6.
〝私、石堂由香。あなたは?〟
石堂由香がドリーマーの娘であるか否か確かめよ、という命令を受けたインディゴが身辺調査を始めて、ほんの数日。
影のように潜み、調査結果を上へ報告し、実際の処理役が来たらその人物をサポートする。過去と同じ仕事を、何も考えず遂行すればいいはずだった。
――なのに。
〝有難う。助けてくれて。本当に、有難う〟
馬鹿野郎。俺は、お前を助けたわけじゃない。
処理役が来る前に標的に死なれたら厄介だと、打算で手を出しただけ。
そんな彼に由香は礼を言い、笑いかけ、お茶でも飲んでいけと誘ったのだ。
お前ら
笑顔で話しかけてくる彼女を見ていると、思わず言い返したくなった。しかも、彼女の死刑宣告とも言える報告を送ったのは、彼自身なのだ。
「ドリーマーの娘だし。もしかしたら反撃するかな、と思ったんだけど……期待外れだったみたいだね」
彼は、石堂家の中に潜んでいる。アッシュが石堂利雄の腹部を灰にしたのも見ていたし、帰宅した由香が利雄を発見して放心し、次第に父の死を認識し始めるのも観察していた。
「あんたが……あんたがお父さんを!!」
由香が、鞄をアッシュに投げつける。
「やっぱり、ただの小娘か――」
助かる見込みはない、由香にもそれはわかったのだろう。泣き叫ぶでもなく、逃げるでもなく、ただアッシュを睨みつけている。
あと数歩、アッシュが歩み寄れば全ては片付く。ドリーマーの娘は抹殺され、俺の任務も終わる。だから。
〝私、石堂由香。あなたは?〟
手など出さなければよかった。
あのとき男どもに拉致されてどんな目に逢おうとも、由香の運命に大差はなかった。どうせもうすぐ殺されるのだから。
「つまらない任務だったね」
あの笑顔を、見なければよかった――
「――うおおおおっっ!!」
自分でもわけのわからぬまま、物陰から飛び出す。叫びながら突進し、今にも由香に手をかけようとしていたアッシュを、横から殴り飛ばした。
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