第32話 新学長、躍動

 ちょっとした論文のはずが、なにやら面倒な事になった。

 これを禁忌にしている意味が分からなかったが、こんな事で人間社会から追い出されるのは嫌なので、早々に論文を引っ込める事にした。

 すでに影響は出ていたが、最小限に留まればと思っていた。

「おい、さっきの封筒をちょっと貸せ」

 アリーナが戻ってきて、封筒に入っていた二枚の紙をみた。

「魔法査問委員会が分裂したまま出しやがったか。学長はこっち側ね……元々なにかとあれだったからな。ついに、明確に王家に喧嘩売りやがったな。いいだろう」

 それだけ言い残し、アリーナは部屋から出て行った。

「おいおい、穏やかじゃねぇぞ。違う戦いに発展しやがった!?」

 もはや、私がここにいるのは害悪にしかならないかもとさえ思えてきた。

「……他に当てもねぇしな。どうしたもんかね」

 答えなどでるわけもなく、私はベッドで丸くなっていた。

 しばらくすると、ひげもじゃの絵に描いたような魔法使いっぽい人がやってきた。

「君になにかと批判的だった前学長は更迭されたようだ。私は単に魔法が好きなだけのクソジジイなのだがな、なぜか新学長に指名されてしまってな。なぜ、取り消し文など書いたのかね。なかなか、よく書けていると思うのだが?」

「え?」

 私は思わず顔を上げた。

「誰に吹き込まれたかしらないが、私は禁忌などくそ食らえなのでな。知らないのか、君の論文は今までにない斬新なもので、非常に好評なのだよ。私も直接会ってみたかったのだが、こうして叶ったわけだ。恐らく、呪文まで完成していると推測しているがね、発表するのはここまでにした方がいいな。なにに使われるか、分かったものではない」

 ひげもじゃの人は笑みを浮かべた。

「こんなのを学長にしてしまったのだぞ。まあ、好き勝ってやらせてもらうとするか。この学校の無駄にお堅い校風をぶっ壊すところから始めようか。好きに研究するといい。なんなら、魔法に造詣が深いということで、魔法執行委員会の委員長でもやってもらおうかな。この学校で開発される魔法の取締役だ。なかなか楽しいと思うぞ。はい、決定!!」

 ひげもじゃの人は笑みを浮かべて去っていった。

「……今、勢いでなんか大役を押し付けられなかったか?」

 半ば呆然としていると、笑みを浮かべたアリーナが入ってきた。

「まあ、喧嘩売る相手を間違えたって事だ。どうだ、変な野郎だろ!!」

「……ねぇ、魔法執行委員会ってなにやるの。こその委員長とかいうの、問答無用で押し付けられたけど」

 アリーナの顔色が悪くなった。

「馬鹿野郎、サーシャなんかにやらせたら、妙な魔法で溢れかえっちまう。ちょっと、待ってろ!!」

 アリーナが慌てて飛び出ていった。

「……おい、私を何だと思ってやがる。まあ、否定はしないけど」

 私は笑みを浮かべた。

「まあ、今までよりは生活しやすくなるって事か!!」

 しばらくして、アリーナがうなだれて帰ってきた。

「……藪蛇だった。助手が欲しいから、副学長も兼任だってよ。この学校、崩壊するかもな」

「……よく分からないけど、私って妙に出世しちまってないか?」

 アリーナは私を抱えた。

「洗ってやる。毛剃りもサービスだ」

「け、毛剃りは要らん!?」

 アリーナは私を風呂に引き込んだ。

 結局、論文はなんかいいことにされ、大量のオマケがついた。

 一応いっておくが、私は一般課程に所属する駆けだし魔法使いだ。

 いいのか、これ……。

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