第六話 仲間づくり

『愛しき私の子たちよ、聞こえますか』


 騒がしかった辺りが静かになる。周囲の人々にも伝達されているのだろう。女神の声が頭の中に響く。


『この空間に皆様が降り立ってからすでに四十五分の時間が経過いたしました。今から十五分後、皆様は異世界へと旅立つこととなります。ただし、今から向かうのは皆様にとっては未知の空間です。一人で立ち向かうのは心細いことでしょう。そこで。私から皆様にちょっとした贈り物ギフトを用意しました』


 メダルの時同様に、目の前の空間から突如光が放たれる。光は数瞬で止み、後には大きな緑色の宝石がついた腕輪が宙に浮かんでいた。


『その腕輪は仲間パーティーを結成、解散するためのアイテムです。皆様には今から仲間パーティーを作ってもらいます。異世界へ皆様を送り出すときは仲間パーティー単位での転送となります。一つの仲間パーティーには最大で十人までが所属できます』


『愛すべき私の子が逆境に飲み込まれることなく、仲間とともに使命を果たすことを祈っております』






「パーティーシステムですか。サイチさん、どうしますか?」


 神託が終わり、あたりに喧騒が戻る。エイムからの問いかけに僕は首を傾げる。

 パーティーか。団体で行動することのメリット、デメリットは何だろうか。


「単純に人数が多い方が有利、ってわけでもないんだよな」


「おそらくそうですね。当然人数が多ければ戦力は増し、敵と出会った際に生き残れる確率は上がるでしょう。役割も分担できるため作業の効率を上げることもできます。ただし、人数が多いほど、敵から発見されるリスクが高まりますし、あまりに人数が多くなれば統制が取れず逆に作業の効率を落とすことになりかねません」


「うん。じゃあ、この人数で行こう!」







「はあ!? サイチ。あんた、エイムの説明を聞いていたのか? 基本的には人数が多い方がいいんだろ?」


「それに、私達には敵に攻撃できるスキルを持った人がいないんだよ? どうやって戦うの?」


「どうせサイチさんの事ですからこれ以上人が増えると居心地が悪くなるとか思っているんじゃないですか? 勧誘は私がしますから、大丈夫ですよ」


 ニイト、マオ、エイム。三人から総攻撃を食らう。


「いや、だって。知らない奴と大勢で一緒に行動するとか無理だろ!? しかも今から昼夜を問わずなんだぞ」


「だとしても少なくともあと一人、攻撃のできるスキルを持った人がいないと。今の私達はほとんど戦闘能力を持たないのですから」


「それにみんなで一緒の方が楽しいと思うよ」


「サイチは人付き合いが苦手なのな。はは。別に早く異世界人をぶっ叩いて地球に帰ればいいだけだろ」


「嘘!? まさかの味方ゼロ!?」


 少数の意見が多数派に押しつぶされるというのは世の常である。そんな理不尽は認めたくないが、当然僕の意見が皆に聞き入れられるわけもなく、僕らは結局仲間探しを始めることとなる。


「その前に、今のメンバーでパーティー登録を済ませてしまいましょうか」


「……ああ、そうだな」


 エイムの提案に僕らは腕輪を装着する。宝石部分を互いに合わせることでパーティーに所属したと判断されるようだ。僕がエイムと腕輪をかちあわせると緑色だった宝石は赤色に変化した。

 パーティーを抜ける時にはもう一度パーティーメンバーと宝石を合わせればいいらしい。ニイトとマオの宝石も同じく赤色へと変わる。


「これで正式に私たちは仲間になったというわけですね」


「なら改めて自己紹介しねえか。俺は内田ウチダ新都ニイトだ。ニイトって名前だがこれでも警察官でな。あの災害で世界がめちゃくちゃになっちまって、それでその原因が異世界からの侵略だっていうだろ! 俺としてはそんなの許せるわけがねえからな。絶対に異世界人どもをぶっ叩いて、地球に平和をとりもどしてやる」


 胸の前で握りこぶしを作るニイトは、ニヤリと野生的に笑う。広い肩幅に厚い胸板。その肉体は服の上からでも筋肉の盛り上がりが分かるほどだ。警察官ということは武術訓練も受けているだろうし戦闘面でも頼りになりそうだ。


「じゃあ次、私! 私は浅木アサギ真央マオ。地球では劇団員をやってました。ニイトとは高校の同級生で、大学は別の所に行っていたから最近はあってなかったんだけど。ここに来てから再会して、ほんと偶然! 戦いでは役に立てるかわかんないけど、世界の危機に黙ってるなんてやだからね。足を引っ張らないように頑張ります!」


 開いた手を天井に向け突き上げたマオも、ニイトに続き元気な声を響かせる。小柄でやせ型ながら活気あふれる雰囲気のマオは正直僕が苦手なタイプではあるのだが。人懐っこい笑みは自然と惹かれる魅力を持っている。


「じゃあ、次は僕が。神主コウヌ佐一サイチです。大学生です。マジシャンの助手をやっている関係で手先は器用です。僕がここに来たのは死んだ友達の為です。世界を救って、もう一度友達と夢を追いかけるのが僕の望みです。皆さん、よろしくお願いします」


 早鐘を打つ心臓。自己紹介ってどうしてこんなに緊張するんだろうな。


「サイチさん。ガチガチに緊張しているじゃないですか。じゃあ、最後は私が。久利クリ英夢エイムと言います。サイチさんとは小さいころからの友人で家族ぐるみの親交があります。私がここに来たのは、やっぱり地球を守るためですね。アニメにゲームに小説に。たくさんの素晴らしい文化を持った世界が壊されるのは我慢なりません。運動は苦手ですが頭は回る方だと思いますので、お願いしますね」


 人を茶化しておきながらエイムもかしこまった言い方で自己紹介を終えた。ニイト、マオに関してはまだ話しかけづらいのだが、向こうに行ったら命がかかっているのだ。そんなことも言っていられないだろう。今のうちに慣れておかないと。

 僕は自己紹介の内容を思い返しながら質問を組み立てる。


「そういえば、ニイトさんとマオさんは付き合ってるんじゃないんですか?」


「いや? ただの友達だな」


「うん。ニイトとは他の友達と一緒に遊びに行くことはあったけど付き合ってはいないよ?」


 二人の返答に唖然とする。いや、さっきまでの親密さは何だったんだ? どう考えても普通の友達じゃねえだろ。二人の明るい性格に若干の嫉妬心を抱きつつ僕は首をひねる。


「それよりもサイチさんだよ! マジシャンの助手ってすごくないですか!? サイチさんもマジック出来るんですか!?」


「……死んだ友達って言うのがマジシャンなんですよ。僕は彼女のファンなんです。皆を笑顔にするという彼女の夢を叶なえるのが僕の夢なんです」


「っ!? ごめんなさい、亡くなられていたなんて」


「いえ。いいんです。それにまだ蘇りのチャンスはあるんです。どんなことがあっても僕は彼女の為に絶対にあきらめませんよ」


 僕は一人決意を述べる。皆を幸せにするのがコミと僕の夢なんだ。こんなところで立ち止まっているわけにはいかない。


「機会が有ったらマジックを披露しますよ。手先は器用な方なんでテーブルマジックぐらいだったら道具があればできるからね。それよりも今は異世界の対策の話をしましょう」


「なあ、ちょっと質問いいか?」


 ニイトから質問が飛ぶ。


「攻撃スキルを持った奴を探しに行くって話だったよな。これから行くのは周りが敵だらけの異世界なんだろ? それだったら攻撃スキルの重要性は他のパーティーだって気付いているよな。それだったらそういうスキル持ちは取り合いにならないか?」


「うーん。どうでしょうね。それはスキルの取得自体にも言えることで自分のメダルで攻撃スキルが入手できるならだれでもそれを取得すると思います。ですから攻撃スキルを有している母数自体も多いと思いますよ」


 やはりこの手の考察、エイムは得意なようだ。素早く的確にニイトの質問に答えてしまう。


「確かにエイムの言うことにも一理あるけど急いだほうがいいのは間違いないよな」


「そうですね。攻撃スキル持ちの数がいたところでやはり強力なスキルを持つ人は人気でしょうし、接触するなら早い段階がいいでしょうね」


「じゃあ手分けしてちゃっちゃと仲間をぶっ決めちまおうぜ!」


「では私とサイチさん、ニイトさんとマオさんのペアで探しましょうか。一人だと話しかけづらい人もいるでしょうし」


 ニヤリと意地の悪い笑顔を向けてくるエイム。ああ、そうだよ。一人じゃ話しかけられねえよ。コミュ障で悪かったな。


「猶予は十分ほどです。パーティーに加えるかの判断は各々に任せます。あと、できるだけメダルやスキル、他のパーティーの情報も集めてください。今後の参考になるかもしれません」


 エイムの掛け声で僕らは二手に分かれ勧誘へ向かうのだった。





「それでエイム。どうやって仲間を探すつもりだ?」


「まずはまだ腕輪が緑の人に片っ端から鑑定スキルを使ってみます。鑑定スキルを使えばスキルのほかにもその人の本名もわかりますから大体どの言語を使うかも推測できます。日本語か英語を話し、攻撃スキルを持つ人間で当たってみましょう」


「エイム。英語も話せるのか?」


「いえ、学校で習ったレベルですよ。でも今は尻込みしている場合じゃありませんからね。日本人に限定していたら見つかるとも思えませんし」


「うへえ。僕には絶対に無理だ」


 おそるべし、エイムのバイタリティ。

 こうしてエイムのスキルに頼り仲間探しを始めて僕たちの下にその声は届いた。




「俺様TUEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!」




「サイチさん! 今の日本語でしたよね。しかも俺TUEEEって、攻撃系のスキル持ちの可能性が高いですよ! まだパーティーに所属してないようだったら誘ってみましょうよ!」


「……」


 僕は何事もなかったかのように音源から遠ざかる方向へと歩を進める。


「って、サイチさん! 何スルーしようとしてるんですか。行きますよ」


「いや、絶対嫌だよ!? 百パーやばい奴じゃん。言語が同じでも話が通じる気がしない、って、ちょっとエイム!?」


 いきなり襟首をつかまれた僕はエイムにひきづられる。あれ? エイムってこんなに力があったっけ。これも体が変化した影響か、と。関係ないことを考え現実逃避をするうちに僕はとうとうの前へと連れてこられてしまうのだった。

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