第29話 年末のパーティー

 この巨大学校にも年末の波がきた。

 実家に帰って休暇を楽しむ者、そんなの関係なく研究を続ける者、実に様々である。

 そして、私が人間社会に飛び込んで一年でもあった。

 なんとか無事にやってきたという感じであり、その影にはアリーナの存在が大きかった。

 なんだかんだで、コイツがいなかったらこうはなっていないはずだった。

「なに、家に帰らないの?」

「帰るわけないでしょ。あんな堅苦しいところ敵わん!!」

 私の問いにアリーナが嫌そうに返してきた。

「あれま……まあ、私がいうことじゃないけどさ!!」

 私は組み立て途中の呪文を組み始めた。

「サーシャは年末だろうと相変わらずか」

「うん、そもそも猫に年末だからってなんかないしね。いつもと変わらん!!」

 アリーナは少し考える素振りを見せた。

「サーシャも一年か。なんかお祝いしよう。頭数集めて、あそこだな」

「ど、どこ行くの!?」

 アリーナはそれには答えず、私を抱えて部屋から出た。


 雪降る校庭に集まったのは、私たちを会わせて五人だった。

 挨拶もそこそこに用意されていた馬車に乗り、あらかじめもらっておいた外出許可証で学校の外に出た。

 街道に出ると積もっていた雪を巻き上げ、馬車は一気に速度を上げた。

 天候を考えてか幌馬車だったが、寒いものは寒かった。

「……寒い、暖房」

 私は呪文を唱えた。

「おっしゃ、快適気温だぜ。どこにいくんだよ!?」

 アリーナは笑みを浮かべた。

「大したもんじゃないけど、お祝いに騒ごうぜってね!!」

 アリーナはメイスをドガッと置いた。

「馬鹿野郎、そういう騒ぎは止めようぜ!!」

「ちなみに、今回呼んだのは攻撃魔法のいい感じの使い手だぜ!!」

 なにかをやる気満々なアリーナがいった。

「な、なにをぶちのめしにいくのよ!?」

「最高の相手だぜ。もっとも、ぶちのめされる可能性もあるけど、戦いってのはそういうもんだぜ!!」

「こ、こら、なにを相手に暴れようってのよ!?」

 それには誰も答えず、馬車は街道を突っ走った。


 どこまでも走る馬車は、やがて山道に差し掛かった。

 さすがに積雪は深かったが、なんでかこの馬車を引く馬はパワフルに雪を蹴散らし、ど派手に雪煙を上げながら突き進んでいた。

「……馬の気合いが半端ないぜ」

「そりゃ対戦相手がねぇ。サーシャ、最大級の結界を」

 アリーナにいわれ、私は呪文を唱えた。

 青い結界壁が馬車を覆った瞬間、なにもかもぶっ飛ばすような、猛烈な火炎がどこからか飛んできた。

 間髪入れず、三人が強烈な攻撃魔法を放った。

「な、なにが!?」

「いや、この先でなんかの鉱石を露天掘りしようとしたら、レッドドラゴンが出ちゃったらしくてさ、以来どうしようもなくてほったらかしなんだよね。邪魔だしパーティやるにはいいかなって!!」

 アリーナは笑みを浮かべた。

「……よく分からないんだけど、地上最強の生物とか?」

 あまり興味がないので、よく知らなかった。

「概ねそんな感じ。大丈夫、気合いで押しまくれば倒せる!!」

 再び強烈な火炎がきた。

「……気合いで勝てる気がしないぞ」

「問題ないって!!」

 結界の防御力に任せて馬車が進んでいくと、赤い鱗も鮮やかなデカイ生き物がいた。

「馬鹿野郎、あんなの気合いでどうにかなるか!!」

 攻撃魔法使いチームがガンガン撃っているが、効いている様子はない。

「気合いが足りねぇよ。攻撃魔法ってのは、こう撃つんだ!!」

 アリーナが一個だけ使える強力無比な攻撃魔法を放った。

 爆風で馬車がぶっ飛ばされそうになったが、なんとか持ちこたえた。

 そして、赤いヤツも持ちこたえていた。

「うわ、ヤバい!?」

 ここにきて、やっとアリーナが慌てた。

「ったく、しょうがねぇな。学校じゃ色々ぶっ壊すから地下爆発でしか使えなかったけど、ここなら心起きなくいけるぜ!!」

 私は呪文を唱えた。

 赤くて大きなヤツに白い光が収束し、それが一気に弾けた。

 辺りの視界が真っ白にになり、結界で守られた馬車がそのままぶっ飛んだ。


「イテテ……」

 いい感じで馬車の中で転がり、私は身を起こした。

「な、なに、今の……」

 馬車の中で変な格好になっていたアリーナが身を起こした。

「私が唯一使える攻撃魔法だ。あらゆる物質の分子間結合を崩壊……要するに、あらゆるものを元からぶっ壊す。反動の衝撃がデカ過ぎるのが欠点かな」

 私は笑った。

 当然、分子レベルで崩壊させられた赤いヤツなど、跡形もなく消えていた。

「さすが、サーシャというか、やれば半端じゃないね。よし、馬車を起こして帰ろう!!」

 アリーナが笑った。

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