第4話 現状把握とこれから

「さて諸君、先日聞いたように彼女達の話ではここはどうやら別の世界とのことであるが、何か意見はあるだろうか」


既に各小隊毎に水、食料確保と簡易塹壕作成、周辺警戒や斥候などの任務に出し、ここに居るのは辰馬と各中隊長とその副官、それに加えてフィルカとロキシーが仮設作戦室に居る。


「大凡は大尉殿の案でよろしいかと思いますぞ」


その熊澤の言葉に他の中隊長達も頷く。


「ではその様に進めよう」


「あの・・・・・」


「フィルカさん、なんでしょうか?」


手を上げながら発言するフィルカに全員の視線が集まる。

急に全員から見られ、緊張したのか動揺したのか何やらしどろもどろになりながらもフィルカはその場に更に緊張を齎す言葉を続けた。


「先日の野盗なのですが、多分傭兵団の一部だと思うんです、戻ってこないのを不審に思ってまたあの場所へ戻ってくると思うんです。きっとここも見つけるんじゃないかと・・・・・」


「―――――なんだと!」「――――――――――なんということだ」「・・・・・そうですか」


「落ち着け熊澤、申し訳ないフィルカさん」


声を荒らげる熊澤に怯えるフィルカに謝罪をしつつ次の言葉を聞く。


「それでフィルカさん、我々の戦力は知っているとは思いますが何か心配事でも?」


「え、えっとですね、多分傭兵団なら残りの人数が100名ほどの中に魔法兵が居ると思うんです」


「「「「魔法兵?」」」」


「魔法ってご存知ですよね?」


「あ、ああ・・・・・確か昨日ご自身とあの少女を治して見せたやつですか?直接は見てないのでなんとも言えませんが・・・・」


それもその筈、辰馬が見ていないうちにフィルカは己が剥がされた爪を治してしまったのだから。


「誰か見た者はこの中に?」


その辰馬の言葉にも全員が首を横に振る。


「どうやら我々はまったく知らないと言えますな」


熊澤の言葉に頷く各中隊長とその副官。


「すみません、我々はまったくの無知と言うわけです・・・・どうかご教授いただけますか?」


頭を下げながらフィルカに教えを請う辰馬に皆の視線が集まる。


「い、いえ!顔を上げてください!教えますから!だから顔を上げてくださいお願いです!」


非常に焦りながらも教える事には協力的であったと、胸を撫で下ろす大隊の面子に、冷や汗を流しながらも説明することになったフィルカはホッと一息した。

その様子を見ながら辰馬と各中隊長はすぐにでも教えてもらおうと仕度を済ませる。


「では、早速ですが教えて貰えますか?」


全員筆記用具完備で教えを待つ。

その姿を見ながら冷や汗を掻きながらも「まずは実践を御見せしたほうがいいとお思います」と外への道を歩き始めたフィルカに黙って付いて行くロキシー、大隊の面子は顔を合わせつつ筆記用具を持って付いて行く事にしたようであった。





外には既に簡易塹壕が掘られ、洞窟から20mほど離れた所にあちこちをうねる穴にどうしようかと悩むフィルカが居た。

その様子を物珍しげに眺める大隊各員の顔はどこか優しげであったり、訝しげだったりと様々だが、これと言って悪感情は無いようである。

この少女達の為に自分達が戦う事になっているとしてもそこに何も思うわけでもなく己が誇りとして戦う|武士(もののふ)の顔であった。


しかしそんな顔に見られながらもまったく分かってないようなフィルカは一人悩みつつも塹壕が掘られて居ない所を探そうと洞窟の周辺をぐるりと歩き回る。

そんな彼女の後をそれぞれ大隊首脳陣とロキシーが着いて行く様はなんとも言えないだろう。

実際、そこらの塹壕で警戒要員をしている者は微妙な顔でそれを眺めていた。


「ここならっ・・・・皆さんでは実践しますね、よく見ててください」


ようやく此処という場所を見つけたのか、そう言ったフィルカは塹壕を越えて2、30m森へと歩いた所でそのまま森へと向いたまま両手を前に翳した。

近いとは言えまだ森まで100mはあろうかと言える距離でもある。


「一体何を「黙って見ているの」」


訪ねようとした斉藤にロキシーが止めに入る。

そして皆が黙って見ているとフィルカが謳いだした。

それは誰にも理解出来ない言語であり、何を言っているのか分からなかったが、様子がおかしいのは誰でもすぐに分かった。

何故なら彼女の声によって手の周りに光が生まれ、それが風の渦となり、彼女の周りに風が集まる様な光景が目の前に展開されているのだから。

彼女が謳いだして30秒ぐらいだろうか。

それは起こる。


「“ウィンドブラスト”」


その言葉と共にフィルカの手よりその旋風が放たれた。

その速度は弓等と同じぐらいだろうか、まっすぐと森との間にある草原に向かって進むと60、70m行ったところで着弾した瞬間弾けた。

風が荒れ狂い、土をめくり、草を粉微塵にし全てを巻き上げる竜巻のように地面に穴が開く。

その効果はすぐに終る様だがその威力は凄まじかった。

それを見ていた大隊主要各員は皆口を開けて呆然としている。

後方で塹壕内に居た者達も鉄兜をかぶって砲撃でも喰らったかのような顔をしていた。


「どうですか?わかりましたか?」


そして振り返りつつちょっと照れた顔で訪ねるフィルカに全員ただ頷くしかなかった、ロキシーを除いて。





場所は作戦室へと戻る。

あの後穿たれた穴を観察し、その威力が大口径野砲と同等程度である事を確認した辰馬達は大慌てで戻って来てその対抗策を考えていた。


「つまり個人で重砲と同等程度の火力を実現しつつ移動力も歩兵、騎兵並を言うわけですか」


そう推論を出す小林、それに賛同し頷き続く考察を述べる斉藤。


「しかし詠唱?なる時間が必要であり、フィルカさんの話では射程はあれが限度との事」


結論的には辰馬の言葉が繋げる。


「要は撃たれる前に討てって事だろうな・・・・・幸いな事にフィルカさんの話しによると1軍でもその数は100名前後との事だしな」


それを受け熊澤は直近の問題を述べる。


「傭兵団なら居ても1人か2人と言った所か、それでも難儀ではありますぞ、なにせ見分けがつかないのですからな!」


少し考えた後に辰馬は結論を出す。


「詠唱を始めたら即座に狙撃するしかあるまい、狙撃班の現状を」


「はっ、只今九九式狙撃銃が12丁、狙撃手はこれより少なく8名となります」


応えるは斉藤の副官、真壁少尉、主に補給や物資管理を担当してもらっている下士官である。

しかし、それだけではまだ分からない事も多いと辰馬は全体の装備物資の状況を把握しようと全員に対し更に状況把握を求める。


「では現状の我々の装備状況、及び補給状態を確認しよう、真壁少尉頼む」


「はっ、現在各兵員への装備は九九式小銃が各兵員へ1丁、予備が30丁、弾薬は各員に対し15発が限度かと、並びに三八式が150丁こちらは弾薬は550発しかなくほぼ戦力足りえません」


「機関銃などの兵装はどうなっている?」


「はっ、我が大隊で運用していた九九式軽機関銃が3門、九二式重機関銃が1丁となります。こちらも弾薬は各機関銃へ2000発も与えればなくなる計算です。同じく八九式重擲弾筒6門2個分隊のみとなり弾薬は各分隊に50発無い程度です。又九七式手榴弾が各員へ1個乃至2個となっております」


「・・・・・・・補給状況は?」


「はっ、現在補給可能なのは水と食料のみとなっております。」


「ありがとう真壁少尉、というわけだ、諸君の意見を聞きたい」


各中隊長の顔を見ながら意見を求める辰馬にも、現状の過酷さはよく分かっている。

その装備状況は戦場にあっては、ほぼ絶望的といわざるを得ない状況である。

たとえ相手の火力が脅威足り得ないとしてもこちらも火力不足は否めないのである。


「弾薬の補給は急務とは言えども兵站は望めませんしね・・・・」

「節約する様にする、としか言えませんもんね・・・・・」


斉藤中尉と小林中尉は補給は絶望的とする意見でありいかに節約して戦闘を行うかという事に思考を巡らせていた。


「無けりゃ作るか作れる所に頼むしかないのですぞ!」


熊澤の一言に対し皆が驚きの眼差しを送る。


「ど、どうやって!?」「作ると言っても・・・・・」


小林中尉と斉藤中尉の疑問に対し辰馬は黙って思案を続けていた。

その皆の狼狽を尻目にロキシーが手を上げる。


「現物と設備と道具と材料さえあれば多分作れる」


「なっ!なんだと!?」「それは本当かっ!」「言ってみただけなんだがのぅ・・・」


動揺や焦り、なんだか悟った様な表情等それぞれ様々な感情を浮かべる各中隊長達に辰馬は落ち着く様に促す。


「落ち着け諸君、ロキシーさんそれは本当ですか?」


「本当。もっと詳しく知るには現物をもっと見たい。それと何を使っているのかも知りたい」


「ふむ、真壁少尉、ロキシーさんに各兵器と弾薬の検分を行ってもらえ、粗相の無い様にな」


「はっ、了解しました!こちらにお越し頂けますかロキシーさん」


敬礼しロキシーを促し武器庫へと案内を始める真壁少尉とそれに頷いて付いて行くロキシーを見送りつつ会議を続ける辰馬達。


「どうやら補給は何とかなりそうだな、斉藤中尉、貴官には補給任務を担ってもらえるだろうか。熊澤中尉の中隊より鍛冶又は木工などの製造に理解又は精通した者を選出し約1個小隊を抽出したのち任務にかかってくれ、尚、ロキシーさんとの連携も頼んだぞ」


「はっ、任務承りました」


敬礼と共に了解の意を告げる斉藤中尉。


「続いて全体への戦術指導だが、熊澤中尉、小林中尉、各中隊へ先程の魔法兵対策を伝え、詠唱を始めた者に集中砲火を行うように徹底させ、その敵火力撃滅に重きを置くように指導してくれ、尚、機関銃各分隊は各中隊に1門づつとし、重機関銃は小林中尉の直卒で運用する、又、擲弾筒は各中隊に3個分隊とし配置は各中尉に任せる。周辺警戒を厳とし敵性集団の接敵に備えよ」


「「了解しました」」


「フィルカさん、ご教授ありがとうございました、では未だ目覚めないあの女性をお願いできますでしょうか」


「はいっ!任せてください」


笑顔で答えるフィルカに周りの皆も穏やかな顔になる。

そこで引き締めるように辰馬は各自行動を開始するように号令した。


「では各員任務に当たれ以上!」


「「「はっ」」」「わかりました」


そして全員が出て行った作戦室に残った辰馬は一人虚空を見つめた後に溜息を吐く。


「・・・・・・・敵は米英と似た人種で助けるは差別される者達か・・・・先は長そうだが果たして皆は生き残れるだろうか・・・・」


その言葉は誰にも聞かれること無くただ作戦室の空気を振るわせるに留まる。

しかし、まだ先行きの見えない現状に苦悩するは辰馬のみでは無かった、大隊に居る者も全員が思い、考えてる事でもあった。







辺りが夕闇に覆われ始めた頃。

ここは大隊が居る洞窟より南に更に3000、東に2000行ったところにある別の洞窟。

むしろ洞窟というよりは崖に面した穴と言った方が適切だろう。

その奥行きは10mも無いのだから。


そんな穴の出口周りは100名強ほどの武装した集団が好きに飲み、好きに食い。そして戦利品と称した数名の裸体の女性を好きに犯し、好きに殺す、そんな光景が繰り広げられていた。

そんな光景を背に3人の男が焚き火を囲んで話している。


「昨日襲撃に行った奴らとはまだ連絡が着かないのか?もう戻って来てもいい頃だろう」


「それがどうやらどこにも見えないらしくて、逃げたのか逆にとっ捕まったのか・・・・」


「ふんっそんなわけがねぇだろ、なにせ60人からの略奪だぞ?たかが商隊ごときにその人数を撃退できる戦力があるわけがねぇ」


「まぁ確かに・・・・んじゃどうするんで」


「確かめるしかねぇだろ、その場に行ってな」


そう言って後ろを振り返りながら怒声を上げる男。


「全部は殺すな!2~3人は残して置けよ!奴隷商への売り物にするんだからな!」


裸体の女性を犯しながら腹に剣を突き立てたり、陰部より串刺しにして馬鹿笑いをしている連中への声に応える男達。


『へ~い頭ぁ』


頭と呼ばれる男は残忍な笑みを浮かべるとその左頬に縦に走る傷を撫でながら呟く。


「なんか嫌な予感がするんだよ、気のせいかも知れないがな」


「まさか、この辺に我らが傭兵団に楯突くような憲兵も冒険者もいねぇはずですぜ」


「まぁそうなんだがな」


そう言って付近に繋げてある馬のところへと向かう頭に残りの二人は黙って付いて行く。

そして馬に跨り振り返った頭は告げた。


「ちょいと街に行って飲んでくる、明日の朝には確認に行く、全員に知らせておけ」


「分かりやした、お土産期待してますよ頭!」


「良い酒を買ってきてやるよ」


そう言って馬で駆け出す頭を見送り、再び狂乱に耽る男達へと号令を掛ける。


「明日の朝襲撃に行った連中を確認に行くぞ!頭の命令だ!全員用意をしておけ!」


『へーい』


返事と共に残っていた女性を2人残し全員串刺しにして殺しつくす男達。

その目は次の獲物を待ち望むただの獣である。

殺された女性10名ほどはそのままうち捨てられたまま放置され、男達はすでに興味を失ったように蹴り飛ばしながら残った女性を洞窟へと連れて行く。


その様子を眺めながら号令を掛けた男の隣に居る者は一人陰湿な笑いを浮かべた顔のままのたまう。


「今度は沢山燃やせるといいんだがなぁ・・・・」


鬱屈とした笑いを浮かべながらぶつぶつ言うその男を気味悪そうに横目にする男は溜息と共に他の男共に向かって歩き出した。

まだまだ準備することは色々あるようである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る