第28話 偉い人来襲

 あとで知ったが、学園祭が一番大きな学校行事だったらしい。

 終わってしまえば、なんてことのない日常だ。

 実のところは、世間様は年末に向けて突っ走っているようだが、猫にそんなことは関係ないし、この学校もあまり変化はない。

 要するに、日常通りということだった。

「サーシャ、ついにやっちまったな」

 寮の部屋のベッドに座り、私を膝の上に乗せたアリーナが笑った。

「……し、知らねぇよ、どっかが勝手になんか鳴っちまうんだよ!!」

 私は赤面して俯いた。

「ついに、一年掛けてゴロゴロいわせたぞ。これ以上の達成感はないぜ!!」

「馬鹿野郎、もっと他の事に燃えろ。こんなどうでもいいことに、情熱を燃やすな!!」

 アリーナは笑みを浮かべて、私の顎の下をそっと撫で撫でした。

「……いきなり猫っぽく扱うの止めて!?」

「猫は猫だ。やっと、夢が叶ったぜ。サーシャがゴロゴロいうまで、死ねないって思ってたからな!!」

 アリーナは私を抱えて部屋を出た。

「また風呂か?」

「それはあとだ。年末で暇だからって、私の両親がくるとか抜かしてさ、もう着くんじゃないの?」

 アリーナは校舎を歩き、入った事すらないエリアに入った。

「おーい、どこ行くんだよ?」

「タダの王女って事は、両親は国王と王妃だ。警備の問題で、変な場所を使えなくてよ」

 アリーナは笑みを浮かべた。

「おう、なんか偉い野郎だってのは聞いてるぞ!!」

「偉くねぇよ。ただのジジイとババアだ!!」

 見慣れぬ場所を歩いていると、なんか黒い服をきたゴツい人たちが増えてきた。

 ノホホンとしていたアリーナの表情が、みた事ないような引き締まったものに変わった。

「……」

「……ちょっと黙ってろ。ここからがシンドイぜ」

 こそっとアリーナが漏らした。

 黒服の人たちが姿勢を正し、アリーナは無言で頷いて通過した。

 こんな部屋あったのかというくらい立派な扉の前に来ると、待機していた黒服の人が扉を開けた。

 アリーナが中に入ると、威厳の塊みたいなオッチャン? となんか優しそうなオバチャン? がいた。

「アリーナ、便りもロクに寄越さず心配していたぞ」

 もはや威厳しかないオッチャン? が困ったような表情を浮かべた。

「父上、申し訳ありません。学業が忙しかったもので」

 アリーナが別人になってしまった。

「うむ、勉学に励むのはよいことだ。して、その変わった猫とというのはその者か?」

 ……いきなり、飛び火した。

「はい、大変人見知りでして、今は固まっていますが楽しい馬鹿野郎……失礼。楽しい者ですよ」

 アリーナの表情は、全く変わらなかった。

「そうか……」

「私が抱いても大丈夫かしら?」

 ここで、控えていたオバチャン? が登場した。

 質問形だが、アリーナからもぎ取るように私を抱きかかえた。

「正直な意見を聞こうかな。アリーナはちゃんとやっていますか?」

 ここにきて、アリーナの顔が僅かに引きつった。

「……やはりな。若干だが、アリーナの顔色が変わったぞ。正直に申してみよ。なに、そなたには悪いようにはせん」

 四つの目が私を見つめた。

「……コイツなりに頑張っていますよ。私の事もよくしてくれるし、いい奴だと思います」

 四つの目がアリーナに向いた。

「……な、なんです?」

 アリーナの落ち着きがなくなった。

「うむ、嘘ではないな。想定外の事を言われて、見事に動揺しておる」

 オッチャン? が笑った。

「ええ、分かりやすいですからね。なかなか、いいお友達のようですね。なにより、この子といいましょうかね。第三王女ですから、私の娘ですし」

 オバチャン? が笑った。

「……それ、マジ?」

「はい、最初は何事かと思ったのですが、なかなか賢そうでいい子じゃないですか。勝手に養子縁組して、あなたは王族なのですよ」

「か、勝手に!?」

「うむ、アリーナがなにかコソコソしているのでな。なにかと思えば……。今もなにかコソコソ大きな事をやろうとしておるようだぞ。勘づいているが、あえて止めてはおらぬ。面白そうだからな」

 威厳のオッチャン? が笑った。

「と、止めて!?」

「いや、こんな面白い事はそうそうないぞ。これは、お手並み拝見といこうか。そう簡単ではないからな」

「……バラしちゃうし」

 アリーナがため息を吐いた。

「て、テメェ!?」

「いや、多分無理なので問題ない」

「はい、出来たら面白いですが、周りが許さないでしょうね」

「お、おい、なにを企んでいる!?」

「……ノーコメント」

 アリーナは遠くを見た。


「あー、疲れた。年中あれなんだぜ。やってらんねぇよ……」

 寮の私の部屋にくると、アリーナはベッドに転がった。

 私を抱き寄せて、一息吐いた。

「ってか、テメェ。私になにさせようってんだよ!?」

「大した事じゃないって。ここを卒業しても、家に置いときたいだけだよ。嫌じゃないだろ?」

 アリーナが笑みを浮かべた。

「……ま、まあ、今さら実家に帰る意味がないしな」

「だろ。個人的にってのもあるけど、こんな有能な馬鹿野郎を野放しにするか!!」

 アリーナが笑った。

「有能な馬鹿野郎ってどっちだよ。まあ、馬鹿野郎なのは間違いない!!」

 私は笑みを浮かべた。

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