異世界転移した大隊は

枕草子

第1話 最後の指令


遅筆なので更新は不定期です。


ご意見・ご感想、お待ちしております。


こうしたほうがいい、この表現はおかしいなどがありましたらどんどんお知らせ下さい。


ではよろしくお願いします。


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暗い、暗い洞窟の奥で小さな明かりが揺らめいていた。

その明かりに照らされ、幾つもの悲壮な顔が揺らめきと共に映った。

光に映る顔はどれも悲しみや怒り、恐さ悔しさに歪んでいる。

その顔はよく見ると皆10代後半から20代の青年がほとんどである。

やがてそのうちの一人が口を動かし呻いた。


「やはりこれしかないのか・・・・・」


「大本営の命令であります!」


「分かっている!・・・・・だが部下をこんな作戦の為に犬死させよというのか!?」


敬礼と共に返事をした者に怒鳴り返す顔。


「もういい、下がれ」


「はっ!」


返礼と共に持ち場に戻らせる。

その背が見えなくなってから悔しそうに口を開きかける先程の青年。


その時遠くで雷が落ちたような轟音が響く。


「何の音だ!状況を!」


「敵砲兵の榴弾発射音ではないでしょうか!」


「ばかな、こんなところまで届く砲声など・・・・・・っ!全員伏せろぉぉぉ!艦砲射撃だ!」


そう言いながら、目の前の地面に向かい滑り込むように身を伏せる男。

周りの者も同じく地面に伏せ衝撃に備え始める。

次の瞬間、爆音と共に世界が揺れるような衝撃がその場を襲う。


天井部より砂や小さな壁面の欠片が降り蝋燭の明かりを消した。

真っ暗な闇の中未だ振動と降り注ぐ破片と砂が止まない。






いい加減の時間が過ぎ、辺りを暗闇と部屋に居る人間の息遣いが包むだけになった頃、再び直前まで喋っていた男の声が響く。


「状況確認!急げ!手の空いてる者は負傷者の救護だ!・・・・・後、明かりを!」


「はっ、直ちに!」


「通信首に連絡!我、敵艦砲射撃を受けたり!至急、航空戦力の援護を求む。送れ!」


敬礼と共にすぐに手探りで抜け出して行く2人の男の音を聞きながら胸ポケットよりマッチを取り出しつけ始める。

すぐに擦れる音と共に小さな明かりが灯る。


「蝋燭はどこだ?」


「こちらに・・・・・」


「ありがとう」


そう言いながらマッチの火を差し出してきた燭台の蝋燭に移す。


「さて諸君、我々にはもう後が無い。分かっているな?・・・・・護国奉身の為に大本営は我々に死んでくれと言う」


その言葉を聞き周りの者達は立ち上がりながら口々に声を上げる。


「今こそ我らが覚悟と力を見せる時なれば!」


「ここに潔く果てようぞ!」


「・・・・!」「・・・・・!」「・・・・・・・!」


その口々に語る声に対して片手を上げ制する男。

それだけで周りの声はすぐに収まる。


「聞いてくれ・・・・・今ここで我々が最後の突撃で華々しく散ったとしよう。その場合この後の戦闘はどう推移する?・・・・・何も変わらないだろう、むしろ障害の無くなった敵は更に侵攻を早めるだけだ。ならここで、たとえ数刻、いや寸分の時間であっても長く戦い抜けば、それだけ敵が本国の地へ向ける足並みを遅くできるだろう。皆の覚悟は分かっている。だが、ただ死するより辛い戦いかもしれない。それでも最後まで皆と共に戦い抜きたいと思っている・・・・・・」


「っ・・・・・」


「くっ・・・・」


「私は・・・・・」


その言葉と共に周りの者達が皆下を向き、涙を流しながら呻くように泣く。


「大尉殿!私は最後まで大尉殿と共にあらんとここに誓います!」

「私もであります!」

「我々、最後まで戦い抜きましょうぞ!」

「私も・・・!」「我々も・・・!」「我が隊も共に!」


口々に同意と共に敬意を込めた敬礼をする。


「ありがとう諸君!・・・・さて先程の状況報告はまだだろうか?」


「そういえば遅いでありますなぁ」


「一寸見てきます」


「ああ、頼んだぞ」


走り出す背中に向け頼んだ後、周辺を片付けて続いての作戦会議に移ろうとした時だった。

その場に震える声と共に走り去ったばかりの将校が戻ってきたのは。


「た、大尉殿!た、た、大変であります!」


「どうした!?それほどの被害なのか!?」


「い、いえ!外が!外が!」


「はっきり報告しろ!それでも栄えある陸軍将官かっ!」


「はっ!失礼しました!報告します!外に展開していた我らが第2大隊の約半数が消失!」


「なんだと!?消失だと!?艦砲射撃による被害なのか!?」


「付近に弾着痕あらず!現在大隊本部外は・・・・・その、先程までの戦闘地域を大きく外れているかと思われます!」


「どういうことだ?戦闘地域を外れている?そんな馬鹿なことがあるか」


「現在残存兵力は洞窟内にて待機中であった大隊半数以下のおよそ300名弱程であります!」


「外で警戒展開していた2個中隊はどうした!?」


「現在残存の1個中隊にて捜索しております!残りの本部中隊はこちらの守備に回してあります!」


焦った声と共に異常な事態を知らせる下級将校の言葉にその場に居る者ほぼ全員が口を開けたままであった。

その中で一番早く冷静になった者こそ皆に大尉と呼ばれたその人である。


「ふむ、残存の武器弾薬、食料はどうなった?」


「はっ、残存物資は当洞窟内の備蓄食料と残った部隊の装備品及び弾薬庫に入れてあった分のみであります!」


「連隊、もしくは師団本部への連絡はどうなった」


「現在通信途絶中につき呼びかけに一切応じません!」


「完全に孤立したわけか・・・・何が起こったのか把握する必要がある。皆外の様子を見に行くぞ」


そう言って歩き出す大尉に付いて行く下級将官と同部屋に居た将官達は動揺からかまったく声を上げられなかった。






「これは・・・・・先程までは熱帯の森林ではなかったか!?」

「これでは身を隠すどころではないではないか!」

「・・・・!」「・・・・!?」「・・・!!」


周囲を確認し動揺して取り乱す将官達に対して一人沈黙を保っていた大尉と呼ばれた男は1つ溜息を吐くと大きく息を吸い込んだ。


「落ち着け!先にも報告があっただろう!すでにここは戦闘地域では無いとのことだ安心しろ!」


その一喝によって落ち着きを取り戻す将官達。

取り乱すのも致し方ない。つい先程までそこは密林に囲まれた洞窟だったのだから。

今や、小高い草原の丘の中ほどに出来た洞窟に成り果てて、一切遮蔽物が無いのだから。

そこから見える物は澄んだ青空と丘を下ったところにある周囲と取り囲む森、遠く北の山々と西の雲、東は雲一つ無く、南側はどこまでも続くかのような森と時折頭を出している岩山。

そして爽やかな風が将校達の顔を撫でる。

どう見ても南国の熱帯雨林では無い。


「斉藤中尉、小林中尉、貴官らの中隊はどうやら行方不明のようだな」


「なっ・・・」


「部下を一瞬で失った貴官らには悪いが、これより残った第2中隊へは斉藤中尉、本部中隊へは小林中尉、両名を各中隊副官に任ずる。すまないが頼んだぞ」


「くっ・・・・了解しました・・・・・」「右に同じく了解しました」


悔しそうに顔を歪めながらもしっかりとした敬礼にて応じる両中尉に頷きで返す大尉。


「では残った第2中隊指揮官である熊澤中尉、消失中隊をこれ以上捜索してもこれではあまり意味が無いだろう。なにせこれだけ見晴らしがいいんだからな。というわけで捜索を変更、周辺探査に移れ」


「了解しました!この熊澤がなにがしか見つけてみましょうぞ!」


「頼んだぞ」


豪快な性格なので探索には向いてなさそうだが熊澤の副官は中々出来る男である。

任せても大丈夫だろうと一息吐く大尉。

そうこうしているうちに捜索に出ていた中隊より伝令が走ってくるのが丘の上から見える。


「ん?やけに早い伝令だな、なんかあったんか?」


「熊澤の部下はせっかちだからなぁ・・・・」


「確かに。早とちりも多いしな。」


「はっはっはっ、そう言ってやるな。これでも部下の信頼は厚い男だぞ熊澤中尉は」


斉藤や小林にそう言われながらも特に気にした様子も無い熊澤だが一応大尉からフォローが入る。


「どうれ、何があったのか言うてみい!」


息も切れた様子の伝令兵に対し酷な事をいう。


「はぁはぁ・・・はっ失礼しました!報告!ここより南方500地点にて街道と思しき道を発見!その街道にて盗賊と思しき集団より待ち伏せにて2馬車の集団が襲われる寸前であるのを確認!以上!」


「盗賊?どういうことだそんなもの居るものなのか?」


首を傾げる髭の強面に思わず後ろの2人の中尉より噴出す声が聞こえる。


「はっ!武装が剣や盾の時代錯誤な物ばかりなので詳細は不明ですが間違いなく、襲おうとしているのは米英どものようにも見えます!」


「どういうことだ?何かの罠か?うーむ・・・・・確認してみないことにはどうにもならんな」


考え込みそうな熊澤に大尉が横から尋ねる。


「中尉どうした?確認に行かないのか?」


「おっと失礼大尉殿、すぐに確認してまいりますので「何、気にするな俺も確認に行こう」って、大尉殿も来られるのですか!」


困ったような顔で頭を掻いている。


「ああ、何か不味いか?」


「い、いえ不味いことはありませんが危険やもしれませんぞ!」


「戦地なのだからどこでも同じであろう・・・・ああ、戦地ではないかもしれないのだったな」


「不明な状況ですからな、尚更ですぞ」


少し考えるような仕草をする大尉はすぐに何かを思いついた顔をする。


「ではこうしよう!・・・小林中尉!貴官にはここの守備を任せる!鼠一匹通すな!斉藤中尉!熊澤と共に俺の護衛につけ!以上!」


「「了解しました!」」


「これでいいだろう?」


「はっ、でも気をつけてくだされよ」


敬礼と共にそれぞれ準備を始める斉藤、小林、両中尉を尻目に大尉はさっさと馬を取りに下士官を行かせる。


ものの数十秒で洞窟より馬を2頭連れてくる下士官に礼をしすぐに跨る。

「では行くぞ!はぁっ!」


「はぁっ!後は頼んだぞ小林ぃ!」


「大尉を頼みます、熊澤さん」


こうして出発して丘を降りるとすぐに森になり、3分ほどで例の地点へと到着した大尉と中尉が見たものは。

これぞ略奪という光景だった。


2輌の馬車の前後を前を30名、後ろを20名程の武装した盗賊を思わせる集団が取り囲み思い思いに殺し犯し嬲っている。

襲われているのは商人のようでもあるが護衛であろう数人の青年と少女も同じように剣と盾、弓や杖などを振り回しながら応戦しているが、いかんせん人数差が酷い。

周りを取り囲まれ絶対絶命である。

後方の馬車とその乗員はすでに事切れているか犯されているかのどちらかだ。すでに事切れたまま犯されている者まで居る。

前方の馬車も御者はすでに切り伏せられ馬の側で事切れ、後ろから逃げ出す者もことごとく切り伏せられている。

女は犯し奪い、男は殺し奪う。まさしく鬼畜の如き所業を目にし、怒りに震える中隊の兵も居た。


「どうします大尉」


「何を迷う!軍人武勇を尊ぶべしと言うだろう!全軍に告ぐ!罪無き民に不逞を働く野盗を許すな!全軍射撃用意!狙い野盗武装集団!外したら今晩は飯抜きだ!撃ぇっ!」


軍刀を抜き敵と定める野盗へ向け、振り下ろしながらの号令と共に小銃の発砲音が鳴り響く、立っていたほぼ半数の野盗は驚きの表情と共に倒れた。


「熊澤中尉!突撃を敢行せよ!」


「我らが祖国に栄光あれ!突撃ぃ!」


辰馬の指示に、すかさず熊澤より突撃令が飛ぶと怒号と共に中隊が突撃していく。

銃剣を装着した小銃を持った歩兵中隊約140名が敵野盗を押し流していく様に殲滅していく光景は統率がよく取れている。

残った20数名ほどの野盗にこれをどうこうする力はあるまい。

そう判断した大尉と熊澤はすぐさま馬車へ駆け寄り声をかける


「生存者はいるか!?」


「ひぃっ!」


「どうか命ばかりはお助けください!」


中に居たのは11、2歳ほどの少女と18歳手前ぐらいの女性だけであった。

そのどちらにも手枷が嵌められ、逃げれないように手枷に縄で馬車の骨組みに括り付けられている。


それを見た大尉は無言で刀を抜くと振りかぶった。


「あぁ・・・・どうかどうか・・・・」

「ひっ・・・・」


振り降ろした刀は縄のみを切断しそのまま鞘に納め片膝をつき声を掛ける大尉。


「もう大丈夫だ、しかし何故縛られていたんだ?」


返事をしようと女性と少女が口を開きかけると同時に馬車に顔を突っ込み熊澤が声をかけた。


「大尉、外の人はほぼ全滅ですぞ。応戦していた青年と少女達は瀕死の重傷ですが幸い少女の方は傷が浅いのですぐに持ち直すでしょうな。ただ青年は残念ですが・・・・」


「そうか、致し方あるまい。青年は介錯してやれ。そしてその他の死体もそれぞれ埋葬してやろう」


「野盗もですかい?」


「もちろんだ、我々は帝国の威信を背負う陸軍だぞ例え敵であろうと死者には敬意を持って当たるべきであろう」


「はっ!失礼いたしやしたぁ!直ちに埋葬を始めます!」


そう敬礼して出て行った熊澤は馬車の中にも聞こえる大声で檄を飛ばす。


「埋葬するぞ!ほれぃ!さっさとせんかぁ!怪我してる奴は手当てしてもらえ!それ以外は森の中に穴掘りじゃぁ!大尉殿は全員埋葬するって言っておるからのぅっ!」



「元気なのはいいんだがもう少し声を絞ってはくれんだろうか・・・・」


あまりの大声に思わず苦笑する大尉はそうぼやく。


「あ、あのっ!ありがとうございます!」


「ありがとうございます・・・・」


「ん?ああ、外の状況が分からないもんな、我々は野盗ではない。野盗に襲われているのが見えたんで助けに来たんだが少し遅かったか・・・・」


「い、いえ!・・・・野盗ではないのですか・・・・・?」


「違う。外の様子を見るか?来るといい」


「「はい」」


そう言って馬車の幌を捲くり上げ出て行く大尉に付いて行く2人は初めて外の様子を目にする。

そのあまりの光景に開いた口が塞がらないようではあるが。



それもそうだろう辺りには大尉と呼ばれる男と似たような格好をした大勢の男が死体を森に運び込む光景と怪我の手当てをしている集団、そして大尉と呼ばれる男の前に整列する30名ほどの同じく似たような格好をした男たち、その統率の取れた動きと周囲の光景を見てどこかの軍隊なのは間違いないだろうが、この世界の人間から見ればどう見ても軽装すぎる軍隊である。


「あ、あの!どこかの軍隊なのですか?」


「・・・・・・・・」コクコク


おろおろとする女性と無言で同調している少女に思わず苦笑した大尉は居住まいを正すと、敬礼と共に言う。


「我々は大日本帝国陸軍、第8師団歩兵第17連隊所属第2大隊、そして私は大隊指揮官、佐藤辰馬大尉であります!」


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