第36話 隣合う物、物騒な一品 6/7

 会計を済ませ梱包をして貰っている間椅子に腰掛けているといきなり私の目の前にかなり大きなアタッシュケースのような箱が棚から落ちてきた。コレには全員驚いて、

「うわっと! ミーナ、大丈夫か?」

「ええ、びっくりしましたけど大丈夫です……」

「ああ! 申し訳ない! お怪我は?」

「なんとか大丈夫です。それにしても狙った様にド真ん前に落ちてくるとは……」

 本当に狙った様に落ちてきたのだ。物に選ばれるのは良いが、狙われるなんてのは変な話だ。……変な話か? もしやこの箱は私の前を狙って落ちてきたのではないか? それが気になって店主に聞いてみた。


「物に選ばれるっていうのはこのペンでわかりました。でももしかして物が連れて行って欲しくてこっちに寄ってくるっていうことはありませんか?」

 すると店主は考え出したのだが、ハッと何かを思い出したようだ。

 何でも店主の曾祖父さんが言っていた話にこんな事があったらしく、その話によると私の言ったことは実在し、その物はよっぽどのことがなければ現れない上巡り合う事すら叶わない事が大半で、その物とその人はまるでパズルのピースの様な繋がりにあるのだという。


 要するにその物はその人の為だけにある専用品ということだ。それを聞いて箱を眺めているとミーナが、

『その話が本当ならその箱とルカワさんには私とルカワさんの繋がりと同じ様なものが発生している可能性もあります。開けてみてあげましょう』

と、伝達が入った。確かに開けてあげないと息苦しいのは事実だろう。まさかパンドラの箱という訳ではあるまい。私の隣のピースならそんな大層な力などないはずだ。

 開けてみても良いかと聞くと、それは構わないしむしろ大歓迎なのだがこの箱は昔から開かずの箱であるらしい。

 よく見てみると鍵がかかっていて酷く錆付いている上、鍵を紛失したのかどれだけ店を探しても倉庫を漁っても金庫を開けても鍵が無く、極めつけにどんな鍵師に頼んでも開けられず、頑丈すぎて壊すことすらできない始末だったそうだ。無理に開けようとしても傷一つつかなかったらしい。


 連れて行って欲しくて落ちてきた割に開けようにも鍵がセットでなければどうしようもない。このまま持って帰ろうかと思ったのだがミーナからアドバイスが出た。

「それって元々鍵が無くて霊気で鍵を回す箱なのではないですか?」

 私と店主は、「その発想は無かった」という顔になった。何せ鍵穴があれば鍵があるものだと思い込んでいたし鍵がないなら鍵師に開けて貰うか、壊してこじ開けるしかないと思っていたからである。

「そうか、霊気錠だ! なんで気が付かなかったんだろう……骨董品店をしていれば幾らでも霊気錠のかかった物なんて見ているのに。変だなぁ?」

 店主も気が付かなかった事それ自体に謎を感じている。確かにそうだ、曾祖父さんよりもっと前からあるのならそういうだと断定できなくても推測はできた筈なのだ。

 それにこの店主は霊人で探索・感知型、言葉通りで言うなら物を見極める能力が尋常ではない人ということになる、それでも気が付かないという事は、だ。


「この箱には私が来なければ鍵を開ける糸口すら与えない何かがかかっていたという事になりませんか」

と、店主に言った。

「それで間違いないかと思います。しかし貴方ですら直感的に開け方が分からなかったということは……」

 と、店主が考え出すと、

「私が一緒に居るということも必要だった、ということですね」

 ミーナはそう答えた。それで全ての疑問は解決したのである。


 さて疑問は晴れたのだ、気を取り直して開けてみるとしよう。霊気錠について聞くと帯霊気の要領で物体に霊気を流し、その状態で鍵を回すイメージをすれば開くのだという。

 ではまず帯霊気だ、箱を両手で持ち霊気を流し全体に行き渡らせると確かに鍵穴に鍵を入れている様な感覚を得た。

 そして後は回すだけ、なのだが回ってくれない。しっかり鍵はハマっているのに何故か回らないのだ。

 困ったのでミーナに聞いてみると、私にしか開けられない箱なら私にしかできない事をすれば開くのではないか、つまり霊気の関する私だけが出来ること、それを考えると自ずと答えは出た。

「帯霊気・風!」

 そう言って鍵を回すとすんなり箱は開いた。何とも用心深い箱である。

 何が入っているのか三人で緊張しながら蓋を開けると、今度はピカピカのアタッシュケースが出てきた。北の寒国の伝統工芸品形式は止めて欲しい。

「また箱ですか……しかし不思議ですね、異様にキレイなままだ。何十年以上も経っているのに」

 店主がまたしても不思議がっていると、

「霊気による保護で経年劣化を防いでいたとか?」

 と、ミーナが聞いたのだが、霊気で保護してもここまでキレイなのは見たことがないらしい。


「とにかく、中の箱も開けますね」

 私はとりあえず中身を確認する事にしてアタッシュケースを開けた。

 なんと不思議な事もあるものだ。アタッシュケースの中には大型回転式拳銃、つまりリボルバー拳銃、もっと平たく言えばマグナムが入っていた。大きさで言えばよくヘリが墜落するゲームにでてくるハンドキャノンとか言われるアレである。

 それにプラスしてガンホルスターと大量の空薬莢、説明書が入っていた。

 まあ確かに凄くピカピカだし、傷や汚れも無いという点では何十年以上も保存されていたという事を考えると素晴らしいが率直に言うと「なんでこんな物が?」という感想しか出なかった。

 弾があるならまだしも空薬莢しかないのである。私はエアガンくらいしか使ったことはないがこの拳銃を手に持って見ると大体使い方が分かる位にはシンプルだ。シリンダーを振り出して、弾を込めて、撃鉄を起こし、トリガーを引く、たったそれだけの事だ。後これはダブルアクション式らしい。


 私がそんな事を考えている一方で後ろの二人は意外な反応を示した。 

「これは一体何でしょう? 見たことも聞いたこともないものですね」

「ええ、僕も骨董品店をやっていますが全くわかりません」

 と、言ったのである。どうやらこの大型回転式拳銃、この世界においてはポピュラーな物ではないらしい。更には似たようなものすらない様だ。こうなってくると迂闊に知っているような素振りは見せられない。ミーナに伝達を飛ばし、

『向こうではかなりポピュラーな武器なんだよね、コレ。変に使えそうだとか知ってる様にはしない方がいいかな』

 と、聞くとそれが最善だと返され、詳しい事は帰ってから説明する事にした。

 店主にコレを買いたいと申し出ると、今まであけられなかった箱を開けられた事を考えるとタダで構わないと言ってくれた。有り難い話だが実質なにも買わずに帰るのは忍びないので、人を選ぶ様な物以外の商品を少しばかり買っていく事にして店を出ることとした。

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