第3話


「はい。どうぞ」

「あっ、ありがとうございます」


 その人は、私の前に差し出した。一礼して、私はそのコップを見た。その中身は、チョコレートの様にとても甘い香りがした。


 一口飲むと、甘そうと思った見た目以上にかなり甘かった。しかし、口にするには甘すぎるなどという甘さではなく、優しい甘みが口の中に広がった。


(あっ、美味しい……じゃなくて!)


「あの」

「ん?」


「言葉遣いが……」

「えっ、ああ。ごめんなさい。今、気が付いたわ。不愉快な思いをさせたなら……」


「いえ、そんな事はないです。それよりも、なんで私をお店に?」

「なんで……って、あなたがそこまで欲しがっているのなら作ろうかな? と思っただけよ。それに……」


 その人は、まるで私の表情を観察する様に自分の顔を近づけた。


「あなたが言った『おうえんしたい』って、スポーツとかの類じゃないわね」

「っ!」

「その反応は当たりって事……かしら?」


 まるで私の表情を見て見透かし、そう断言する様に言ったその人の言葉に私は思わず驚いた。


「……まるで私がここに来た理由を悟っている様ですね。なぜ、そう思うんですか?」

「そうねぇ、1つはあなたがどうしても『今日』欲しいと言った事と……」


 しかし、このままその人の言葉を飲み込むのは、なぜか自分の中で無性に負けた気がしてしまい、咄嗟にそこまで至る理由を聞いている自分がいた。


「あなたが『彼をおうえんしたい』って言った言葉とその顔……かしら?」

「…………」

「最初はどうしても『今日』欲しいという事は、大会等が近いからだと思っていたけど」


 確かに、この人の言う通りだ。大会の日程など色々な都合はあると思うが、「今日どうしても!」という話であれば、その大会などは今日もしくは日曜日という事になる。


「でも、あなたの言いよどんだ態度と、あの何かを思い出して悲しそうな顔を見てピンときたのよ。だから。あぁ、この人の言っている『おうえん』は色々悩んだ上で出てきた言葉なんだ。ってね?」

「……」


(私のたった一言でそこまで見抜くなんて……さすがだなぁ)


「でも、あなたはどうやってここに来たのかしら?」

「……最近は、色々な方法で情報が飛び交っている時代なので」


「……そう。じゃあ、あなたがここに来たのは、その色々な方法を使って来たのよね? 」


 意地悪そうな顔で小さく笑ったその人は、小学生の頃にいたイタズラっ子そのものに見えた。


「はい。なんとか見つけられました」

(……そう、あれは忘れもしない)


 私たちにあの美味しい『チョコレート』をくれた人探していたのだ……。


「……」

「なぜそこまでして?」


「……予想がついているのに、わざわざ聞くなんてそんなの……ズルいですよ」

「じゃあ」


 フッと小さく口で私は笑った。しかし、その人は私の言葉を受け、寂しそうな顔で自分の予想が当たっていた事を確信している様だった。


「余命宣告をされて半年。でも、彼は生きています」

「じゃあ、もう治ったとか?」

「まさか、そんな事ありませんよ。むしろいつどうなるのか……」


(そう……いつ、私の前からいなくなるのか)


 最初はただの『風邪』だと言って早退した。しかし、検査をする為入院する事になり、結果的に聞かされたのは……『余命宣告』だった。


「…………」

(そんな話。ドラマとかでしかないと思っていた)


 しかし、私の育った環境も……他人からしてみれば『ドラマ』の様かもしれない。


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