第4話:ニューチャレンジャー


 三月二七日、この日は様々なゲームでバージョンアップが行われていた。それはヒーローブレイカーも例外ではない。草加市内のゲーセンでも、様々なゲームでバージョンアップ作業が今も行われており、ヒーローブレイカーを含めた修正量が比較的少ない物は先に起動していた。


「細かい微調整ばかりだな」


「そうか?」


「チートプログラム対策の強化は大きいだろうが、それ以外が若干の調整程度にとどまっている」


「どちらにしても、VR版とAR版で差が出る事はないだろう?」


「まさか、あのパターンが出来なくなるのか」


「既にウィキや攻略サイト等でも問題視されていた。チートと言われてもおかしくないような物だろう」


「本来であればバグは修正されてから出るはずでは?」


「あれはバグとは言えないだろう。むしろ、仕様の穴を突いたようなパターンだろうな」


 センターモニターで変更点を見ていたギャラリーからは様々な声が聞かれた。調整を歓迎する一方で、特定パターンばかりで勝利していたようなプレイヤーには痛手でもある。


 ワンパターンで勝たれていてはゲーム的に盛り上がりにも欠けるのは確実であり、過度なバランスブレイカーはユーザーが離れるきっかけにもなるだろう。それを踏まえれば、特定パターンを修正するのは目に見えていたのかもしれない。


「特定パターンで勝つようなプレイヤーは、初心者狩りに近い物もある。メインはストーリーよりもマッチングのようなオンライン対戦物だと変更もやむ得ないだろうな」


「しかし、ヒーローブレイカーはギャラリー数が多いのは間違いない。それでも盛りあがっていると言えるかは不透明だ」


「SNS上では、盛りあがっていないという様な感じではない。それは間違いない事実だろう」


 次第にモニターをチェックするギャラリーは減っていき、気がつくと動画をチェックしている数人程度になっていた。そのギャラリーもヒーローブレイカーではなく、別のARゲームのプレイ動画を視聴している。どうやら、このモニターは他のARゲームでのプレイ動画や中継などもチェックできる仕組みらしい。


「細かい微調整と見るユーザーもいれば、大きな修正と見るユーザーもいる。世の中、そう言う物よね」


 ゲーセンのトリコロール系制服を着てセンターモニターの様子を遠くから見ていたのはビスマルクである。彼女は、このゲーセンのバイトではないのだが別所のバイトに行く関係上で制服のままでここへやって来た。さすがにライバル店舗のスパイと叩かれたりはしないだろうが、コスプレイヤーよりは目立っているのは言うまでもない。


(まさか、ここでビスマルクに会うとは予想外か)


 ビスマルクを遠目で見ていたのは、ある勢力のプレイヤーである。彼はARゲームを炎上させようと行動をしようとしたが、思わぬ人物の出現で出鼻をくじかれたというべきか。


(日を改めるか。もしくは、ターゲットを変えるべきか)


 どちらにしても彼はSNS上で目立とうとしているパリピの可能性もあるが、その外見からでは判断が難しい。むしろ、パリピとあっさり特定されるような服装や外見では、ガーディアンや他の勢力にマークされるのも問題と言える。一歩間違えると自分達の勢力が自滅と言うことだってあり得るので、ここは我慢してチャンスを待つ事にした。


 

 竹ノ塚駅近くのゲーセン、そこではヒーローブレイカーはVR版のみだが、それ以外で様々なゲームが並んでいる。特定のゲームばかりに人が集まっているようなゲーセンではなく、他の機種にも空席が目立つような様子もない。


「最近になってこのゲーセンも盛りあがっているみたいだな」


 赤髪のショートヘアにアスリート体格、身長も一七〇位あるので一見すると格闘家にも見えなくない。しかし、彼は特に格闘技経験がある訳でもなかった。私服もごく普通な物で、周囲と比べても地味と言える。彼はあくまでもヒーローブレイカーをプレイする為にやって来たのではなく、別のゲームが目当ててで訪れた人物だ。


(客足が減っている訳でもない。しかし、あっさりとプレイできるのも何かありそうで――)


 長門(ながと)ハル、あくまでも名前はハンドルネームで本名ではない。彼のメインフィールドはリズムゲームである。プレイしている筺体の形状は二画面の液晶モニターを合体させたような機種に見えるが、彼の目線にある液晶で演奏を行い、上の若干大きい液晶はプレイを観戦する専用らしい。彼のプレイは周囲を注目させるほどではないが、そこそこの腕前を持っていた。


(やっぱり何かある)


 本来であれば別のリズムゲームもプレイしてから帰る算段だったのだが、今の機種を一回プレイしただけで別の場所を見て回る事にする。しかし、リズムゲームは基本的に一〇〇円で三曲、もしくは四曲プレイできる機種が多い。その関係もあって、捨てゲーはせずに真剣な目でプレイを続行。


「まさか、長門が既に来ていたのか?」


「あのスコアで軽くプレイしていただけというのは、あり得ないぞ」


「他の上位プレイヤーは大抵がメインゲーセンが秋葉原辺りだろう?」


「こういった場所で見られるのは、ある意味でも貴重だが」


 次の順番待ちをしているであろうプレイヤーの姿があったので、プレイ終了を確認して長門は筺体から離れる。順番待ちのプレイヤーがいれば、譲り合うのはある意味でも常識だろう。ヒーローブレイカーに限らず、この譲り合い精神は重要かもしれない。

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