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 三月二六日、この日の照月(てるつき)アスカと秋月千早(あきづき・ちはや)は何か別の事を考えていた。


「やっぱり、昨日のアレは事実みたいね」


「何としても、あの勢力は止めないと」


 前日の夜、二人の目にもダークフォースの話題が入ってきた。この時はまとめサイトを利用した世論誘導と言う典型的な方法だが、手段が分かっているからこそ効果は絶大である。


「ダークフォース、そのやり方は典型的に分かりやすいからこそ効果は侮れない」


「ARゲーム闇と言うよりも、SNSの闇と言える存在を何としても根絶しないとね」


 しかし、その手段をどうするべきか。同じようにSNSで訴えても他のパリピ等が炎上を仕掛けたり等の逆効果を生む。それでは言葉の暴力の応酬と言っても過言ではない。何としても、それ以外の方法で止めるにはどうすればいいのか?



 沈黙が三〇秒は続く。その末に二人の視線は同じ物に向けられていた。それは、ヒーローブレイカーの筺体だったのである。


「いっそのこと、二人でチームを作って―ー」


 照月はチーム作成を提案するが、秋月の方が乗り気ではない。一体、どういう事か?


「わずか数回のプレイでチームと言うのも、ちょっとね」


 秋月が乗り気ではないのは、わずか数回のプレイで中級者向けとも言えるようなチームを組む事は無理があると。どうしてもというのであれば別の方法もあるのだが、それで人が集まるのかと言う別の問題も発生する。


 自分達で作るか、それともその場で募集をする手段にするか――秋月はそれを照月に説明した。それでも、彼女はチームを作ろうと考えている。


「他のプレイヤーを誘う以外でも何か方法はあるの?」


「ない事もないけど」


 照月の勢いを止められないと判断した秋月はチームを組む為のエントリーをセンターモニターで行う。結局、チーム名は決まっていない事もあって付けない方向にしようとしたのだが、どうしても照月は何かにこだわっている。


《チーム名を決めてください》


 チーム名はひらがな、カタカナ、漢字、ローマ字で決められるようだ。ただし、超有名アイドルグループ名や不適切な単語は対象から除外される。


 入力には制限時間があり、それまでに入力しないとチーム名は仮名称のままだが、入力に関しては別のプレイやカスタマイズでもおこなえるようだ。


 照月はカタカナで入力しようと考えるが、良い名前が思い浮かばない。名前にこだわり過ぎても名前倒れになる可能性は否定できない。文字入力はセンターモニターを直接ふれるのではなく、モニター横に配置されている入力端末の方で行う仕組みだ。何か思い浮かぶような名前があれば入力すれば――と思いつつも、結局はこの場で思い浮かばずにチームAと仮名称となる。


 マッチングに関しても、秋月と照月以外にダミープレイヤーのCPUが一名エントリーしてきた。これに関しては三人一組のミニマッチングモードと言う事らしい。三人一組だからと言って連携してボスを撃破する訳ではなく、あくまでも個人戦である。ヒーローブレイカーのマッチングと言うのは、あくまでもソーシャルゲームである様なレイドバトルの延長的なマッチングになっていた。


 それ以外で別のマッチング方式も模索しているようだが、現段階では未定となっている。ランクが違うプレイヤー同士でマッチングする可能性もあり、下手をすれば初心者狩りが横行しかねない懸念もある。相手プレイヤーは三人共にた店舗のプレイヤー。それに対し、照月は何か疑問に思う部分もあったのだが、敢えて秋月に聞く事はしない。


(もしかすると、別店舗のARゲーム筺体でのプレイを中継している仕組みだろうし)


 照月は相手がARゲームセンターの別店舗と思っていたのだが、プレイヤーネームの下にある店舗名にARと言う単語はない。更に言えば、店舗名の隣にあるアイコンはVRと表示されている。一体、これはどういう事なのか?



 二人がプレイを開始して一分が経過した頃、ゲーセンに姿を見せたのは二人のプレイヤーだった。大和(やまと)と三笠(みかさ)である。

三笠の方は大和と協力体制を取る事になったのだが、それは自分の任務を達成する為の物に過ぎない。


「トップランカーの大和だと?」


「ここにも有名プレイヤーが姿を見せるのか」


「一体、何をする為に来たのか?」


 周囲のプレイヤーも動揺している所を踏まえると、相当の実力者と言うのが分かる。それに加えて、大和と言えばバーチャル動画投稿者にも同名人物がいる為、その名前を使えばどのような事が起こるのかも察する事が出来るだろう。


「ここには、さすがにあのプレイヤーは――?」


 三笠は別のセンターモニターに視線を合わせると、そこでは秋月と照月のプレイしている中継映像が流れていた。三笠の方は若干の興味を持つのだが、大和の方はあまり興味がないように見える。


(なるほど、そう言う事か。ARゲームとVRゲームでマッチングを行うシステムが早くも実装――と言うよりはβテストかな)


 このマッチングを見てふと思ったのは無予告のβテストなのだが、そこまでして行う価値のあるシステムなのか、という疑問は残る。ARゲーム版とVRゲーム版では様々な個所でシステム周りが違うはずなのに、マッチングが成立する物なのか? 疑問に思う部分はありつつも、三笠は様子を見る事にした。

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