第2話
「お前。いつもここにいるよな」
公園のベンチで、本を読んでいる私の頭上からそんな声が聞こえた。
「……」
最初は無視しようと思ったが、しつこくされるのも面倒に思い、仕方なく顔をあげた。
目の前に立っていたのは『一人の男の子』だった。
黒い髪をツンツンと立たせ……というか多分、直し忘れたであろう寝グセと思われる髪型に、七分袖のシャツに短パンという普通の服装。
しかし、片手にはなぜか『ボール』を抱えられていた。その色は濃い青と黄色……。
「何? 私に何か様?」
小学校に入学するタイミングで私はこの地域に引っ越してきた。しかし、小学校に入学する前に幼稚園や保育園ですでに顔見知りになっている場合が多い。
つまり、卒園したらそのまま小学校に入学……という形になる。
そのすでに出来上がった輪の中に入る事も出来ず、私は完全に友達を作るタイミングを失ってしまった。
「いや。なんでいつもいるのかな……って気になって、友達いねぇのか?」
「あんたに関係ない」
学校から帰った後、特にやることもない。宿題もすぐに終わってしまう。
親が家にいれば多少は話が違ったかも知れないが、残念ながらそれはなかなか難しい。そもそもここに引っ越して来たのも両親が離婚したからである。
一人で家にいるのも寂し……じゃなくて暇だし、ゲームを買うほどお金に余裕もない。
だから私はもう何度も繰り返し読んで内容もほぼ覚えてしまった昔に買ってもらった本をこの公園で読んでいたのだ。
「……」
さすがに素っ気なく言い過ぎてしまっただろうか。
男の子が無言のまま言葉に詰まっている様子をチラッと見てちょっと「もっと他にいい言い方があったんじゃ……」と自己嫌悪した。
「じゃあ今、暇か?」
「え?」
しかし、その男の子は私の予想に反して「そんな事は気にしていない」と言わんばかりにそう言ってきた。
「いや、いっつも同じ本を読んでいたし、たまに空を見上げているのを見ると……さ。暇なのかな……って」
「暇だったら、何?」
「一緒に遊ぼうぜ! 一人でやっていても楽しくないんだよ」
男の子は「よし来た!」と言うかの様に満面の笑みで、私の前にズイッと持っていたボールを突き出した。
「私、やった事ないからものすごく下手だけど」
「いいんだよ、誰だって最初は下手くそなんだから」
ちょっとした抵抗のつもりで言ったのだが、どうやら男の子には上手く伝わっていない様だ。
「分かった」
「よっしゃ!」
まぁ、やる事も特になく暇を持て余していたから別にいいや……と、納得した。
「あっ、そうだ。お前、名前は?」
「お前じゃなくて『
あの時、思わず憎まれ口を叩いたが、そういえば、彼に名前を聞かれるまで実は自己紹介をしていなかった事を後になって気がついた。
「そっか、俺は
「よっ、よろしく」
太陽の様に明るい笑顔とともに、彼は手を差し出した。
「おうっ!」
「……」
その手を取って、立ち上がらせられて時ようやく気がついた。
「? どうかした?」
「いっ、いや」
彼の身長が、この当時から「かなりデカイ」と言われていた私よりも頭一個分高い……ということに。
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