第3話
「おーっす!
「おはよ」
いつもと同じように元気な声と共に、涼太は私の左肩をポンッと軽く叩いた。
「……」
初めて声をかけられ、遊んだ日から私と涼太はほとんど一緒に行動を共にしていた。もちろんそれには『理由』がある。
「あー、そういえばこの間借りた本。今日返すな」
「へぇ、涼太でも理解出来たんだ」
そう、涼太の家はかなり近いところに……というか、私の家を二軒間に挟んだところにあった。まぁ、それも遊んだあの日に分かったコトだが。
「むっ、失礼なヤツだな」
「この間のテスト結果を見ているとね」
私がそう言うと、涼太は「うっ」と痛いトコロを突かれた……といった表情になった。
「いっ、いやー。でも、赤点は何とか避けている訳だし」
「私がノートを見せている上に、教えているからでしょ」
小学生の頃はそこまで思わなかったが、中学生になると、涼太の頭の悪さが徐々に
「むしろ私に感謝してくれてもいいくらいだけど?」
「本当に感謝しています。お陰さまで遠征に参加できます」
涼太は改まった口調で深々と頭を下げた。確かに、この間のテストで赤点になってしまうと遠征に参加できなかった。
そこで困った涼太は私に頼み込んできた。
「まぁ、あんたがいないと困るのはチームだろうし」
私と涼太はあの日からほぼ毎日あの公園で遊んでいた。
『なぁ、俺たちのスポーツ少年団に来ねぇか?』
『……え?』
そんなある日。
脈絡もなければあまりに突然の提案に、私は思わずその場で固まり、せっかく続いていたラリーを止めてしまうほどに驚いた。
最初は「ゲームすら買えないほどの貧乏だから」と断っていたが、最終的に私はそのスポーツ少年団に無理やり連れて行かれた。
そして、そのスポーツ少年団は『バレーボール』だった。
しかし、返事を渋っていると、どこでその話を聞いたのか母は「私はあなたが友達と仲良く出来ているのがうれしい」と入る事を快諾してくれた。
私はそのありがたい言葉に後押しされる様にそのスポーツ少年団に入った。
「でも、女子も今度練習試合あんだろ?」
「まぁね」
頭の良さは……正直残念なところだが、それをカバーするほどの『運動神経の良さ』がある。
でも、男子と女子が同じ会場で試合をする事はあっても、同じコートで男子と女子がごちゃ混ぜで試合をする事はない。
しかし、春にあったバレーのクラス対抗の球技大会では男女ごちゃ混ぜで試合があった。
その時、私は涼太と同じチームになり、涼太の凄さを身をもって体感した。
『ああ、こいつは……私と次元が違う……』
何においてもブレない体幹の強さもあり、そもそも『身長』が高い。同級生たちよりも頭一個分高く、精神的に脆いところはあるが、なんだかんだでポジティブな思考の持ち主で、すぐに立ち直る。
それに何より『バレーボールが好き』で『負けたくない』という気持ちが全面的に出ている。
私にはそれが『異次元の強さ』に見えた――。
「その次は最後の公式戦かぁ」
伸びをしながら呟いた言葉に思わずドキッとしてしまった。
「どうした?」
「いっ、いや。なんでも」
涼太は多分、いわゆる『強豪校』と呼ばれる学校からたくさん声がかかるだろう。
「?? まぁ、いいや。お互い頑張ろうな!」
「えっ、ええ。もちろん」
曖昧にそう答えた――。
その公式戦で、私と涼太のチーム……というか学校ははお互い全国大会へと駒を進める事が出来た。
しかし、私は二回戦で敗退し、涼太は準優勝した。
大会の次の日、涼太の目が大泣きした代償で目が腫れて二重が一重になっている事に気がついてはいたが、何も言わずいつもと同じように接しようと気遣ったことをよく覚えている。
自分で分かっている客観的事実である『負けた』という事を他人に指摘されるのは、あまりいい気分はしないだろう……と頭で分かっていたからだ。
だって、自分がそう色々と励まされても……その事実は変わらないし、決して嬉しいとは思えなかったから……。
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