第9話 抜き打ちで

 今さらだが、私たちは入学したての見習い課程だ。

 ここである程度の成果が認められると、上級課程に進むことが出来る。

 もっとも、ここで大体が落第してしまうという、大変な課程でもあった。

「……酷い」

 アリーナが、ガックリうなだれていた。

「普段やってないからだ。抜き打ちテストにやられたな!!」

 私は笑った。

「……だまし討ちだぞ。卑怯だろ」

「そりゃ、だまし討ちじゃなきゃ、抜き打ちにならん!!」

 アリーナがため息を吐いて、私を抱えた。

「……コイツをいじめよう。やってられん」

「この野郎、なにすんだよ!!」

 アリーナは教室を出て寮に行った。


「馬鹿野郎、だからなんで風呂なんだよ。また風邪引くだろ!!」

「はぁ、やすらぐぜ。お前の都合などしらん!!」

 私を抱えたまま湯船に浸かり、アリーナだけマッタリしていた。

「……この濡れ感がどうにも気持悪いぜ。人間の習慣で一番理解できん!!」

「毛繕いだけじゃダメだ。たまに洗ってやらないとな」

 アリーナがボンヤリ呟いた。

「それは、人間が勝手に解釈して押し付けてるだけだ。いらねぇんだよ!!」

「ノミとかダニがついたら大変だろ。未然に防いでおかないとね」

 アリーナはボケ~っと呟いた。

「……い、いや、確かにアイツらは面倒だな。知ってるか、すげぇ痒いんだぞ」

 アリーナは私を抱えて湯船から出た。

「もう一回洗っておこう」

「も、もういいよ!?」

 アリーナは私を泡だらけにした。

「そういやさ、ニャンコ様って女の子の方が優秀なんだって?」

 アリーナが聞いてきた。

「まあ、総じてそうかな。いっておくけど、野郎の猫になにも期待するなよ。本気でボンクラな上に、なんも出来ないからな!!」

「……ってことは、コイツは優秀なんだな。どうりでな」

「いや、猫としての性能の話だぜ。ここでやってる勉強は、むしろ人間有利のはずだぞ!!」

「……もう一回洗おう!!」

「な、なんでだよ、せめて前の流してからにしろ!!」

 アリーナは、ひたすら私を洗い続けた。


「あー、スッキリしたぜ!!」

「あのな、必要な脂分みんな落としやがって。なんだよ、このフワフワな毛はよ。気持悪いよ!!」

 アリーナは私を抱きかかえて学生課に行った。

「はいはい、出来てますよ。業者が見つからなくて大変でしたよ」

 いつものオッチャンが、カウンターに何かを置いた。

「やるっていったらやるぜ。サーシャの制服作ったぜ!!」

「はい!?」

 カウンターの上の物を取り、アリーナが広げて見せた。

「いつも抱きかかえて採寸をしていたから、間違ってないはずだぜ!!」

「んなことやってたのかよ。これ、着ろと!?」

 戸惑っていると、アリーナが笑みを浮かべて無理矢理私に制服を着せた。

「うん、サイズはぴったりだな!!」

「……服を着た不思議猫になっちまったんだけど」

 アリーナが私を抱きかかえた。

「元々不思議猫だ、何の問題もないだろ!!」

「……まあ、一般的にはそうだな。自覚はある」

 アリーナはそのまま屋上に行った。

「これで、やっとここの学生って感じだぜ。こういうの、大事だぜ!!」

「よ、よく分からないけど、それが人間の世界ならそういうもんか」

 私はアリーナのポケットから薬瓶を取りだし、一気飲みした。

「おい、勝手に使うんじゃねぇ!!」

「いいじゃん、なんも入ってないんだから。ちなみに、これは湯上がりに飲むと美味い飲み物だ。魔法薬じゃない!!」

「この野郎、自分だけ飲むな!!」

 私は笑った。

「自分で探したら、色々入れてあるから!!」

「お、お前な!!」


 寮の部屋で私はいつも通り勉強していた。

「おう、やってるな」

 アリーナが入ってきた。

「今、お前を狙ってたヤツ五匹を退治しておいたぜ。ったく、女子寮に野郎なんかいたらバレるっての!!」

 アリーナは笑って封筒を差し出した。

「なんか持ってたぞ。開けてやろう」

 アリーナが封を切って、中の紙を読んだ。

「……おい、マジか?」

 アリーナが固まった。

「なによ?」

「……これ以上はない毒文書だな。お前が読んだらぶっ倒れちまうぞ」

 アリーナは紙を封筒に戻した。

「……生意気だ。没収してやる」

「な、なんだよ!?」

 アリーナは真顔だった。

「な、なんだよ、私がなにかしたかよ!?」

「……全く、潰しておいて良かったぜ。なんで、コイツが?」

 アリーナが部屋から出ていった。

「な、なんだよ……」

 結局、これ以上はないという毒文書の内容は、アリーナが自分の胸の内で勝手に処理してしまったため、私が知る事はなかった。

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