Tutorial2 "ぶちょー"って事はここは…?

不思議な事に眠っている事に対して自覚があった。

自分が眠っている事を自分自身が知っている、そういう感覚だった。


「顔をスキャン中……スキャン完了。アバター作成中です…」


キュイイインという機械音と共に無機質な声が聞こえた。


「アバター作成完了…ようこそ、"ライフリンクストーリーズ"の世界へ!」


"ライフリンクストーリーズ"どこかで聞いたあるなぁ…


僕の世界に色が付く。

最初に目に入ったのは見知らぬ天井だった。


「おっ…目覚めた目覚めた。ぶちょー!新入社員君、目覚めましたー!」


さっき案内してくれた先輩社員に似ている…?

けれど、着ているのがスーツじゃなく、白いドレスの様な服だった。


「君が新入社員か、話は全部ユイ君から聞いているよ、名前は確か…マモル君だっけか?」


先程"ぶちょー"と呼ばれた男性が話しかけてきた。

しかも、中世の騎士の様な鎧を着ている。


「えぇ…私はマモルですけど…ここは一体…?」


「あーユイ君また説明してないのか!新入社員に説明も無しにメットはダメだろ!」


騎士の男性が案内してくれた女性を叱る。

けど女性は笑いながら「スミマセーン」と反省してない様だ。


「改めて、ようこそマモル君。株式会社ライフチェインギルド課物資調達部へ。

君は"ライフリンクストーリーズ"って知ってるかな?」


"ライフリンクストーリーズ"…

確か、VRMMOというジャンルのゲームだったっけ?

世界大会とかも開かれていて賞金がとても高かったような…


「まぁ知ってても知らなくてもいいや。

君は多分入社していきなりメットを被せられてそのまま寝ちゃったんだよね?

けど、大丈夫。これが仕事だから安心していいよ。」


入社早々に寝てしまった事にかなりの罪悪感を感じていた僕はかなり安心した。


しかし、VRMMOが仕事とは…

僕、どうやればいいのかわかんないぞ…


「とりあえず歩いてこちらへ来てごらんよ。

もう脳とのリンクは完了しているだろうからさ。」


彼はそう言って部屋を出て行った。

動くのは全く難しく無くまるで現実世界で動く時の様だった。

ベッドから起き上がろうとしたら起き上がれたし、歩こうとしたら歩けた。


起き上がった時に、スーツ特有の動きにくさが無く、何も着ていないのではないかと少し心配だったけど、七分袖のシャツと白いズボンを着ていた。


部屋には机と椅子とタンスがあり、窓際には花が咲いていた。


僕が少し部屋を物色していると、


「どうしたー?早くこっちにこーい!」


さっきも聞いた"ぶちょー"の声が聞こえたので、僕は部屋を出た。


部屋を出て、廊下を少し行くと階段があった。

声はこの先から聞こえる。

廊下には扉が何個かあったけど人の気配がある様には思えなかった。


階段を降りた先には人が数人いて、一つのテーブルを囲んでいた。


"ぶちょー"が僕に気づき、案内してくれた。


「マモル君、君はこちらへ。」


彼に言われるまま椅子に座り、周りの人の顔を見渡す。

みんな特徴的な服装をしていたけど、"ぶちょー"からこの世界に関する説明を受けたばかりなので最初の女性ほどの衝撃はない。


「じゃあ、全員揃ったという事で。

新入社員の歓迎会を始めます!」


"ぶちょー"がそう言って僕の会社生活が始まりを告げた。

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