抱えていた何か

第47話 力奪う悪夢、想いの手 6/8

――

――――

 ん、ここは「向こう」の私の部屋か。相変わらず暗いなココは。電気のスイッチは……電球切れか、災難だな。


……殆ど何も見えんがとりあえず冷蔵庫のお茶でも飲もう。痛っ、足をぶつけた。冷蔵庫の中は、何も無い。


……なんでだ。ああ、なんでこんなに動きづらいのだ。何故ここはこんなにも息苦しいのだ。元の世界に来たというのに何故こんな、何故こんな気分になるんだ。


……いやよく考えろ、元々私はこれくらい息苦しかったのではないか。向こうに行ったから余計にこちらを息苦しく感じるのではないか。

 なんてことだ。いや、結局私はこんな風になっているのが普通で、きっと向こうでの体験は理想でしかなくて空虚なものでしかないのか。


……嗚呼、何も見えないが目を閉じよう。もう執着は捨てて、私はココで……


――――

――


「ルカワさん? ルカワさん! どうしたんですか!」

 ミーナの声で目が覚めた。よく見れば私は床に転がっている。

「う、一体何が……」

「ダイニングに戻ったらルカワさんが倒れてうなされてたんです」

「そうだったのか、うっぐ……っ」

「顔色が良くありませんね……相当悪い夢を見ていたのでは?」

「何一つ覚えていないんだが、ぐっ頭痛が」

「酷い状態ですね、膝枕しますから頭をこちらに。軽減できるかも知れません」

「ああ、頼むよ……」

 私はそのまま横になった。相当気分が悪い、だが膝枕のお陰でかなり楽になっている。その上回復術式も使ってくれているようで頭痛も楽になっていく。

「はぁ、少し楽になってきたよ」

「まだ動かないで下さいね。簡易ですが身体の状態を読み取っているので」

「そうか、ありがとう」

 ミーナにスキャンして貰いつつ、治療を受ける。気分自体は大分良くなってきた。

「うーん、不思議です。一気に身体のあちこちが弱るなんて」

「気分は良くなってきたよ。そろそろ立ち上が……うわっ!」

「おっと! 大丈夫ですか? 力が全然入って無いですよ」

「ああ、全身の力が抜けてるみたいだ。立ち上がれん……」

「とにかくここではダメです。とりあえずリビングのソファまで運びますね」

 そう言うが早いか、ミーナは私を軽々とおんぶして手早くソファへと運んでくれた。なるほど帯霊気をしていればこんな事も出来るのか。しかし困った、これでは本当に動けない。麻痺しているのではなく、完全に力がなくなってしまった状態だ。時間で治るだろうが、どれだけかかるか分からない。

 それにミーナは急いで何かを準備しにいったから私は今一人だ。何故だろうか、一人の状態が非常に不気味だ。嫌な感覚が襲ってくる。なんだこれは。

「おまたせしました、何とか道具があって良かったです」

 そういった彼女はバケツにタオル、液体の入った瓶を持っている。

「身体を拭いてから薬油でマッサージします。これが一番効く筈です」

 オイルマッサージか。薬という事は経皮摂取で効果がある何かか。ダメだ、何かを聞こうにも億劫な状態になってしまっている。

「一体何を?」

「無理に喋らないで下さい。安心して貰って大丈夫ですから」

「そうか、まかせるよ」

 もうミーナに任せるしか無い。

 その後はミーナの早業だ。服を脱がし、霊気で身体をリクライニングさせ体を拭く。これだけでも随分と心地よいが、その後ゆっくりと丁寧にオイルマッサージを施してもらうのだがこれがとても良い。

「眠たかったら寝て下さいね。そうすると効果があがるので」

 そう言われて私はまたしても眠りに落ちた。これならば……


 やんわり目が覚めた。嫌な目覚めではない。よく見ると二階の私の部屋でミーナがマッサージしてくれている。

「ああ、ミーナ。運んでくれたのか、ありがとう」

「お目覚めですか。どうです、気分の方は?」

「大分良いよ。力も少しは入るかな」

「良かった……一晩眠ればすっかりよくなる筈です。着替えさせますね」

 ミーナはマッサージの手を止めてそう言った。何とか良くなるらしい。


「じゃあ、おやすみなさい。ルカワさん」

「ああ、待って」

 離れようとしたミーナを引き止めた。みっともないが言うしかあるまい。


「ここにいて欲しい……何故か不安なんだ」

「……そういうと思ってましたよ」

「すまない……」

 私が謝るとミーナは私の隣に入ってこう言った。


「私の傍が落ち着くのならいくらだって使って下さい。お願いだから無理しないで……」


 私が言った言葉がそのまま返ってきた。最早何も言うまい。


「ありがとう。おやすみ、ミーナ」

「おやすみなさい、ルカワさん」


 次の睡魔は穏やかな眠りへと連れて行ってくれた。


 私は、やっぱりミーナに救われているよ。

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