第11話 一般課程こもごも

 よく、見習い課程はモノになりそうなヤツを、見極めるためにあるといわれている。

 ここから一般課程に上がった時点で、この学校では実質的に一端の魔法使いとみなされ、色々な意味で相応の扱いを受ける事になる。

 例えば、こんなものもあった。

「……すげぇ、個人研究室だってよ。なんか、扉に名前とか書いてあるし」

 その扉にわざわざつけて貰った猫用通路を通って、私は中に入った。

 そんなに広いわけではないが、何かをネチネチ追求するにはよさそうな雰囲気だった。

「い、いいのか、こんな好待遇。まあ、使っていいっていうならいいんだろ。なにしてくれようか……」

 色々考えていたら、アリーナが入ってきた。

「おい、別荘が出来たな。バーベキューでもしてやるか?」

「馬鹿野郎、苦情の嵐だ!!」

 アリーナが私を抱えた。

「まあ、ここはあとで考えろ。お前、寮の部屋の壁で爪研ぎしただろ。管理人のオバチャンが激怒してたぞ

「……だって、猫だもん」

 アリーナが私を寮に連れていくと、管理人のオバチャンが出てきてニヤッと笑みを浮かべた。

「……ブチ殺されるかも」

「じゃあ、私ははこれで」

 オバチャンは立ち去ろうとしたアリーナの腕を掴んだ。

「え?」

 一瞬驚いたアリーナの顔面に、オバチャンの拳がめり込んだ。

「……猫はぶん殴れないからね」

 オバチャンは白い歯をみせた。

「……」

「ご、ごめんね!!」

 アリーナは無言で私を抱えて、寮の部屋に行った。


「わ、私が猫であるがために……」

「ああ、このくらいね。すっかり飼い主扱いされてるな」

 アリーナが苦笑した。

「……私なんかといるからだぞ」

「んなもん、最初から分かってる。問題はない」

 アリーナが私を抱きかかえた。

「しょうがないな。爪研ぎ器を買ってやろう。猫って何で爪研ぎすんの?」

 アリーナが聞いた。

「……色々意味はあるぞ。なるべく高い所にやって、自分はこんだけデカいんだぞ。どっかいけ、とかいう意味もあるし、まるで皮が剥けるみたいに、定期的に爪が生え替わるんだ。その古い爪を剥がすっていう意味もあるぞ。とにかく、重要な行動の一つだな」

 アリーナは頷いた。

「じゃあ、止めろともいえないな。やっぱ爪研ぎ器だな。大変だねぇ」

「猫は猫なりにね……。この寮がペット禁止なの分かるだろ。犬野郎なんざしならいけど、猫が一匹部屋にいてみろ。爪先一つであらゆるものをダウンさせるぞ」

「サーシャがそれじゃ、ノーマルタイプの猫なんかいうこと聞かないだろ!!」

 アリーナが笑った。

「ノーマルタイプの猫は私も怖いからな。だって、話し聞いてくれないからさ。好き勝手暴れたい放題だぜ!!」

「なに、会話なんて出来るの?」

 アリーナが聞いてきた。

「うん、猫共通語ってのがあるんだけどさ。そのそも、これ知ってるノーマルタイプの猫が少ないんだよね。知ってても、聞かないから一緒だし。怖いなんてもんじゃないぜ!!」

「おい、それ教えろ!!」

 猫好きアリーナが反応した。

「人間じゃ発音出来ないって。出来ちまったら、猫の声が出せるって事だぞ?」

「そこは、気合いと根性だろう。猫好きの前に不可能はない!!」

 私はため息を吐いた。

「それを呪文覚えるのに向けろ。だから、私とセットにされちまうんだよ!!」

「……」

 アリーナが私を抱きかかえて立ち上がった。

「……風呂だ。徹底的に洗ってやる」

「そ、その行動の意味が分からん!?」

 私はアリーナに風呂に引きずり込まれた。


「さて、落ち着いたところで……」

「なんで私を洗うと落ち着くんだよ。いい加減、迷惑だ!!」

 アリーナが風呂の脱衣所で私を抱えた。

「いいんだよ、黙って私に洗浄されてれば。綺麗になるし、問題ないだろ」

「綺麗になりすぎるから問題なんだよ。毛が適度に脂っこいのは意味があるんだぞ、全部落としちまったら、ずぶ濡れになっちまうだろうが!!」

 アリーナは笑った。

「そしたらまた洗ってやるさ。サーシャを洗ってると、心が落ち着くんだよ」

「だから、なんで!?」

 アリーナは私を抱きかかえたまま、屋上に向かった。


「うちはうるさくてさ。一般課程に上がっちまったら、もう容赦してくれないぞ。それなりのものを求められるってやつだな。サーシャが頼りなのは事実だぞ。セットにされてよかったよ。一人で放り込まれたら、やってらんないよ」

 ベンチに座ったアリーナが苦笑した。

「……私なんか頼りにしたら、痛い目みるぞ」

「それはそれでよし。自分で決めた事だからね。ちっこい猫だけど、やる時はやるってね。勝手についていくから気にするな。邪魔なもんは、全部排除してやる」

「……それが怖いぜ」

 なんてやってたら、屋上の扉が開いて男子五人組が現れた。

「て、テメェら!?」

 問答無用で、アリーナがメイスを抜いた。

 そのまま、五人組に向かって突っ込んでいった。

 パッと散開した五人組は、よく連携が取れた動きでアリーナを翻弄し、一人が私に封筒を渡すと、今度はアリーナを私に近づけまいと必死の攻勢に入った。

「な、なんだ……」

 私はその封筒を開いた。

 中の紙を出した途端、それをすっと取られた。

「なかなかやるようになったけど、私に勝とうなんでまだ早いね。これは、当然没収だな」

 アリーナは紙をポケットに突っ込んだ。

「な、なんなのよ、どう考えてもただ事じゃないぞ!?」

「うん、お前には十年早いな。大体、これどうするんだよ。コイツも馬鹿野郎だぜ!!」

 アリーナは私を抱きかかえた。

「帰ろう。また洗わないとな」

「またかよ。今度は何だよ!?」

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