第4話


 私は、まだ1歳にも満たない頃に起きた『マンション火災』に巻き込まれた。その時、私は母に守られ、無事だった。


 しかし、私を守った母はその後、亡くなってしまった。元々、家族と呼べる人は母しか居なかった私は、孤児院に預けられ、育った。そんな私と仲良くしてくれたのが、『彼』だった。


「私のいた孤児院の子供たちは、みんな大きな子たちで、なぜ自分がここにいるのか悟っている子が多かったんです」


(でも……)


「彼は……彼だけは、いつも明るい笑顔だった。でも……」

「そんな『彼』もまた私と似たような境遇だと?」


「そう聞かされたのは、会って間もない頃です。まぁ、お互い似たような……『何か』を感じたのかもしれません」

「……あの」


「あっ、すみません。突然そんな話をされても困りますよね」

「いえ、そうじゃなく……。あの、さっきから聞いていると、その彼は『余命宣告』されたんですよね?」


「そうなんですけど、今日いきなり呼び出されたんです。『外泊許可がでた』って」

「……これで色々合点がいったわ」


「えっ」

「まず結論から言うと、彼は『外泊許可』が出来るほど回復しているわよ」


「どういう?」


 私は困惑した様にそう言ったのだが……、なぜかその人は気まずそうに私から視線を反らした。


「そういった『許可』は医師に確認が必要なのよ。少なくても、『余命宣告』されている人は出来ないはずだけど」

「でも、確かに彼は……」

「それは、きちんと治療をしなかったらって話だ」

「えっ」


 突然聞こえた『その声』に、思わず目の前の光景を疑った。


 その声の主は不機嫌そうに私の前に歩み寄り、気まずそうにしていたその人は、「あはは……」と乾いた笑顔で私たちを見比べていた。


「それなのに、お前は俺の話を最後まで聞かずに帰っちまったんだよ」


「なっ、なんで悠斗がここに?」

「それはこっちのセリフだ。なんで、華澄がここにいるんだ?」


「そっ、それは!」


 私はけんか腰で、『彼』。悠斗に言い返そうとしたが、すぐに言いとどまった。なぜそうしてのか。それは多分、その言葉を口にした後の自分の姿を察したからだった。


「実はね。あなたが来る前に『彼』。悠斗さんがあなたより先にここに自転車で来たのよ」

「……じゃあ」


(やっぱり、あれは悠斗の自転車だったのね)


「それで、あなたと同じ様にここの『チョコレート』を求めて来たと聞かされてね」

「……」


 無言のまま私はその人の話を聞いていたが、ふと悠斗の方を見ると気まずそうに舌打ちをしながら私から視線をワザと外した。


「その時は、あなたの事は伏せられていて、詳しい事は分からなかったのだけど、あなたが来て、今の話を聞いて分かったわ」

「なっ、何がですか」


「あなたの……いえ、あなたたちは『今日』出会い、その時の『思い出の味』である『チョコレート』を求めて来たって事がね」


 ニコッと可愛らしく笑ったその人の表情は、なぜか少し楽しそうに見えた。


「あっ……あと、1ついい?」

「なんすか?」

「なんですか?」


「あなたたちが探している『ショコラ』を作って渡したのは……あたしよ」

「はっ?」

「えっ?」


 その言葉はあまりにも突然で、脈絡なんてモノは一切なくサラッと告げられた……。


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