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 この日のARゲームコーナーは三笠(みかさ)と大和(やまと)が現れたことで混雑するかとも思われたが、それはさすがになかった。


 もっとも、過去に有名な動画投稿者が姿を見せた時にもスルースキルを発揮して大きなトラブルも起きなかったので、草加市周辺だけが異常なのだろう。


 ARゲームを聖地巡礼の目玉にしたいという意向があるのかは不明だが、PRイベントの頻度を踏まえたりすると一目瞭然だ。


【プレイヤー1:秋月】


【プレイヤー2:照月】


【プレイヤー3:CPU1】


 さすがに本名やあまりにも離れたような名前を使うのもアレなのか、照月(てるつき)アスカと秋月千早(あきづき・ちはや)は名字をプレイヤーネームにしていた。むしろ、秋月は最初からプレイヤーネームがこれなのである。それを照月が真似たと言ってもいいだろう。


【プレイヤー4:ブシドー】


【プレイヤー5:コマンドー】


【プレイヤー6:ブレイカー】


 相手プレイヤーも似たようなネーミングだが、秋月と照月はあまり気にはなっていないようだ。全員がプレイヤーと言う事で、秋月達とは若干のハンデが存在する。CPUキャラは学習型AIを使ってはいるものの、あまり過度にあてには出来ないシロモノだ。


 プレイヤーのスキルやレベルに合わせて強化レベルが設定されているらしく、秋月のレベルが10でも照月が1の場合は平均のAIレベルに設定される。この場合ではレベル5となるだろう。プレイヤーレベルの最大は不明だが、現状の限界レベルは100と設定されていた。


「相手プレイヤーのレベルは10か――」


 センターモニターで近くの座席に座りながら三笠は観戦している。大和の方は別ゲームの方へ移動してしまったので、この場にはいない。レベルに関してはVR版もAR版も同じ扱いなのだが、VR版のレベル10でAR版のレベル20に相当するというフェイクを流すサイトだって存在する。こうした誤情報を鵜呑みにした結果、ARプレイヤーに対抗する為にある物を投入して倒そうという一部プレイヤーまで現れる事となった。



 プレイヤーのスタイルは全員がヒーローで固められた相手に対し、秋月がヒーロー、照月がパワードスーツ、CPUがESPとバランスの取れているように見えるのだが――。


「CPUがESPでは詰みだろうな」


「どのESPを使うによるが、そこまでAIが立ちまわれるのか?」


「逆にパワードスーツがCPUだった場合が厄介だぞ。武器次第で」


「それは装備に一存するタイプだろう。ESPの場合はもっと特殊だ」


「そう言うギャンブル要素を嫌って、向こうのチームはヒーローだけになっているのだろうな」


 三笠の見ている近くにいるギャラリーも秋月達が不利と見ている。しかし、こうしたギャラリーだけではないのはARゲームではよくあることだ。


「実際に、どうなるかは分からん。それこそ、プレイヤースキルにゆだねられる」


 彼らの会話に割り込んできたのは、いかにも有名な俳優と思わしき男性である。しかし、誰も気づかないのでマイナー俳優と言う可能性が高い。マイナーと言っても有名ドラマに出ているのにマイナーは明らかにおかしく、やはり草加市特有の事情で騒がないだけなのだろう。


「どうして、そこまで断言出来る?」


 三笠は話に介入しないつもりだったが、その人物に答えを聞きたいので尋ねる事にした。


「どうして? それは当然だろう。ゲームにはレベルやランクと言った物差しで測れないような物が――存在するからだよ」


 彼の視線は明らかに別の何かを見ているような物だったが、しばらくすると彼の姿は消えていた。三笠がそれを気にするような事はせず、そのままセンターモニターの動向を見守ったのである。

 


 あの人物の予想は的中し、物の見事に前半は秋月達が有利となっていた。しかし、その状況が変化したのはレイドボスのライフゲージの減り具合が早くなった、一分後である。


(やっぱり――)


 秋月は何となく状況を察していた。相手が使用している武器は不正武器の類であると。SNS上ではチートウェポンとも言われているが、名称は安定しない。


「こっちがその気なら、こちらは全力で挑むだけ!」


 照月の方は、チートに関して気付いていたような気配だが、それを理由に捨てゲーをしようとは思わない。それだけの熱量を彼女は持っていた。おそらく、秋月が照月を誘おうとしたのはそれが理由なのだろう。


『馬鹿な、こちらの武器の威力は向こうより上のはずだ!』


『どういう事だ?』


『あれが上位ランカーだというのか?』


 相手プレイヤーは照月のプレイテクニックを見て、唖然とするしかない。せっかくのチートウェポンでも彼女のスキルの前では無力だったのだ。


 結論から言えば、彼らはレイドボスのライフを削り過ぎた為に、照月がタイミング良く攻撃をした一撃がレイドボスの止めを刺したのである。あまりにもあっけない一幕と言えるが、それでも照月の見せたプレイはギャラリーを盛り上げる事に貢献した。


「彼女たちならば、変えられるかもしれないな」


 三笠は照月の見せたプレイが何なのかは把握できなかったが、自分では真似をするにしても難しいし、後追いと言われて自分が炎上するよりは別のスキルを手に入れた方が早いと結論付けた。


(ほう、彼女は分かっていたのか)


 先ほど去ったはずの男性俳優は別のセンターモニターで今までのプレイを見ていた。そして、照月が今後のヒーローブレイカーを変える人物ではないか、とも考えている。


「楽しみだ。ダークフォースの動向と共に」


 彼はタブレット端末でダークフォースに関するニュースを確認し、そちらの動向も把握していた。しかし、彼の元に来たメールを含めて色々と疑問視する箇所もある。

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