「物」との「繋がり」

第35話 珍客と珍品、人選ぶ物 6/7

 さて店を出るとまたしても街の雑踏に迷わされそうだ。はぐれると少々厄介なのでミーナと手を繋いで歩く事にした。暫くの間はこうしなければならないだろう。

 ぼちぼちと道を歩いているとあの骨董品店が目に入った。そういえば十三時から開店だと表札にはあったはずだ。手元の時計を見ると十五時過ぎを指している。恐らく開いているだろう。


「ミーナ、あの骨董品店行ってみるか?」

「ええ、気になりますし行ってみましょう」

 やはりミーナもあの骨董品店が気になるらしい。早速行くことにしよう。

 店の前に着くと表札の文字が変わっている。平易な文字で「かいてんちゅう」と書いてあった。コレくらいならそろそろ読める頃合いになってきたようだ。

「えーっと?かいてんちゅう、だそうだ」

「あ、読めるようになって来たんですね」

「短い言葉なら読めるみたいだ。ミーナのおかげさ」

 私が文字を読める様になったのは紛れもなくミーナの支えあっての事だ。礼をミーナに言って店に入ると中年くらいの洒落た男がいた。恐らく店主だろう。


「おや、この店にお客さんとは珍しいね。どうぞゆっくり見ていって欲しい」

 やはりココには客があまり来ないのだろう、店主の口振りからもわかる。仕立屋での事もあって色々聞いてみようとしたのだが店内の骨董品、アンティークが素晴らしい事この上無かったので質問より先に品々を見て回る事にした。ミーナは小物に夢中である。

 私は物書きの血(と言っても大したことはない)が騒いだのか筆記用具を眺めていた。どれもこれも年季物でいかにも高そうなつけペンや羽ペンが並んでおり、見ているだけでも大満足である。


「お客さんは物書きの方ですかね?」

 いきなり店主が私の職を言い当ててきた。これは驚きだ。

「ええ、そうです。端くれですし、今は休業中ですが。しかし何故?」

「勘、というやつですかね。この仕事をしているとお客さんの眺めている物で大体わかるんです」

 なるほどそういう事か。プロフェッショナルは凄いものである。それではこの店主の目がどれ程の物か気になったので一つ尋ねる事にした。

「あの娘は何をやっていると店主さんは見ますか?」

 ミーナは現状明確な職はしていない。それをどんな風に判断するのか気になったのである。

「あの娘は……普通の少女ですね」

 そう返ってきた。やはりそうなるかと思った矢先、

「でも霊術士、それも霊人。優しい霊人さんってところかな」

 と、衝撃の言葉が出てきた。職だけでなく本質まで見抜くのかこの店主は。これには小物に夢中になっていたミーナも反応した。


「どうして分かったんです? 霊気は消していましたが……」

 職ならまだしも本質を突かれたのだ、当然の質問であり、ミーナは少し構えている。すると店主は苦笑交じりにこういった。

「いやあ、まあ言ってみれば勘なんだけど、霊人でなければ霊気を消すなんてできないからね。おっと怪しい者じゃないよ、なんせ僕も霊人だ」

 またもや衝撃発言である。数が減りつつあるというのに偶然にも霊人が二人居合わせてしまったのだ。私はもう混乱状態だったが、意外にもミーナは得心していた。


「そういうことでしたか、店主さんも霊人だったんですね。それなら納得できます。しかも店主さんは探索・感知に特化しているんでしょう?」

「あはは、ここまで言うとバレてしまうか。若いとは言え流石の霊人、しかも万能型にかかれば一発ってところかな」

「それでも言って貰うまでは分からなかったですよ。ベテランには敵いませんね……」

「いやいや、あの霊気消しは見事だったね。探索・感知型でなければ全く分からないと言っていい。素晴らしいよ」

「ありがとうございます。ベテランさんに褒められると嬉しいです」


 もう私は完全に置いてけ堀である。探索・感知型? 万能型? 霊気消し? 訳のわからない事ばかりなのだ。ため息とボヤキが出てしまう。

 そんな私に二人も気が付きミーナが、

「ああっとごめんなさい……どこから説明しようかな……」

と、言った後店主も、

「申し訳無い、久々に霊人に会えたのでつい盛り上がってしまったよ。うーむ、どこから話そうか……」

と、言い出した。二人にも説明しにくいことらしい。なら私が分からないのは尚更だ。もういっそ開き直る事にした。


「ああ、いや二人に説明できないなら仕方無いって事にするよ。そういえばミーナは首都に来れば色々分かるって言ってたよね? 今度図書館なり何なりに連れて行って欲しい。それでいいかな?」

 こう言うより他無かったし、ここで説明となると私の出自やら何やらが絡んだ場合不味い事になりかねないのである。この旨をいつもの通りミーナに伝達で飛ばすと了解の返事があった。

 一瞬、店主にこの伝達が聞かれていないか気になったので聞いてみたがいくら探索・感知型であってもこの伝達は聞けないとの事である。

「それじゃあルカワさん、今度図書館に行きましょう。そこで色々と説明しますね」

 このミーナの発言で一旦この話題は切れた。


 ちょっとした事はあったがとりあえず店内を見て回る事にした。なんせ大分と広いのである。個人経営にしては大きすぎる程だ。

 ふと気がついたのだがこの店、店主が全て把握しているのか商品に値札が一切ついていない上にケースにすら入っていない。

 先程見ていた筆記用具の高そうなペンにも値札が無かった。その事が気になって店主に聞いてみると不思議な答えが返ってきた。

「ああ、ココに置いてある物は殆どが、物が人を選ぶんだ。だから物に選ばれないと買えないんだよ。逆に選ばれ方の度合いによっては一ディナで売っても良いし、そうしないと僕が痛い目見るからね」

 更に詳しく聞いてみることには物に選ばれていないのに無理に持って行こうとすると、物から攻撃されるらしい。例えば先程のペンだと上手く書けなくなったり、最悪手に突き刺さったりするそうだ。

 物に選ばれているかどうかはその物を持った時に、その物としてはあり得ない、という感覚があったら選ばれていないとの事である。試しに全く私に縁のない弦楽器を持ってみると異様に重い上、弦が動かない始末である。

 物が人を選ぶというのを身を以て体験できるのは何だかある意味面白いものだ。


 先程の話を聞いて、色々持ったり何だりしている内にもう一度筆記用具の所に戻ってきた。端くれと言え物書き故かこういう物に惹かれてしまうのだろう。このペン達はどうせ私など選んでくれないとは思いながら手にとってしまった、しかも一番高そうなペンを。

 当然異常に重い、と思ったのだが重くない、いやむしろ金属のボディなのに羽の如く軽い、もしや選ばれたのではと考え店主に聞いてみた。

「これは……そのようですね。このペンは中々気を許さなくてずっとここにあったんですよ。良い巡り合わせだ、持っていって下さい。お金を取ったら僕に何か起きそうだ」

 どうやら相当気に入られたらしい。試し書いてみると素晴らしく書き心地がよく、どんな素材にも文字を書けてしまう上に、霊気がインクの変わりになっている様で私が持つ限りインク切れが無いペンに仕上がっている。更には空中にまで書けるから驚きだ。正にマジックペンである。


 そうこうしている内にミーナも良いものを見つけたそうで、少し大きめの裁縫道具セットだった。これは特段人を選んだりする物ではないのだが売れないので店主も困っていたらしく格安で売って貰った。はっきり言ってお買い得である。

 そう言えば何故か裁縫セットをミーナは持っていなかった。裁縫セットをここで買うという事は裁縫が出来るという事なのだろうが何故持っていなかったのか気になったので聞いてみると、以前持っていた裁縫セットのケースが壊れてしまい修理しようとしたのだが直らなかったので新しい物を探していたのだという。

「ある意味、選ばれたのかもしれないね」

と、主人は言ったがその通りだと思えた。

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