第2話


 私の名前は金村かねむら 美冬みふゆだ。現在、県内の女子校に通う高校三年生の高校生である。


 しかし、私は決して美人ではない。それでいて漫画やドラマの様なキラキラ……もしくハラハラ……ないし、ドキドキ……といった学校生活を送っているわけでもない。


 それに、どの部活動にも入っていないので、心を熱くさせるような青春も……特にはない……が、ただ……ここ最近、私は一つだけ嫌なことがある。


 でも、そこまで深刻な話……ではなく、なんて事のない……ただ年が近い『兄さん』の存在だ。


 私の友人である『小春こはる』にもお兄さんがいるらしいが、なんだかんだ言い合いながらも、私から見ると……結局、仲がいい。


 しかし、小春からしてみると『嫌なこと』も『嫌なところ』もたくさんあるらしい。


「でもまぁ、同性の兄弟とか姉妹とかじゃなかっただけよかったよ」

「なんで?」


「いや、勉強はともかく……運動で比べられることはあんまりないじゃん。少しでも『比較される』って事が少ない方が私はいいから」


 小春はそう言って笑った。


 私が思うに『普通のご家庭』ではやはり男女の身体能力的な差を考慮してくれるのだろう。しかし、それはあくまで余所様のご家庭の話であり、自分の家の話ではない。


 そう……私の家では『そんな事』は関係がないのだ。


 ただまぁ、昔から『そうだった』という事もあり、周囲から「おかしい」と言われていても私は特に気にしていなかった。


 でも、色々と分かるようになった今となっては――やはり『不公平』だと思う。


 私も決して成績が悪い訳ではない。勉強だって常に上位をキープし、運動に関しても運動部に引けを取らない。


 しかし、私に対して両親……いや、母は私を褒めたことなんて物心をついてから一度もなかった。


 なぜなら、、兄さんが何でも完璧にこなす『完璧超人』だったからだ。


 兄さんは今、大学二年生。しかし、大学生でありながら兄さんは父の仕事の手伝いをしている。


 一応『アルバイト』という形にはなっているが、実際のところ。社員の人とほとんど変わらないくらいの『働き』をしている。


 そんな兄さんは高校の頃から……簡単に言うとすごかった。


 兄さんが通っていた学校は『県内でも有数の男子校』で、その中で兄さんの成績は『トップ』だった。


 それだけでなく運動も大概のスポーツはそつなくこなし、リレーではアンカーになっていた。


 今では『国内有数の大学』に通いながら『アルバイト』をしている……そんな忙しい日々を送っている。


 ちなみに、私はその『大学』に入るには若干成績がギリギリだ。


 そんな『完璧超人』でありながら性格は……一言で言うと『優しい天然』である。しかも、邪気は一切ない……というか感じられない。


 ただ『天然』というだけあって、たまに『ど忘れ』することもある。


 でも、それすら許されてしまう持ち前の……なんだろ『可愛さ?』の様な雰囲気があった。


「でも、なんだかんだ言ってお兄さん……。文弥ふみやさんだっけ? 美冬がへこんでいる時とか励ましてくれたり、助言をくれたりするんでしょ? いいお兄さんじゃん」


 まぁ、確かにそんな事もしてくれる世間的には『いい』兄さんだが、実は今まで『学校の通学距離』の関係もあって『独り暮らし』をしていた。


 しかし、『冬休み』に入った今は一時的に『実家』であるこの家に戻って来ていたのだ。


「……兄さんが帰って来た」

「へぇ、よかったじゃん」


 最初は私もちょっと喜んだ。その証拠に私は、小春に兄さんの帰省が決まった瞬間に思わず電話してしまったくらいだった。


 でも、しばらくしてその事を後悔した。なぜなら徐々に両親は、いつも言っていた「あの子なら……」という小言を言わなくなり……いや、それ自体はいいことではある……が、今のあの家に……私の『居場所』はない。


 つまり、両親は私の『存在』を消したのだ。


 兄さんもそんな『おかしな』状況に気がついたのか、どう思ったのか知らないが、天然でありながらも必死に私を励まそうとしてくれた。


 でも、その優しさが……私には逆に『惨めな気持ち』を増幅させ、私の心に深く……根の様なモノをはったように感じた。


 どうやら私をよく見ていた小春にも伝わってしまっていたらしい。


「美冬。美冬は決して『惨め』じゃないよ。今、お兄さんと喧嘩したら……ううん。悪い事考えちゃダメだよ。悪い事の後には良い事があるんだから」


 なんて珍しく小春に忠告をされたまさしく今日。


 日頃のイライラと今まで蓄積された惨めな気持ちが大きく爆発してしまった。その結果が……家出をしている『今』である――。

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