第四話 スキルの闇

「でも、よかったですよ。サイチさんと合流出来て。会場がこれだけ広い場所だとは思いませんでしたからね、びっくりしましたよ」


 エイムはそう言ってさわやかな笑顔を僕に向ける。

 久利クリ英夢エイム。幼少期からの友人で、僕と同じく世界の危機に女神に選ばれた人類の一人である。運動は苦手だが、頭は良く努力家な秀才タイプの男だ。気のいいやつであり、コミとの約束が無い授業後などはよくつるんで遊ぶ仲だ。


「こっちはお前の見た目の変化にびっくりしたけどな」


「容姿の変化はこの空間に送り込まれた影響みたいですよ。異世界の環境に適応するために、女神により肉体が作り替えられたのだそうです」 


 僕の知るエイムは少しぽっちゃりした純日本風の相貌で、身長も160㎝前後だったはずだ。だが、今目の前に現れたエイムの姿は僕の知るものとはかけ離れている。190㎝はあるだろうかという長身に、髪型は銀色のオールバック。西洋人を思わせるスッと通った鼻は凛々しい眼元と合わさり、イケメンの部類に入る相貌となっている。


「すると、僕の体も変化しているのか? 鏡が無いから気付かなかったが」


「ええ。サイチさんも西洋人風の顔に変わっていますよ。身長は大差ありませんが髪色は白髪になっていますね」


 言われて髪に手を伸ばす。触っただけではわからないが、確かに腕などは筋肉質のなったように感じる。僕もエイムのように変化を遂げているのか……うん。悪い気はしないな。


「それにしてもエイムはよく僕を見つけられたな。顔が変わっているのだとしたら、この人数の中から見つけるのは不可能に思えるけれど」


 会場は広く、集められた人類も一万人に達する。その中から顔の変わった人物を探すことは容易なことではないはずだ。少なくとも僕が逆の立場だったら見つけられないだろう。


「私の取得したスキルで探したからですよ。スキル『鑑定』。視覚でとらえた物の知識を手に入れることができるスキルです。【目】に【脳】を装填して得たんですよ。それでサイチさんの名前を探したんです」


「へえ。エイムはもうスキルを取得したんだな」


「ええ。異世界ものでスキルと言ったら『鑑定』は鉄板ですからね! 実際に使ってみると例えば人なら名前や年齢などの基本情報のほかに、その者が有するスキルもわかるみたいで戦闘の役にも立ちそうですよ」


 早口に語るエイム。そういえばエイムはライトノベルをよく読んでいたな。その中には当然異世界ものもあるのだろう。


「私の前に未知は無い、てね。ところでサイチさんはまだスキルを取得していないみたいですけど、何のメダルだったんですか?」


 首を傾げるエイム。今の容姿であれば何気ない動作であってもよく見栄えがするものだ。

 エイムはこういう状況には詳しそうだな。この際だ。エイムに僕のスキルも相談するか。


「僕のは【骨】だな。どんなスキルにすればいいと思う?」


「うーん。【骨】ですか。普通に考えれば【肌】に装填して身体の硬化、って感じですよね。後、骨には再生や造血能なんかもありますが。どういう能力にするにしろ耐久性や防御力の向上といった感じになりそうですね」


「やっぱりそうなるよな。そうすると……少しでも攻撃ができそうな身体の硬化がいいのかな?」


「はい。そうすると、サイチさんが敵からの攻撃を受けて、私が戦闘をサポート。敵にダメージを与えられるようなスキルを持った人を味方に出来ればバランスはとれると思いますが」


「ああ、複数人で行動するっていう考えもあるのか。自分のスキルの事ばかり考えてあまり考えが及んでいなかったな」


 確かにここには一万人もの人間がいるのだ。目的が同じである以上協力した方が効率的だ。敵にダメージを与えられるようなスキル。うん。一人心当たりがあるな。


「じゃあ、スキルは取得しておくか。【肌】に【骨】を装填!」


 手にしたメダルを肌に押し当てた瞬間、目の中で火花が散るような感覚が襲う。パキパキ、と。乾いた木の枝が折れるような音に続き、腕の表皮から色素が抜け落ち全体が白く染まっていく。

 おそらく変化は全身に起きているのだろう。腕の時に感じた表面をかきむしられるような感覚が全身を覆い、そして沈静化する。


「これでスキルが得られたのか?」


「おー、すごいですね! 見た目はバッチリ、全身が骨に覆われたようになっていますよ。硬さは……おお。壁を殴っているような感覚です」


「おお。マジだ」


 太ももを叩いてみると、カツンと石同士を打ち合わせたような音がする。体を見回すと、関節部分を除き全身が骨でおおわれており、関節部分も骨が重なり合っており直接は露出していない。イメージとしては白い全身甲冑を着ているようなものだろうか。


「難点としては少し重いことだな。十キロぐらいは体重が増えてるんじゃないか?」


「それはなかなかに“骨”ですね! あっ、スキル名は『硬化』ですって。そのまんまですね。あと、硬化状態はON/OFFの切り替えができるみたいですよ。スキル解除と念じてみてください」


 エイムの鑑定結果を受け、僕はスキルの解除を念じる。白い肌が元の色を取り戻していく。だけどエイムがいてくれて助かった。あのままずっとスキルを発動させていたら、明日は筋肉痛確定だったな。自分でスキルの詳細が分からないというのは不便だし『鑑定』は必須レベルに有用なスキルなのだろうか。

 その後は『硬化』と『鑑定』スキルの詳細をエイムから聞き、何度か硬化を発動し使用感を確かめた。


「戦闘の時だけ発動すれば何とかなりそうだな。瞬時に着脱可能な全身鎧って感じか。それじゃあ、スキルも決めたし次は仲間探しだな。誘えそうな人に心当たりがあるから向かってみるか」


「了解です。サイチさん、お願いします」


 目指すのは先ほどの胃袋男の所だ。胃液はPH1.5程度の強力な酸だったはず。それを生産し、全身に纏うことができるとなれば見た目はともかくなかなかに強力なスキルではないだろうか。




「ぎゃあああああああああああああああああああああああ、目がああああ、目がああああああああああ!」


「なっ!? なんだ」


「日本語? 今のってサイチの言ってた仲間候補の人の声じゃないですか?」


 突如響き渡る絶叫。エイムの言う通り、確かに今のは胃袋男の声であるように思う。絶叫を聞きつけたのだろう。声の発信源には人だかりができ始めていた。

 僕らは顔を見合わせると、その人だかりの中へと走り寄る。

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