第3話


「はぁ……」


 私の家は世間的には『一部上場企業』と言われている会社の社長。つまり、大企業と言っても過言ではない会社なのである。


 それに、決して一代でなしえた訳ではなく、父の代で確か『三代目』になるはずだ。


 ただその会社は『家族が代々社長の座につく』という決まりはない。


 しかし、父としては社長の座を将来的に兄に渡したいと思っているらしい。そして、私にはそんな兄をサポートできる立場でいて欲しいと考えているようだ。


「ふぁ……」


 でも、私としてはイマイチその意味や感覚がピンときていない……というか、今はそれどころではないほどに、毎日がとても忙しい。


 今の時期はマラソン大会の準備で色々忙しく……だけでなく、つい最近も中間テストがあったり生徒会の活動があったり……と何かと忙しく、本当は今すぐ帰って寝たいほどだ。


「にゃあ……」


 もう一度ため息をつく前に、草のかたまりが「ガサッ」と動き、灰色の猫が現れた。


「…………」


 最初は『ロシアンブルー』だと思ったが、よく見るとその猫の目は……黄色かった――。


 この猫はいわゆる『ミックス』いや、今は『雑種』と呼ぶことにするが、首輪がない上に、体が少し汚れているところを見ると……。


「あなた。捨て猫? それとも、野良猫?」

「にゃー?」


「……どうでもいいか、そんな事」


 私は小さく呟き、手招きすると……猫は私に寄ってきてくれた。


 元々この公園を通学時に見たことはあった。そして、やけにこの公園には猫が多い……と感じてはいた。


 しかし、実際にこうやって中に入ったのは……実は初めてだった。


「…………」 


 猫の暖かさが手のひらから伝わった……すると、不思議と穏やかな気分になる。そして、空を見上げると……。


 そこには空を瞬く綺麗な星が無限に広がっていた。


 ちょっとだけ『雲』が見えたが、決してその星たちの邪魔はしておらず、むしろ人工的に作られた『プラネタリウム』などとは違い、この空が自然なモノだと感じさせてくれる大事な『アクセント』となっていた様に感じられた。


「……兄さんがいなければ」


 その時、私はただ思ったことを独り言として呟いただけだった。しかし、その猫はまるで私の言葉が分かっているかの様な反応をしていた。


「もし……兄さんがいない世界があったなら」


 果たして『何か』変わるのだろうか。両親の私に対する反応も……変わるかも知れない――。


『……行ってみたい?』


 ただ……決して『そうしたい』という気持ちで言った訳ではない。


 私としてはただ「もしも、あったのなら……行ってみたいなぁ」くらいにしか思っていなかった。


 だから、改まって聞かれると……答えに非常に困る。


 いや、それ以上に……突然聞こえてきた声に思わず辺りを見渡した……が、当然誰もいない。


「……あれ?」


 しかも、ちょっと目を話した隙についさっきまでいたはずの猫もいなくなった。


「あなた……誰?」


 その代わり、いつ現れたのか同い年くらいの少年が私を見下ろすような形で立っていた――。

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