら、私は笑みを浮かべた。
「そういう事いうかな……。必要だから悩んでるんだろ!!」
アリーナはため息を吐いた。
「悩む事ないじゃん。普通に抱きかかえればいいだけだ。猫の思考なんざ単純だから、あとの事は知らんし、暇なのがなにより問題なんだよ。考えるだけ損だぜ!!」
「……分かった、そうする。なんか、触らせてもらえるみたいだし」
アリーナは息を吐いた。
「触るなって誰がいった。ったく、人間は余計な事ばっか考えて面倒だぜ!!」
私は笑みを浮かべた。
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