17-3

「そう言えば、さっき見覚えのある人がVR版をプレイしていたのは――?」


 長門(ながと)ハルは、ヒーローブレイカーの筺体で見覚えのある人物を見たというのだが。天津風唯(あまつかぜ・ゆい)と木曾(きそ)アスナは、もしかして「あの人」ではと思いつつも筺体のあるエリアへと近づく。


(筺体の数は十二と若干多い位か?)


 木曾はそこでプレイしているプレイヤーの数を見て、筺体の数を割り出す。満席ではなかった為、その筺体数には驚く事になるのだが。実際には十六台と草加市内では最大規模と言っていいほどの入荷数を誇っていた。


「十六台は、秋葉原でもない限りは最大規模ね。有名プレイヤーが集まるのも納得かな」


 天津風は、空席状況を確認した上でセンターモニターのある場所へと向かう。そこでプレイヤーネームを確認しようというのだ。


(やっぱり。秋葉原でも見かけるプレイヤーネームも――)


 見覚えのあるネームは、秋葉原でもマッチングする事があるプレイヤーらしい。レベルを踏まえると、50を超えるプレイヤーもザラだった。むしろ、これだけの高レベルプレイヤーが草加市に集中していた事実も驚きだが。


(あの人物は、まさか?)


 木曾はある筺体でプレイしているプレイヤーの後姿を見て、まさか――と思った。黒髪でバンダナという特徴である。声をかけるのはマナー違反なので、まずは天津風の元に向かう事にした。



 そして、センターモニターの前にいる天津風に木曾は事情を説明する。この人物がいた事は、天津風には想定外だ。本来であれば別のゲーマーに遭遇する可能性もあっただけに。


「イカヅチが来ているの?」


「あのバンダナには見覚えがある。間違いなく、アサシン・イカヅチだろうな」


 天津風は予想外の事に驚くが、木曾の方は特に表情を全く変えない。おそらくは、想定内だったのだろう。アサシン・イカヅチがこのゲーセンをホームにしている可能性は高く、木曾もある程度は知っていたのである。


「話しかけるにしても、ゲーム中はさすがにまずい。終わってから事情を説明しよう」


 終わるまでは一〇分位はかかったので、それまでは二人で他プレイヤーのプレイやイベント動画等をチェックしていた。イベント動画では大型レイドバトルの告知がされており、何か大きな祭りを予感させるのは間違いないだろう。


(大きな舞台が、間もなく始まる)


 告知動画を見ていた天津風は何かが起きるのではないか、と言う懸念を持っていた。何事もなくイベントが無事に終われば、それで問題はないのだが。



 その後もビスマルクはゲーセンで連勝記録を叩き出していた。ある程度の連勝を続けると、自動的にゲームは終了する仕組みではある。この辺りは連コインのような行為を防ぐ為だろう。ただし、ここでは設定で連勝記録が五と設定されており、バトルに敗北するか五連勝するまではプレイが出来た。それでもAR版をプレイするプレイヤーが少ないので、すぐに順番が回ってくるというべきか。


(そろそろ、こっちも限界と言う所かな)


 ビスマルクの方も数時間は連続プレイしているような感じなので、そろそろ小休止するべきと考えている。AR版でプレイしている事もあり、VR版以上に体力を使うのは間違いない。


「お前は確か、ビスマルクか」


 次の相手として姿を見せた人物は、外見に覚えがないが向こうは知っているような口ぶりだ。持っている武器がライフル系なので遠距離系タイプのアバターかもしれない。


「ワタシを知っているの? それなりに実力はあっても、SNS上でそこまで有名じゃないと思うけど」


「そう言う強がりは、自身の破滅を招くぞ! こちらも仮にプロゲーマーだからな」


(プロゲーマー!?)


 目の前の人物がプロゲーマーと言う単語を出したと同時に、ビスマルクの表情は変化する。プロゲーマーを相手にする以上、半端な覚悟では勝てないのかもしれない。


「名前は?」


「名乗る程じゃない。しかし、プレイヤーネームを見れば分かるだろう?」


 ビスマルクがARメットでプレイヤーネームを確認すると、そこにはホワイトスナイパーとあった。まさかと思うが、ダークフォースにもそう言った名前を名乗る人物がいたので、同一人物とも疑う。


(ホワイトスナイパー。確かに彼ならば、過去にFPSで実力があるとネット上で言われていた)


 今の実力は分からないが、過去のプレイ動画で彼の実力はある程度把握出来るだろう。自分も動画自体は何度か視聴した事はあるので、あのアバターに見覚えがあった。


(おそらく、彼はVRでプレイしている。もしかすると――)


 ホワイトスナイパーはVRの方でログインしているのがプレイヤーネームと一緒に表示される店舗名等で分かる。しかも、このゲーセンのVR側でプレイしているので、もしかすると近くにいるだろうと周囲を見回すが、残念ながらここにはいないようだ。


「こちらとしても、後がないのだ! ビスマルク、おまえを倒して――」


 ゲーム開始と同時に、ホワイトスナイパーは遠距離タイプと思わせて、何と目的のレイドボスエリアまで走りだした。スナイパーライフルの距離であれば、移動式レイドボス出ない限りは狙撃ポイントで打ち続ければポイントは取れる。しかし、彼の動きは明らかにスナイパーよりは突撃兵に近いような行動パターンで動き出した。これにはビスマルクも数秒ほど思考がフリーズするレベルで動きを止めてしまう。

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