第15話 ある意味事故

 基本的に魔法使いしかいないこの学校では、日夜休む事なく新しい魔法が開発されているといってもいい。

 もちろん、好き勝手作っていいわけではなく、簡単にこういうのはダメという規定がある。

 私は知らないが、どこかで厳しく監査しているらしく、うっかりこういうもの作ってしまうと、ものによっては大事になってしまうのだった。

「……この辺りがあやふやなんだよな。ここをしっかりさせれば、かなり画期的な回復魔法が出来るんだけどな」

 個人研究室で、私は新しい回復魔法を作ろうとしていた。

 計算通りなら、生きてさえいえば何とかなるような、極めて強力な回復魔法になるはずだった。

 それほどまでに、私はあの救えなかった一件が引っかかっていたのだ。

「……基本的に回復魔法って難しいんだよな。ぶっ壊す方は楽なんだけどねぇ」

 私は苦笑してノートに書きかけの呪文の続きを考えた。

「……あの要素を入れちゃえば楽なんだけど、あれ自体が禁術指定だからなぁ。あれを回避して似たような事か。出来るとは思うけど、やってる事が似てるから引っかかっちゃうかもな。際どい魔法だぜ!!」

 しばし悩み、私は続きの呪文を書いた。

「……アウトかもね、これは。かといってな、代替え案が思い浮かばん。こういう時は、教師に確認するべきだな。ひっそり、妙な魔法を抱えてバレたら面倒だ」

 私は個人研究室を出た。


「おう、どっかいくのか?」

 廊下の途中でアリーナにあった。

「うん、新しく回復魔法を作ったんだけど、禁術ギリギリっぽいから教師にでも確認しようかと」

 アリーナの顔色が変わった。

「……どんなの、ちょっと見せて」

 いつになく真剣なので、私は戸惑いながらもアリーナにノートを見せた。

「……バカでも分かるぞ。この呪文、禁術どころじゃない。ド直球のあの要素を回避した結果、別の要素でそれを実行してるだけだぞ。これは、回復魔法なんかじゃない!!」

「……アリーナで分かるほど、ある意味凄いのか?」

 アリーナがため息を吐いた。

「ちょっとぐらい違っても、こういう魔法って呪文構文がほぼ同じなの。何度みたか分からないよ。魔法使いなら、誰でも一回は考えそうなものだしね。やってしまったか……」

 アリーナは深くため息を吐いた。

「な、なんか、マズい事やっちゃった?」

「ほら、自覚ないんだよ。つまり、意図的に作ったわけじゃない。だけど、やっちまったら、そんな言い訳通用しないんだよね。ああ……どうしよう」

 アリーナは私を抱え、寮の部屋に連れていった。


「ずばり、なんの魔法だか分かってる?」

 アリーナが頭を抱えた。

「ん、超絶強烈な回復魔法のはずだけど……」

「……回復魔法ね。ややこしくて難しいから、なんかの拍子にこんなの出来ちゃうこともあるか」

 アリーナはため息を吐いた。

「……私、なにやらかしちゃったの?」

「……禁術中の禁術、蘇生魔法だよ。よりによって、これを」

 アリーナが頭を抱えた。

「……んな妙なもん作っちゃったの?」

「……ほら、この程度の自覚だよ。完全な事故みたいなもんだよ。でもね、作っちゃった事実は事実なんだ。どうなるか、分かってる?」

 私は首を横に振った。

「……よりによって、タダの王女の前でやっちまったよ。これ、とっ捕まって死罪だよ。重罪なんだよ。作っただけで!!」

「そ、そんな……」

 私はアリーナに抱かれたままうなだれた。

「まいったな……個人的には見逃したいってか、悪気ないし見逃すべきなんだけどさ。この国の法を私が盛大にぶち破ったら、それはそれでシャレにならないし。特にこういうことはね。まだ、教師に見せる前で良かったぞ。それこそもう、ここから迷わず追い出されていたからな」

 アリーナが笑みを浮かべて、私を撫でた。

「……どっちみち同じじゃん。そんなつもりじゃなかったんだけどな」

 私はため息を吐いた。

「別に監視するためにきてるわけじゃないんだけど、こういう事が起きたら分かる範囲で家に報告しないといけないんだ。サーシャが猫で良かったよ。まだ、なんとか報告の仕方があるからさ」

「……ありがとう」

 私はため息を吐いた。

「但し、保証はしないぜ。そのくらい、その魔法はヤバいってのは分かってね。妙な魔法じゃ済まないから」

「……分かった」

 アリーナはベッドに私を置いて、ため息交じりに部屋から出ていった。

「……ところで、蘇生魔法って凄いの。ここまでするほどか。エラいものを生み出していまったのか。作っただけで死罪って」

 私は丸くなってため息を吐いた。


「さすがに、事が事だけに動きが早いぜ。当然、ノートも一緒に送ったぞ。王宮魔法使いが総出で検証した結果、蘇生魔法ではないって結論が出たぞ。でも、かえってなんの魔法か分からないって。とんでもない、なんかの効力はあるだろうって。なんかの効力って、なんだよ!!」

 翌朝、部屋にきたアリーナが怒鳴った。

「……なに、その微妙な子。回復魔法以外には、絶対にならないはずだぞ。でも、なんかってなんだよ!?」

「そりゃこっちが聞きたいよ。王宮魔法使いがガチで検討して分からなかったんだぞ。お前、どんな脳みそしてるんだよ!!」

 アリーナが私を抱えた。

「まあ、無事でよかったぜ。自分の手でコイツを地獄送りにする所だったんだぞ!!」

「な、なんで、地獄なんだよ!?」

 アリーナは迷わず風呂に向かっていった。

「今日は全身の毛を毟ってやる、そのくらいの事をしたんだぞ!!」

「馬鹿野郎、毛なしの猫じゃ格好付かねぇだろ!!」

 アリーナは容赦なく風呂に私を引きずり込み、全身の毛を毟った挙げ句綺麗に剃り上げた。

「……な、なにすんの?」

「馬鹿野郎、私がどんな思いしたと思うんだよ。それでも、足りねぇよ!!」

 アリーナは私を掴み、湯船に沈めた。

「ゲホゲホゲホ!!」

「ったく、勘弁しろよ。はぁ……こっちが死にそうだったぜ」

 アリーナが私を抱いた。

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