第17話:激戦区へ、ビスマルク

 四月十二日、この日は曇り空かと思われたのだが――途中から晴天に変化していた。


「SNS上の出来事はデマもある為に信用出来るかわからない」


 アルストロメリアのメンバーは、今回の炎上に関して様々な意見を出しあったが、最終的には天津風唯(あまつかぜ・ゆい)の意見を取り入れる事にする。現状で重要なのはSNS上での炎上ではなく、イースポーツ大会の対象作品になった事。練習する事でスキルアップを目指し、大会に備えるという事になった。


「そう言ったノイズを完全スルーする事で集中できるならば、その方がいいのかもしれない」


 天津風の言う事は、ある意味でも的中する。実際、なりすましアカウントや様々なアフィリエイト目的のまとめサイトが閉鎖していく。まるで、それは作品の路線変更を意味する様な流れだったのは間違いないだろう。


(この展開を、向こうはシナリオ通りと言うのか? それとも――)


 天津風は、電車の中で座席に座らずに立ったまま、窓の景色を見ている。もうすぐ草加駅に到着するのだが、そこで何が待っているのか?



 その頃、草加駅近くのコンビニで誰かを待っていたのは私服姿の木曾(きそ)アスナである。彼女がコンビニのセンターモニターを見ると、そこにはあるプレイヤーのプレイ動画が再生されていた。二人は明らかに有名プレイヤーで、大和(やまと)と三笠(みかさ)なのは明らかである。しかし、彼女たちがチームを組む事があったのか? 他のプレイヤーもそれに関して疑問を抱くことなく視聴していた。


「まさか、あの大和もチームを組むとは」


「イースポーツ大会でのルールでは三人一組のチームが必須と言う噂もある」


「それは、まだ決定していない事だ。公式の発表を待たないと」


「発表待ち以前に、そうなる事を想定してチームを組んでいるケースは増えているようだ」


「そうなると、複数以上のチームはどうなるのか?」


「それは、三人一組のチームを複数用意する形になるだろうな」


 ギャラリーの話を聞くと、イースポーツ大会のルールの方も決まりつつあるようだ。公式サイトでは使用不能のARウェポンやツール類の禁止等は明言されているが、それ以外は発表されていない。特にチームの部分は憶測ばかりが拡散しており、時期尚早なのではないか――という声もある。


(どちらにしても、こちらの場合は複数チームになる必要があるのか)


 木曾は、仮にチーム制度になった場合、どのような組み合わせにするべきか――モニターを見ながら言葉少なげに悩む。どちらにしても正式発表があってからでも遅くはないだろう、という結論にはなるのだが。それからしばらくして、天津風が木曾と合流する。目的地はゲーセンになっており、その場所こそ――。



 午前十一時、草加駅のゲーセンではある盛り上がりを見せているスペースがあった。それはAR版のヒーローブレイカーのスペースである。そして、フィールド内にいた人物は――。


(SNS上でもヒュベリオンは脅威と言われている。ダークフォース壊滅後、大きな動きを見せていないのも逆に何か大きな展開があるように思えてきた)


 それは、パワードスーツを装着していたビスマルクだった。彼女は今回に限って言えばソロプレイである。実は彼女のチームメンバーは大和と三笠であり、アルストロメリアと対をなすようなチームになりつつあった。そのチーム名は『アルテミシア』と言う。チーム名自体は三笠の提案のようだが、特に猛反対することなくあっさりと決まっている。


「ここから先は、ワタシのターンよ!」


 ビスマルクがチェーンソーにも似たような一メートルに近い長さのロングソードを構えた。重量に関してはARウェポンなので、基本はCGである。重量はゼロに等しい。しかし、その耐久度はかなりの物と言ってもいいだろう。だからこそ、ARアーマーを救助等の分野に流用しようという研究も進められていたのかもしれない。こちらに関しては、様々な事情で挫折したようである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る