第2話 異世界転移した大隊は・・・・

というわけで2話目です。


誤字脱字報告や感想お待ちしております。


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埋葬と周辺探索が終わり大隊本部がある洞窟へと戻ってきていた。

そして保護した3名の少女達も一緒である。

彼女たちは男所帯には申し訳ないので大尉の部屋を貸しそこで休んでもらっている。


「大尉、いかがなされるおつもりで?」


「いかがもなにもあるまい、あのまま放っておけというのか斉藤中尉は」


「物資の補給も現状目処が立たないのに余計な荷物を3つも拾ってどうするのですかっ!」


「荷物等では無い、口を慎め斉藤中尉」


「しかしっ・・・・・」


「中尉も分かっているだろう、もうここは元の世界ではないのだ」


「それは・・・・っ」


この言い合いは現状把握が成されたからこそだろう。

俯いてしまった斉藤中尉を見ながら大尉は思い出す。








「ターイさん・・・ですか?」


「それは私の階級です」


女性は疑問符を浮かべている。


「タツマ?」


「そうだよ」


首を傾げながら言う少女に大尉は苦笑しながら目線を合わせて言い直す。


「えと、お名前はサトータツマさん?」


「ええ、二人のお名前や所属、この近くにある町か村の事をお伺いしたいのですが」


改めてその二人の姿を眺めながら問いかける辰馬。


女性は見た目20歳前ぐらいの西洋人の様に見えるが瞳は翠緑色であまり見かけない色だ。

長い金髪をそのまま流しているが風呂に入っていないのか汚れで煤けてボサボサだ、顔立ちはほっそりとしつつも目鼻立ちはスッキリとし、西洋人における美人の部類だろう。

服は汚れた襤褸布しか着ていなく、戦場に居た兵達には目の毒かもしれない。

靴のような物は着けていなく、先程切り離した手枷が未だに手首に残ったままである。

爪は剥がれたのか剥がされたのか、左手の中指と人差し指に痛々しい傷跡が残されている。

そして全体的に細い、あまりにも細すぎるぐらいである。


同じく少女の方にも目を向ける。


着ている物や手枷は女性と同じだが顔立ちは幼くも見えるが将来はきっと美人になるであろう事が推測される、目と髪は赤茶色で、おかっぱの様に首の後ろで切り揃えられている。

しかしこちらも同じように髪はボサボサ、体や顔も汚れて、爪すらひび割れているようにすら見える。

女性と同じように細くなっては居るが本来はもう少し丸みがあるだろう骨格だ。

そして特筆すべきは少女と呼べるような年齢だろうにある意味達観したようにも見える表情と仕草が垣間見える。


軽く眺めているうちに返事が金髪の女性よりかかる。


「えと、私は名をフィルカ・ワーグといいます。生まれてから18年になります、ショゾク?は、分かりませんが、ここより南西へ行ったところにあるエイドの森に住んでました」


女性はフィルカ・ワーグと言うらしい。

確かに西洋人のようだ。

しかし今更ながら疑問が浮かぶ辰馬。

何故、日本の言葉が分かるのだろうかと。

疑問を感じているうちに少女の方も名乗りを上げる。


「私はロキシー・ロブ・ドーラ、ずっと西にあるアウグス山の麓の村に居た・・・・後、子供扱いはしないで欲しい、こう見えても19歳」


見た目どう見ても10歳前後の少女にしか見えないがどうやら20歳近いと言う。

驚きで目を見開きながらも尋ね返す辰馬。


「す、すまない。親戚の子と同じぐらいに見えたものでついな・・・・・・気をつけるとしよう、しかし、本当に19歳なのか?」


「私はドワーフ、ドワーフは成人してもこの身長」


「ドワーフ?民族か何かの名前なのか?」


聞いた事が無いのも無理はないだろう。

戦前、いくら西洋に研修に行ったとしてもそこの民族童話や神話など調べるべくもなし。

そんなファンタジーな物は辰馬の時代にはなかったのだから。


「ドワーフは種族の名前。ドワーフとは半精霊であり、亜人。火と鉄と鉱山を友とし、その生涯を自身の技術の研鑽と坑道を掘る事に捧げる者」


「すまない。精霊とは、亜人とは何だ?」


「精霊とは、自然界に存在するありとあらゆる物に宿る、力の具象化した者。又その意思。・・・・亜人とは、人と近しい姿でありながら人で無い者。人とは異なる者」


「えと・・・・すみません!私も実は亜人です・・・・・・」


唐突に女性も声を上げる。

そちらを振り向きながら尋ねる辰馬に女性は怯えながらも話し始めた。


「私はハーフエルフです。ハーフエルフはその名の通り人とエルフのハーフなんです。エルフとは風と水を愛する森に生きる半精霊種で寿命が長いのが特徴ですが・・・・・・・・私たちは奴隷として商隊に運ばれていました・・・・・」


そこで沈黙するフィルカ。

段々と俯いてしまうその顔を見ながら考え込む辰馬に伝令が声を掛ける。



「報告!撤収準備整いました!いつでも進発できます!」


「分かった。これより拠点へ戻る!各自周辺警戒を怠るな!」


『はっ!』


大きな返事と共に動き出す中隊に続きながらフィルカとロキシーに声をかける。


「とりあえず、話は我々の拠点に戻りながらお聞きしますが宜しいですか?」


「「はいっ」」









結局、それほど距離があるわけでもなく、話を聞き終える前に拠点に着き、碌に話しも聞けず。

着いて、すぐに本部中隊へ周辺探索と食料と水の確保の指示を出し、第二中隊へは露営準備を指示した。その後、辰馬は中隊長達と共に、二人の女性と再度の聴取を済ませた。



その話の内容は、中隊長達すら聞いた事もない単語や専門用語ばかりでちんぷんかんぷんでありつつも、彼女達の名前と歳と種族が判明し、亜人と呼ばれる者がこの世界では差別の対象であり。なおかつ奴隷狩りなどという行いが日常的に行われていると言う事である。

彼女達の状況が、今居る地、アークスト大陸と呼ばれる大陸の北東部のそのまた一部にあるサンクテ王国と呼ばれる人類種、人間と呼ばれる者達の国であり、そこの城塞都市へ奴隷として運ばれている最中であったと言う事。

我々、日本人の様な者は居なく、人類種とは皆、西洋人の様な者しか居らず、又、この大陸には20を超える大小様々な国家が犇めき合い、国取り合戦が行われているという。

そして特筆すべきはこの世界は魔法なる妖術が存在することでもあった。


現に彼女、フィルカは手枷を外させると自力で爪を治してしまったのだ。

なんでも手枷に魔法を封じる術が施してあるそうだが、誰に見せてもそこに書かれている文字列を読める者は居なかった。

言葉については魔力ある者が聞き、喋る分には、どんな言葉でも近しい言葉に翻訳されるらしい。

人類種はその限りではないらしいが。


そこまで話を聞く頃には、向かわせた本部中隊の約半数が戻る。

その頃には既に日が沈み始めていた。


女性にいつまでも襤褸を着せているわけにも行かないので持って来ては居ても着てなかった将校正装を貸し与え、水源探索で発見した川へと水浴びに行かせると共に護衛に1個分隊を付ける事にした。


「貴官等には彼女達の護衛を任ずる!くれぐれも帝国軍人にあるまじき行いをする事の無いようにきつく厳命す!」


「はっ!護衛の任に当たります!」


敬礼と共に分隊各員が多少ビクついている彼女達を先導しつつ移動を開始している。


その様子を眺めながら思わず苦笑してしまう辰馬。


(無理もなかろう、周りを草臥れた男たちが取り囲みながら夜で暗い森へと誘導されて行くのだから・・・)


振り返りつつ後ろに控えていた中隊長達へと指示を出す。


「さて諸君、今後を決める分岐点へと我々は至ったらしいぞ」


「そうですなぁ・・・・」


そう呟きながら無精髭を撫でる熊澤は困ったような楽しそうなような微妙な顔だ。

熊澤中尉は名前に違わず熊の様な男ではあるが、部下の信頼篤く、又その性格は豪快の一言である。

この中では最年長の36歳である。


「小官は大尉に従います!」


そう敬礼と共に言うのは斉藤である。

斉藤中尉は痩せこけた顔を食糧不足で更に細くしたような若干病弱そうな見た目に反し、命令には絶対服従する、まだ年若く、今年21になる。

良くも悪くも帝国軍人の鑑のような男である。


「私は兵達へも現状の説明は必要かと存じますが・・・・」


そう具申するは最も冷静に判断しているからであろう、小林中尉は冷静な判断が下せる。

辰馬の信頼も篤いが、幾分まだ若い18歳である。





辰馬も含め、本来、中隊長や大隊長になれる階級でないのには理由があった。

各中隊長は敵軍侵攻による都市防衛戦により孤立し、少数の部下と共に名誉の玉砕。

先任大隊長であった少佐が市街戦敗戦により山中撤退中に敵砲撃による名誉の戦死を遂げた為である。

熊澤、小林、両中尉は元々第二大隊ではなく第三大隊所属の中隊に配属されていた小隊長である。

斉藤中尉は元第二大隊ではあったが第二小隊長付きの副官であった。


知らない者も少なくないかもしれないので説明すると一個小隊辺り約40~50名程で編成されており、三個小隊で一個中隊、四個中隊で一個大隊が本来の編成である。

現状の300人弱では二個中隊が精々であろう。


撤退作戦中に散り散りになった第八師団は、指揮官が戦死をした隊や元の隊よりはぐれた者が多く、原隊復帰が難しい状態であった為に大隊補佐官であった辰馬が指揮を執り、再編して大隊として機能するまでに持ち直した部隊でもあった。


ようやく師団本部へと連絡が付き、当島より撤退可能かと思ったら先の玉砕命令である。

その直後の艦砲射撃による砲撃を受け現在に至るわけであった。





「確かに説明は必要か・・・・そして私の考えだが先にここに居る者には聞いてもらいたい・・・・」


「それは確かにお聞きしたいですなぁ!」


熊澤は目を輝かせながら楽しそうに聞く姿勢だ。

その他の二人は固唾を飲んで見つめ返すのみである。


「聞いてくれ・・・・恐らくここは元居た世界ではないようだ。どの国も聞いた事が無いし大陸も違うときたものだ、その上、魔法?なるものが存在し、その文字やらは理解不能。報告によれば見たことも無い化け物やらが居るらしいし、植物すら誰も見たことの無いものがあるらしい」


「確かに報告にありましたなぁ・・・」


「そして祖国とは一切連絡が取れない」


「「「・・・・・・・・」」」


誰も彼もその事実が語る事を理解していた。


「大本営は捕虜となるぐらいなら自害、もしくは玉砕を命令していた・・・・・」


全員が頷きその命令があったことを肯定する。

そして少しの間を開け辰馬は口を再び開く。


「しかし、我々はすでに接敵することもないだろう。よって私の独断になるが皆の意思を取りこの世界で生きていこうと思う。もちろん祖国へ帰るという目標は捨てるつもりはない。だが、このまま座して死を待つつもりもまた無い。その旨を残った全軍に告げることとするが構わないだろうか?」


「勿論異議などないですぞ!」


「・・・・それが大尉のご意思ならば・・・・」


「特に問題はないかと思います」


それぞれがそれぞれの言葉にて肯定してくれる。

その言葉に勇気付けられたように感じているだろう辰馬の顔は多少の笑顔と共に未だどこか影があるようにも見える。

それに熊澤が声をかけた。


「して、大尉殿はまだ何か気がかりがあるんですかい?」


「いや、なに、どこかへと行ってしまった残りの中隊の連中がな・・・・・」


「大尉殿は気にしすぎるきらいがあるのぅ!」


「私もそう思います」


小林中尉が熊澤に同意とばかりに頷いている。


「あの者等も自分達が何を成し、どう生き残るか、又は玉砕覚悟の突撃をするかは各々で選ぶでありましょう!それは、今、大尉殿が気に病んでも仕方の無いことですぞ」


「それに私はあの者等なら大丈夫だと思います。大尉のご意思は既に我が中隊にも浸透しておりましたし、皆感謝もしていたのです・・・・・あのまま森の中を彷徨っていても結局いつかは各個撃破され、全滅していたでありましょう。なのでもし、その後あの戦場にて戦死することがあってもあの者等は悔いなく戦い抜き安らかに逝ける事でしょう」


小林中尉の言葉には真に感謝の念と自分の部下達への信頼しか無く、またそれが辰馬には心苦しい思いでもあった。


「しかし、この地にて我々だけが生きて過ごせるとあっては戦友達に合わせる顔が無くなるのではないだろうか・・・・」


「皆、生きれる者は少しでも長く生きていて貰いたいと思って戦っていましたからな!今更戦死しようとも靖国にて笑顔で迎えてくれましょうぞ!むしろあまり早く会いに行っては叩き帰されてしまうやもしれませんなぁ!」


そう行った熊澤中尉の顔は笑顔であった。


「・・・・・・・・そうだな」


そう言って熊澤中尉の顔を見て思わず噴出す辰馬。

その髭面の厳しい顔の優しげな笑顔は思わず笑いを誘うものだ。


「くくくっ・・・・その顔であまりこっちを見ないでくれ中尉・・・・」


「なっ!酷いですぞ大尉殿!皆も何か言ってやってくれ!」


「・・・・・大尉が正しいかと・・・・ククッ・・・・」


「小林まで笑うかっ!斉藤は分かるであろう!」


「・・・・・・・・・・・・・」


斉藤は後ろを向いて肩を震わせている。


「なんでじゃぁぁぁぁ!?」


その絶叫が洞窟内に響き渡った。





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決して玉砕戦法を美化するつもりはありませんが、当時の人間の心情や思いを無下にする事も無く進めて行きたいと思います。

実際はどうだったのかなぁと考えながら執筆しておりますが何か表現がおかしかったりした時は教えていただけると嬉しいです!


言葉遣いはなるべく現代風にしておりますのでご了解ください。

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