第14話 選択科目という名の「仕事」

 参加は任意だが、一般課程に上がると選択科目と称して、様々な「仕事」が舞い込んでくる。

 授業の一環でもあり、魔法使いの仕事でもあるため、内容に応じてちゃんと報酬も出る。

 アリーナが持ち込んできたのは、そのとある選択科目だった。

「おい、やるぞ。貴様に拒否権はない!!」

「お、お前な……」

 アリーナが持ってきた紙には、学校近くにある魔法薬の原料が採れる洞窟に住み着いてしまったゴミ掃除。すなわち、魔物退治だった。

「暴れるチャンスだぜ。やらない手はない!!」

 アリーナが早くもノリノリだった。

「こら、猫になにやらせるんだよ。食われちまうぞ!!」

「食われたら食い返してやる。とにかく行くぞ。二人以上じゃないとダメなんだ」

「……頭数合わせかよ」

 アリーナが私を抱きかかえ、教室を出た。


 問題の洞窟は、学校のすぐ裏手にあった。

 滅多に使わない裏門を出て、山とも呼べないような小山を登れば、問題の洞窟があった。

「んじゃまあ、サックリ片付けようぜ。魔物っていっても、野生動物に毛が生えた程度って書いてあるし、程よくいい感じだろ!!」

 アリーナは上機嫌だったが、私の勘が捉えた情報はまるで違っていた。

「……私の勘を信じるかい。猫としての?」

 私が問いかけると、アリーナは不思議そうな顔をした。

「おい、どうした?」

「……私の危機回避能力が、ここには絶対近寄るなっていってる。これ、半端じゃないよ」

 思わず身震いすると、アリーナが笑みを浮かべた。

「だったらなおさらだな。こんな選択科目、よそに回せないからね」

 アリーナは愛用のメイスを取りだした。

「……もはや、魔法じゃないけど、いくならそれしかないだろ。ちょっと待て」

 私は呪文を唱え、アリーナのメイスに細工した。

「攻撃力倍加以上ってところか。こういうの嫌いなの知ってるけど、これでも嫌だぞ!!」

「しょうがねぇな。私がこういうの嫌いだって知っててやった事は、それなりの野郎が潜んでるって感じたんだろ。こういう時は猫の勘だぜ。とっとと片しちまおう」

 アリーナが笑みを浮かべた、


「うお、いきなりでた!?」

 洞窟に入る早々、暗がりがた四つ足の何かが三体出現した。

「獣に毛が生えたか。どんな獣を参照したんだかね」

 アリーナがメイスを片手に笑みを浮かべた。

「……気休めの防御魔法」

 ないよりマシ程度の防御魔法をアリーナにかけ、アリーナは跳躍して一体を殴り倒し、もう一体に牽制の一撃を入れた。

 残る一体がアリーナを狙ったところで、私の睡眠魔法が発動し、その一体は地面に倒れた。

 その間に先ほど牽制した一体をアリーナが殴り倒し、睡眠魔法でお休み中の残り一体に永遠の睡眠をプレゼントした。

「おう、この調子ならいけるぜ。どんどんいくぞ!!」

「……私は帰りたい」

 しばらく進むと、次も同じ魔物で五体。

 間髪入れず、一斉にアリーナに襲いかかった。

 咄嗟に唱えた睡眠魔法で二体はお休みしたが、三体が纏めてアリーナを襲った。

「甘いんだよ!!」

 軽くステップを踏むように攻撃をかわし、片っ端から殴り飛ばした。

 地面で寝ている二体の頭を叩き潰し、アリーナは笑みを浮かべた。

「よし、いいかんじだぜ。ガンガンいくぞ!!」

「……アリーナがノリノリになっちまったぜ。こりゃ止まらねぇ」

 魔物の数は多かった。

 種類は同じだが、アリーナにも手傷が増えてきた。

「……覚えて良かった回復魔法」

 私はアリーナの傷を癒やした。

 ど派手な攻撃魔法しかないので、こういう時に使えないのが難点だった。

 アリーナがメイスでひたすらぶん殴りまくるのに任せ、私たちは洞窟の奥に向かった。

「たまんねぇ、普段こんなにぶん殴れねぇもん!!」

「……普段やったら、偉い騒ぎになるぞ」

 洞窟の中を進む内に、いきなり脇から飛び出て来た魔物にアリーナが押し倒された。

 同時に現れたもう一体が、まごう事なき私を狙った。

「……やめてください。食っても美味くないです」

 とかいったところで、無駄だった。

 徐々に接近してきた魔物の顔面に、容赦なく猫パンチを叩き込んだ。

 ついでに身構えて威嚇してみたが、多分、ある意味可愛いだけだった。

「く、くそ、せめてラグドール並みに体がデカければ……」

 ……そういう問題ではなかった。

「こ、こうなったら……」

 なにも思い付かなかったが、なんかやろうとしたところを、魔物の前足で押さえられた。

「……終わった」

 私は身を固くして、死んだフリを決め込んだ。

 魔物が体重を掛けたので、中身が出そうになったが気合いで耐えた。

 そこに、血まみれでブチキレたアリーナが、まずは素手で殴り飛ばした。

「す、素手!?」

 吹き飛んだ魔物を、とにかくメイスでぶん殴りまくった。

 あえて描写はしないが、凄まじい状態になった魔物を蹴飛ばし、私を抱え上げた。

「よし、生きてるな。よくやった!!」

「……回復しておこうね」

 私はアリーナの傷を治した。

「ったく、不意打ちかましてくれるとは生意気な。いくぞ!!」

「……私は多分一度死んだよ?」

 魔物は今のところ一種類だけだったが、とにかく数が多かった。

 そのことごとくを、アリーナがメイスで撲殺していた。

「おらおら、こんなもんか!!」

「……すげぇ楽しそうだぜ」

 私はあくまでも補助だった。

 使える魔法の質を考えても、それが自然だった。

 ここぞとばかりに現れた十体くらいを、私が数える前にアリーナが撲殺してしまった。

「おらぁ、次!!」

「……いや、もういいだろ」

 もはや止まらないアリーナにくっついて洞窟の最奥部にいくと、強烈な魔力を感じる明らかに魔法使いが三人立っていた。

「ストップ、その勢いで突っ込んだらやられる!!」

 アリーナの動きが止まった。

「ヤバい、対魔法使いは苦手だ」

 笑みを浮かべ、私がアリーナの前に立った。

 三人が同時に呪文を唱えたが、私の方がわずかに早く完成した。

 三人が同時に放った光弾が、そのまま跳ね返って襲いかかった。

 すんでのところで避けたが、明らかに動揺の気配を感じた。

「撃てるもんなら撃ってみろ。こんなの使うヤツいないだろ!!」

 その隙にアリーナが動いた。

 反射的な動きで三人が攻撃魔法を浴びせたが、全て跳ね返って自爆した。

「こりゃいい!!」

 ぼろぼろになった三人にアリーナが襲いかかり、瞬く間に倒した。

「はい、ゴミ掃除。また、妙な魔法作ったな!!」

 アリーナが笑った。

「防御魔法の一種だよ。あまり強力なのは跳ね返せないけど、あくまで私の魔力基準だからねぇ。大体、返せるんじゃないの?」

「そりゃ頼もしい。自爆って!!」

「跳ね返すなんて馬鹿野郎がいるなんて、普通は考えないからね。よし、帰ろう!!」

 こうして、私たちの思いの外熱かった選択科目は終わった。

 なお、攻撃魔法など撃った魔法使いへの礼儀として、アリーナがすべからく倒してしまったため、この事件の詳細は不明である。

 魔法で攻撃してきたヤツに手加減無用というのが、人間社会の常識だった。

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