17-2

 木曾(きそ)アスナが、あの時に見ていた動画はその日の動画ではなかった。実際には過去の動画だったのである。この動画には現在の仕様では搭載されていない武器も確認されていたから。


「そう言えば、ビスマルクを近くのゲーセンで目撃したのだが」


「どういう事だ? この動画は当日の配信じゃないのか?」


「相手プレイヤーの装備が明らかに違う」


「確かにそうだな。あの装備は既に修正されていて、動画の様な挙動は不可能だ」


 木曾もギャラリーの声を聞き、何となくは把握していた。連射系の武器でさえ、攻撃力を下げられており、単発系武器も威力はダウンしている。遠距離武器は軒並み弱体化しても言ってもいい。逆に言えば、近距離系武器は攻撃力が据え置きになっている物が多く、強化されたと錯覚するパターンもあるだろう。この後、しばらくしてから天津風唯(あまつかぜ・ゆい)が合流し、ゲーセンへと向かう事になる。


【やっぱり、あの動画はバックナンバーか】


【バックナンバーでも動画を再生する事が出来るのは、動画サイトだけだと思っていた】


【センターモニターで動画検索もできるのか】


 様々なつぶやきを見て、木曾は改めて動画の方に視線を合わせるが、今度は別の動画になっていた。何故、このタイミングでビスマルクの動画をチョイスして再生したのかは疑問に思う。



 ゲーセンへ向かう道の途中、木曾は天津風にある事を質問する。それは――。


「AR版とVR版、挙動が違うという話は公式ホームページ等でも分かるけど、それ以外には何が違うの?」


 ARから始めたメンバーやVRから始めたメンバーもいるアルストロメリア、その中でも一番の疑問点はそこだ。ARオンリーのグループもいれば、VRオンリーの所もある。中にはVR専門のプロゲーマー集団も確認されているだろう。


「現在は操作挙動だけよ。過去にはプレイ時のラグ等もあったらしいけど、それは改善されてるし」


 天津風は過去にプレイした記憶で説明をしようとするが、どうしてもラグ以外で何かあったのかと言われると即座に思い出せない。ロケテストでは処理落ちこそしなかったが、タイムラグがひどかったという話は散見された。それを何とか改善し、AR版とVR版のマッチングを実現したのだろう。しばらく歩いたような印象の二人だが、実は信号を2個程渡った位の距離しか歩いていない。


「もう到着した、そこまで駅から離れてなかったのかな」


 天津風がゲーセンに到着して早々、歩いた距離を思い出せずに驚く。歩きスマホの様なマナー違反はしていないのに、あまり歩いたという感じがしない。動く歩道でもないのに、どうしてなのか?


「駅の近くには複数のゲーセンがあるし、同じ系列店で二店舗はあるし」


 木曾はフォローを入れるが、そのフォローも若干無駄に思えた。同じ系列店でも同じ筺体を導入していたら、見分けがつかない為である。入り口近くにある立て看板には新作ゲームの入荷情報があるが、そこにはヒーローブレイカーはない。既に準新作位に判断されているのだろう。自動ドアを開くと、ゲーセンらしい光景を目撃する事になるのだが――爆音の多いようなゲーセンとは違い、若干静かな雰囲気すら感じた。



 二人がゲーセン内を散策すると、格ゲー等であればマナー違反だが叫び声等も聞こえるはず、と思っていた。それなのにそう言った声も聞こえなければ、爆音もしない。一体、どういう事なのか? それは、周囲に置かれている特殊形状の筺体のジャンルは、全てリズムゲームだったからである。


 リズムゲームであれば、爆音設定だと他の同じリズムゲーム筺体が近いとプレイに支障が出るだろう。そうした配慮で音量設定が調整されているのかもしれない。プレイヤーの方もヘッドフォン装備だったので、もしかするとその影響もあり得るだろう。筺体の形状はドラムセット、ギター、太鼓、ピアノ等と言った分かりやすいモチーフ、更には一見すると分からないような物もあった。


「この辺りは――管轄外か、な?」


 さすがの木曾も最近の変化していくリズムゲームには付いていけない気配もする。その辺りの話題であれば、長門(ながと)ハルの専門だろう――と思っていたら、まさかの人物を発見した。


「木曾さん、ここのゲーセンにも来るなんて」


 長門の方は私服姿であり、首には首かけタイプのネックスピーカーをかけていた。本来はリズムゲームの遠征で、ここにやってきていたのだが、長門も天津風がいた事には驚く。



 数分後、リズムゲームからは離れた場所に休憩エリアがあったので、三人はそこで座って話をする事にした。


「君が長門ハル――」


「こちらこそ、初めまして長門ハルです」


 天津風は長門とリアルで遭遇するのは初めてである。しかし、彼女が小説家である事は気付いていない様子。それに、木曾と一緒にやってきたという事は何か用件があってきたのだろう。


「そう言えば、二人はどういった要件で?」


「要件と言えば、あれしかないと思うけど」


 用件を聞く長門に対し、木曾はリズムゲームコーナーとは違う場所を指さした。そこにはVR版のヒーローブレイカーが設置されている。AR版は一階にあるという配置説明があったかもしれないが、それはスルーしていた。


「そう言えば、さっき見覚えのある人がVR版をプレイしていたのは――?」


 長門の一言を聞き、木曾と天津風はセンターモニターの方へ歩いていく。長門の方は、二人を見送ってリズムゲームエリアへと戻る。


(まさか、彼女ではないでしょう――)


 天津風は、まさかと言う考えがよぎった。先ほどの動画でビスマルクのプレイ動画を見た為である。


(このゲーセンでは、他にも見覚えのあるプレイヤーを見たけど)


 木曾の方は自分が見覚えのあったプレイヤーとリアル遭遇する事を考えた。さすがにダークフォースとは鉢合わせしないと思うが。

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