第8話 嫌がらせは消えず

「……うん、これは地味にピンチってやつだな」

 大体くっついているアリーナがちょっとどっかにいった隙に、まだまだしぶとい嫌がらせで三人ばかりに連れ去られた。

 こういう時の基本らしい校舎裏で、せっせと地面に穴を掘ってる馬鹿野郎を見ながら、私はどうしたものかと考えていた。

「……自主規制で攻撃魔法はまだチャレンジしてないしな。あってもやっちまったらヤバいだろうしな」

 そのうち穴掘りに満足したのか、私を段ボール箱に入れて蓋をした。

「……分かってるよ。埋めるんだろ。じゃなきゃ、穴掘った意味がないもんな」

 ダンボール箱が乱暴に動き、やっぱり土をかける音が聞こえてきた。

「……ほらな、埋められちまったぞ。なにがしたいの、これ」

 私はため息を吐き、魔法で明かりを生み出した。

「オリジナルだぜ、ほんのり間接照明だ。いい雰囲気じゃねぇか」

 箱の底に転がり、私はいきなりやる事がなくなった。

「……暇だな。模様替えとかしてやるか」

 私は呪文を唱えた。

 ダンボールの中がシックでモダンな野郎に変わった。

「いい感じじゃねぇか、ベッドまで作っちまったし、こっちで寝よう」

 私はベッドに転がった。

「……なんかおい、うっかり快適な部屋になっちまったぞ。これの、どこが嫌がらせなんだ?」

 私は苦笑してベッドに転がった。


 しばらくして、段ボール箱が揺れた。

 慌てた様子で蓋が開き、アリーナが顔を見せた。

「おい、なにくつろいでるんだよ。ベコベコにぶん殴って居場所聞いて、慌ててきたんだぞ。なんでシックでモダンな部屋になってるんだよ!!」

 アリーナが私を抱えた。

「だって、アリーナがくるって思ってたから、暇つぶしになんかやってようと思ってさ。あの状態だとあれくらいしか出来ないもん。まさか、埋めるとかいう意味不明なことされると思ってなかったから、自力脱出が出来るような魔法作ってないからさ」

 アリーナがため息を吐いた。

「目を離せばこれで、本人は遊んでるんだもんな。まあ、変に落ち込まれてるよりいいけどさ……」

 アリーナは私を抱えて歩き始めた。

「今さらこんな程度で落ち込むか。なにされるかって、ビビリはするけどさ!!」

「なんで黙ってやられてるのさ。阻止する魔法くらいあるだろ!!」

 アリーナは息を吐いた。

「やらせときゃいい。下手に抵抗しないのが一番被害を抑える方法だぜ!!」

「一理あるけどさ、みててイライラするんだよね。なんかブチ込んどけっての!!」

 アリーナは私を抱えて校舎に入った。


「全く油断も隙もないぜ。いまだにいるとはねぇ……」

 教室でアリーナがぼやいた。

「いつでもどこでもいるだろ、ああいうのはさ!!」

 私は笑った。

「まあ、そうなんだけどさ。なんか、悲しくなるぜ!!」

 アリーナは机の上にどかっとメイスを置いた。

「いつになったら、これでぶん殴る事がなくなるかねぇ」

「そ、それ使ったの?」

 アリーナがムスっとした表情になった。

「当たり前じゃん、ムカつくもん。素手でなんかで満足するかよ!!」

「……素手にしなさい。危ないから」

 アリーナがメイスをしまった。

「これでぶん殴っておけば、二度と手出しはしないからね。痛いなんてもんじゃないから。今頃医務室で後悔してるだろ」

「……だから、やめなさいって」

 私はため息を吐いた。

「……自分でやった方がマシかな。麻痺させるくらいだから」

「うん、そしたらその麻痺して動けないヤツを、思い切りボコボコにするだけだな。結果はあまり変わらないぞ」

 アリーナは教科書を出した。

「ほれ、授業だ。イライラしてるから、教師がなにかしない事を祈れ」

「お、落ち着け!!」


「な、なんで、やめて!?」

「うるさい、たまにはいいだろ!!」

 一日の終わり、なにを思ったかアリーナは私を風呂に引きずり込んだ。

「馬鹿野郎、濡れるのがどれだけ気持悪いか分からねぇだろ!!」

「やかましい、洗ってやる!!」

 アリーナは私を泡だらけにした。

「……最悪のいじめだぜ。なんだよ!!」

「ほれ、流すぞ!!」

 頭からシャワーをぶっかけられ、私はとてつもなく微妙な気分になっていた。

「……アリーナじゃなかったら、今頃猫爪が炸裂してるぞ」

「……その猫爪だな。危ないから切ってやろう」

 アリーナが笑みを浮かべた。

「だ、ダメ。これしか武器ないんだから!!」

「どんな時でも使わないじゃん、要らない要らない」

 爪切りを片手にアリーナが笑みを浮かべた。

「使いたくないから使わないだけでないと困るの。だから、ダメ!!」

「じゃあ、せめて猫パンチくらいやれ。次やんなかったら切るぞ。分かったな!!」

 アリーナは私を抱えて、よりによって湯船に入った。

「……な、なに、なんか怒ってる?」

「うん、分かるけどさ、なにもしないでやられるだけってどうよ。今回はあんなアホなあれだったけど、自衛は魔法使いの基本だぞ。それが出来ないなら、出来るようになるまで意識改革してやる。毎日でも風呂入れてやるからな、爪切り持って!!」

 アリーナは笑みを浮かべた。


「……」

「あ、あれ、ちゃんと拭いたのに風邪引いちゃった!?」

 翌朝、部屋にきたアリーナが慌てた。

「……あのね、毛が多いからちょっと拭いたくらいじゃダメなの。自分でバタバタしたけど、ここの空調ぶっ壊れてるから寒いんだよね。よって、必然的に風邪引いたと。どうすんだよ!!」

 私はベッドに転がったまま、ため息を吐いた。

「こ、こんなはずでは、ごめん」

 アリーナが俯いてしまった。

「……やめて、元気にしてて。そうじゃなくたって、熱で鬱陶しいんだから」

「……うちから医師団を呼ぶから待ってて。一気に治す」

 アリーナは部屋から出て行った。

「……おいおい、今度は何だよ。あんま弄ると、さすがに死んじゃうぞ」

 怖くなったので、私はベッドの下に潜って息を潜めた。

 しばらくして、大勢の足音が聞こえた。

「あれ、いないぞ。また、さらわれたか。風邪引いてるのに、どこの馬鹿野郎だよ。ぶっ殺す!!」

 アリーナの怒鳴り声が聞こえた。

「……どうしよう。出ていけなくなったぞ」

 私はベッドの下でため息を吐いた。

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