第33話 いきなり忙しい

 私の論文騒動のどさくさに紛れ、どうにも評判が良くなかったらしい学長が、変わり者のひげもじゃオジサンに変わった。

 なにしろ、当然ながら、本来は職員がやるはずの、学校内で開発される魔法を取り締まる魔法査問委員会委員長と副学長を私に押し付けたほどの、もはや非常識レベルの変わり者っぷりだった。

 このひげもじゃさんが精力的に動き回り、THEエリート集団ですみたいだった学校が、ある意味で一気に崩壊を始めたのだった。

「……こ、ここが副学長室。きたことねぇぞ」

「私も連れてくる事になるとは思わなかったよ。まあ、入るぞ」

 アリーナに抱きかかえられて入ると、学長のひげもじゃさんがいた。

「よし、きたな。私の手伝いをしてもらえばいいだけだ。そんなに固くなる事はないぞ」

 ひげもじゃさんは笑い、さっそく書類の束が山盛りになっている机を示した。

「寝ないで纏めているのでミスも多いだろう。当面は、そのチェックだけでいい。この学校を、本当の意味での魔法学校にしなくてはな。では、頼んだぞ」

 ひげもじゃさんは部屋からでていった。

「なにが書いてあるんだかね。ここは、私はタッチしないよ。なんかあったら、学長に文句垂れてね。そういう立ち場だからさ」

「……いきなり怖いぜ」

 私は書類束のチェックに入った。

「……ああみえて、中身はまともっぽいぞ。やろうとしてる事が、なかなか面白いぜ!!」

「そりゃ、ホントに変なヤツを学長にするわけないだろ!!」

 アリーナが笑った。

「徹夜でこれ纏めたってマジかよ。半端ねぇな……」

「まあ、ただの髭オヤジじゃねぇとだけいっておこう。サーシャに興味を持ったから、受けてくれたんだぞ。猫だからじゃなくて、魔法使いとしてね。あの人、そんな所みないから」

 アリーナが笑みを浮かべた。

「なに、魔法使いとして認めてもらっちゃってるの?」

「面白いって。認めてるかは、分からないけどね!!」

 私は笑みを浮かべた。

「面白いね。最大級の褒め言葉だな。よし、とっとと片付けるぞ!!」

 私は書類束のチェックを一気に片付けた。


「……というわけで、問題となりそうな魔法二十三個の概要はこのような感じです。解析結果などは、お手元の資料にあります」

 職員のオッチャンが説明を終えた。

 私の手元にも、全員と同じ資料がある。

 さすがにここはアリーナは入れなかった、魔法査問委員会が行われている会議室だった。

「まあ、今回は正直いって大した魔法ではありません。委員長決裁でいきなり結論を出してもよいかと」

 その場にいた五人の視線が私に集まった。

「……確かにこれ自体は大した事はありません。しかし、議案の十番と二十一番の魔法が気になります。ぶっちゃっけ、この委員会で問題なしと判定させるためのフェイクです。簡単に別の魔法に直せます。ロクなものではありません」

 他の四人が資料を漁った。

「……なるほど、気がつかなかったですね。この二件は即刻使用禁止命令を出します。危なかったですね」

 その職員の笑みに、私も笑みを返した。


「うぉぉぉ、やっと自分の時間だぜ!!」

「サーシャに査問されるのかよ……」

 アリーナに抱えられ、私は自分の個人研究室に行った。

「入り口にいた野郎とか、邪魔なのは排除しといたぜ!!」

「は、排除ね……」

 扉の鍵を開けて中に入ると、特に異常はなかった。

「今まで入れなかったから、ちょっと待ってろ」

 入り口に私を置いて、アリーナが室内の点検を始めた。

「ああ、やっぱりね。換気口使えば余裕だから……」

 アリーナがそこら中に仕掛けられていたなにかを、無造作に外して放り投げ始めた。

「……こ、今度なに?」

「うん、なんだかんだいって、気になるんじゃない。魔法工学が生み出した盗聴器だな。盗み聞きするための機械だ。全部、ぶっ壊しておいたから問題ないぞ」

 アリーナは笑みを浮かべた。

「なんだ、その陰湿な野郎はよ。ったく、勘弁してくれ!!」

「まあ、私が徹底的にやっておくぜ。今後増えるかもよ。副学長と魔法査問委員会委員長じゃね。どっちも、知りたい情報満載だもん」

 アリーナが笑った。

「……なかなかヘビーだぜ」

 私は苦笑して返した。

 どさくさに紛れて、人間の社会人っぽい事やってないか?

 そう思った私だった。

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