第10話 試験で起きた事

 学校で学生ということは、当然試験というイベントがついてまわる。

 明確に決まっているわけではないのだが、少なくとも季節の変わり目くらいには必ず正規の試験が行われる。

 ここで下手な成績を取ると、場合によっては見込みなしとされて強制的に退学になってしまう。

 事前予告はあるので、これがくるとまさに戦闘状態になるのが常だった。

「おい、ここなんだよ。いじめか?」

「馬鹿野郎、もう何回説明したよ!!」

 勉強をするという、極めて珍しいアリーナに付き合いながら、私も自分の勉強せっせとやっていた。

「何回聞いたって分からんものは分からん。サーシャの教え方で教わって理解出来ないということは、これの存在自体が間違えているということだな」

「いや、ここ大事だから。これ間違ってたら、魔法がなくなるから!!」

 つまり、そのくらい基礎中の基礎なのだが、アリーナには難しいようだった。

「……ヤバい、落第するぞ。シャレにならん」

「その危機感あるなら、メイスでぶん殴ってないで勉強してくれよ……」

 アリーナはため息を吐いた。

「……なんか猫っぽい野郎と魔法ときたら契約だな。やれ!!」

「お、おい、しっかりしろ。目が虚ろだぞ!?」

 アリーナは私を抱えて椅子から立ち上がった。

「……これさえあれば、落第はしないぞ」

「お、お守りみたいに扱うな!!」

 アリーナは私を抱えてフラフラと教室を出た。

「ダメだ、顔でも洗ってリフレッシュしよう。コイツの」

「い、意味ねぇだろ!!」

 洗面所にいって、私の顔にしこたま水をぶっかけ、アリーナはさっぱりした顔になった。

「よし、スッキリしたぜ!!」

「な、なんでだよ!?」

 教室に戻り、アリーナは再び勉強を再開した。


 基本的に、試験は座学だけだ。

 ここがしっかりしていれば、魔法を使う事に対して問題がないからだ。

 実際の魔法については、自己責任という考えもあった。

 極端に言えば、一個も魔法を使えなくても、知識だけで卒業までこぎ着ける事も可能だった。

「……なんだ、やけに気合い入ってる問題だな。解けるけど」

 中間試験といわれるが、これで二度目だった。

 今回はいきなりレベルが上がっていた。

「……こんな事授業でやったっけ。解けるけど」

 こんな調子で、妙にレベルアップした問題が並ぶ問題用紙に疑問を覚えつつ、私はせっせと解答用紙に記入していた。

 試験時間が終わり、解答用紙の回収が終わった頃、監督していた教師に別の教師がすっ飛んできた。

 どうも、一個上の課程である一般課程の問題と間違えたらしかった。

「……どうりでな、やけにレベルが高いと思ったぜ」

 当然再試験かと思ったら、せっかくやったしレベルをみようと、監督していた教師が手慣れた勢いで採点を開始した。

 やっぱりなという顔をしていたが、いきなり少し驚いたような顔をした。

「サーシャ君、怒濤の満点だ。論説問題もツッコミどころがない。もはや、この見習い課程でやる事はないかもしれんな」

「ぎゃあ!?」

 思わず声が出た。

「……おい、抜け駆けする気かよ」

 アリーナが低い声でつぶやき、メイスを抜いた。

「……し、知らないよ。解けるものは解ける!!」

「……テメェ」

 気がつくと、クラス全員が同じような顔で私をみていた。

「……超絶目立ってしまった」

 私は慌てて机の下に潜った。

「諸君もこのくらいは解いて欲しいのだがな。魔法使いとして、最低限の知識だからな。いつまでも、見習いでいたくはないだろう。もう一人、惜しい学生がいてな。アリーナ君だ。付け焼き刃のような感じは受けたが、点数自体は悪くない。まあ、サーシャ君に教わった事は、論説の癖をみて明白だったがね。今回はミスだったが、最終的にはこのように一つ上の課程の問題で試験をして、結果次第で昇級という形だったのだ。この規定に則れば、この二名は見習いを一抜けだな。恐らく、この学校始まって最速の昇級だがね。まあ、アリーナ君はオマケという感じではあるが、サーシャ君と離すとバカになってしまうからな」

 教師は笑った。

「二名はあとで職員室にきなさい。一般課程の説明をしよう」

「……サーシャ、後で校舎の裏にこい。ぶちのめしてやる」

 アリーナが半眼で机の下の私をみていた。

「し、知らねぇよ!!」

 こうして、私とアリーナは見習い課程を無事に終えた。


「……おい、見習い課程はお遊びみたいなもんだけど、一般課程からが本物の魔法使いとしての修行だぞ。分かってるか?」

 屋上でアリーナが遠くをみながらいった。

「……知らねぇよ、問題をミスったセンコーが悪いぜ」

 私も遠くをみながらいった。

「……おい、見習い課程の標準在籍期間知ってるか。大体三年以上だぞ。私たち、まだ半年くらいだぞ。お前とセットにされて持っていかれたぞ。どうすんだよ?」

 アリーナがため息を吐いた。

「理由がバカになるからだもんね。微妙にも程があるよね」

 私は頑張って笑いを堪えた。

「……いや、お前と一緒なのはいいんだ。なんだよ、バカになるって。あのな、私だって一応は勉強してるんだぞ。それなのに、お前のお陰になっちまってるぞ。おい」

「一応はじゃダメだな。そっちがメインだ」

 アリーナはため息を吐き、私はとにかく笑いを堪える事で必死だった。

 こうして、私たちはどさくさに紛れて、一般課程に昇級したのだった。

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