第3話
「よく分からないなぁ。あいつは……」
私は考えに詰まったり、思い悩んだりしたら公園で何も考えず、一人鉛筆で『何か』を描く。
これは小さい頃から続けている一種の習慣だ。もちろん特に決まった『お題』なんてモノはない。とりあえず、『何でもいいから』描くのだ。
そんな習慣がある事を後輩は知っていたのか、絵を描いている私の前に突然現れ、この『チラシ』を差し出し「よかったら来てください」とだけ行って立ち去ってしまった……。
「なんだったんだ? あいつ……」
あまりに突然の出来事に、私は後輩の後ろ姿にそう呟くので精一杯だった。
しかし、しばらくすると「なぜ私にこのチラシを渡したのだろう?」とか「悩んでいる私に対する嫌がらせ?」などといった『疑問』と『皮肉』によく似た感情が……湯水のごとく、いや。
確かに、高校生や中学生の頃の私はかなり生意気で調子にのっていたと思う。そんな当時の私を知っている人から見れば、今の私の姿はさぞかし愉快だろう。
「…………」
なんて過去の自分と今の自分を重ね、私はフッ……と小さく笑い、チラシをゴミ箱に捨てたのだった……。
◆ ◆ ◆
「……先輩?」
思った以上に長居をしてしまったらしく、私はカバンを小脇に抱え、街灯の下を颯爽と通っていると、突然声をかけられた。
「
「はい。ちょっと長く残りすぎて怒られました……」
「でしょうね。ゴリ先生はその辺厳しいし、運動部も切り上げている時間だし」
幼馴染……とまではいかないが、付き合いは結構長い。高校男子にありがちな粗暴な口調では話さず、昔からずっと敬語を使い、物腰も柔らかい……言ってしまえば、女子に好かれそうな『ほんわかタイプ』の男子である。
「先輩。さっきのチラシ、見て頂けましたか?」
「ん? あー、暇な時があったら行くわ」
「そうですか……。今ちょうど忙しいですよね」
「まぁ……うん。そういえば、ふと思ったんだけど、あんたはなんで美術部に入ったの? 男子じゃ珍しいと思うけど?」
話題に困った……という事もあるが、今まで聞くに聞けなかった疑問をあえて聞いたつもりだった。
しかし、瑞貴はなぜか少し寂し気な表情になった。
「……昔、ここに転校して来たばかりの頃。中庭で休み時間とか放課後……とにかく時間がある度にずっと絵を描いている人がいたんです。その人の描く絵は風景画だけでなく、幻想的な絵までジャンルを問わず描かれていて……俺、とても感動して……自分もこんな絵を描いてみたい! と思ってその人がいる部活に入ったんです」
「ふーん。それで、その人は今?」
「今は……絵から離れていますね。何かきっかけがあるといいのですが」
この時の私は、瑞貴が誰の事を言っているのか分からず、適当に相打ちをうった。でも、少し瑞貴の事が羨ましく思えた。
そうやって……素直に誰かを尊敬できるという事に――。
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