第8話 関心と感心

 教授に会う前のこと。ちょっと話しておけと言われたので話して見ることにした。

 この次の日。僕は母に頼まれて買い物に出かけたのだったが。

 まみと遭遇した。須藤まみ。きちんと紹介するのはこれが初めてだろうか。

「あ、工藤君。」

 おーい。いつも返事は何個か用意しているが、これを使うのは久しぶりかも。

 しばらく話していると、

「本とか読んでいる?工藤君は」

 面倒くさいからな。本は読まないよ。漫画だったら貸すけど?でも、お前さんには必要ないかもね。

「一つぐらい、一生に、ない?」

 ないよ。えほんのはなしでもしろっていうのか?……あ、でも、そういえば、昨日数学の本を読んだな。

「お勉強?」

 いや、そんなんじゃないよ。本当の大学生に比べたら、俺なんて手も足も出ないと再認識したまでさ。

「ひょっとして……大学の数学書?」

 ああ。聞いていてわからないか?僕にはよくわからない。あんな記号の集合体が世界を決定しているなんて信じられないよ。と言いかけた時だった。

「すごいじゃない!どれくらい読んだの?」

 おや?すごい食いつきがいいぞ?しかし、急に態度を帰るのも癪に触るし。……ま、三時間かな。

 ん?何笑顔でこっち見ているんだろう?顔になんかついてるか?

「すごい。取り柄できたんだ……」

 取り柄?なんの話だ?そもそも反応がおかしい。そんなにすごいかな。確かに数学の本は読んだけど全然わかんなかったんだぞ?

「それでもすごいよ。えらいよ工藤君は」

 こいつに褒められたの、久しぶりなような気がする……。

 ろくに読めてもいない本なのに……。

 須藤。お前なんでそんなに優しいんだ?

「そんなことないよ。普通だよ?そうだ。買い物ついでにたい焼き奢ってあげる」

 いいのか?嬉しいな。小銭が少なくて背に腹は変えられない状況だった。そういえばたい焼きは腹から食うのか尻尾から食うのかいまいち食い方が今だにわからないんだが。とは口に出さなかった。

「頑張ってね」

 いや、頑張るって、お前……。

 確かに頑張るところなのかもしれない。でも、僕の動機はあくまであの指輪との剥離だ。

 それでも、なんか久しぶりにスッキリした気がした。

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