Beautiful Dreamer

5.

「ただいまあ」

　玄関の戸を開けると、由香は中に声をかけた。「お父さん、まだ寝てるの？」

　朝は、帰りに家に電話しろ、バス停まで迎えに行くと大騒ぎしていたのに、実際に電話をかけると出ない。少し迷ったが、同じ方向に帰る人が何人かいたので、そのまま帰ってきた。

「っとにもう、夜昼反転してるんだから……」

　文句を言いつつ、靴を脱いで家に上がる。自室へ行く前に、何か飲もうと台所に寄って電気をつけた。

「お父さん！？」

　床に、パジャマのズボンから伸びる二本の足が転がっているのが見え、慌てて食卓を回ってしゃがみこむ。

「――え？」

　目の前には、二本の足。だがそれは、腰までしかない。

　床には白い埃のようなものが積もっていた。どこから来たんだろうと顔をあげ――由香は凍りついた。

　パジャマを着た利雄の上半身が、まるで美術室の胸像のように床に置かれていた。

「あ……ああ……」

　現実感がないのは、血が流れていないからかもしれない。腰でパーツが分かれたマネキン人形のように見えなくもなかった。

　どうしてお父さんが、身体が半分になって、ちょこんと飾られてるの？

「お……お父さ……」

　その、身体を半分にされたという事態が、父にとって何を意味するかをやっと理解しかけたとき、

「――成程（なるほど）、よく似てるね」

　突如、声がした。

　利雄の上半身の向こう。一人の少年が、壁に寄りかかっていた。手には、見覚えのあるフォトスタンドを弄んでいる。

「僕はアッシュ。そういえば、彼には名乗るのを忘れたな」

　少年は平然と、足の先で利雄の肩をつつく。

「……あんたが……？　どうして……」

「任務だからね」

　アッシュはあっさり答えた。「ああ、でも飾ったのは僕の遊びかな。死体を見なきゃ、父親が死んだという事実を君が認識しないだろ？」

「お父さ……死んで……」

「ドリーマーの娘だし。もしかしたら反撃するかな、と思ったんだけど……期待外れだったみたいだね」

　彼の手の中にあったフォトスタンドが突然――消えた。

　いや、アッシュの指の間から、さらさらと白いものが――灰が、こぼれ落ちている。どうやったかは謎だが、彼は一瞬でフォトスタンドを灰に変えたのだ。同様に、床に積もっているのも、灰と化した利雄の腹部なのだった。

「あんたが……あんたがお父さんを！！」

　叫んで、由香は立ち上がる。まだ手にしていた通学鞄を、アッシュに向かって投げつけた。しかしそれは、アッシュの手が触れた途端に灰となって宙を舞う。

「やっぱり、ただの小娘か――」

　少し残念そうに、彼はゆっくりと歩いてくる。

　――こいつが、お父さんを殺した！

　それだけは、由香にもわかった。

　でも、どうすればいい？　こんな変な力を持った奴を。

　目は相手を睨みつけながら、しかしどうすることもできない由香に、アッシュは一歩一歩近づく。

「つまらない任務だったね」

　そう言ったアッシュの手が、由香に触れようとして――