第3話:ヒーローブレイカー

 三月二五日、午前十一時頃からARゲーセンにいたのは照月(てるつき)アスカと秋月千早(あきづき・ちはや)の二人である。服装は秋月もARインナースーツを着用せずに普通の服装をしているが、どうしても照月の改造メイド服に近い服が気になっていた。


「他に服がないという訳でもないのに」


「この方がテンションあがるのよ。ゲームをプレイする時は」


 秋月が若干呆れかえっているのだが、照月はマイペースだった。もはや、ここまでくるとツッコミするだけ無駄の様である。


「動画で一通り色々と調べたけど、どれを使えば有利と言うのはないみたいね」


「有利って?」


「圧倒的な無双展開が出来るか出来ないか――と言う事。それぞれのタイプで剣店はあるし、攻撃力は全て同じ」


「攻撃力は武器依存だけど、使うタイプによって使えない武器もある位だし」


「つまり、どのタイプを使っても特に問題ないと?」


 二人は順番待ちをしつつ、センターモニターで別の動画を確認しつつ話をしていた。攻撃力に違いはないとの事だが、それ以外はそれぞれのタイプで違いがあるという。


「そこまでは言ってない。あくまでも立ち回りは使うタイプで異なるのよ」


 照月はどれを使っても問題ないと考えていたようだが、それを否定したのは秋月である。


「ヒーローは平均的、ESPはスピード特化、パワードスーツはディフェンス特化でそれぞれが違う」


「しかし、他のプレイヤーはヒーローを使っているプレイヤーが多い」


「それは、タイトルがヒーローブレイカーだし」


「一度決めたら変更できないとか?」


「それはないわ。変更は任意で可能。それに、ある程度慣れてからタイプを変えるプレイヤーは多い」


「そうか。この辺りは好みで決めても問題はないのか」


 照月の言葉に若干の疑問を持った秋月だが、特に問題ない――と返事をする。そして、順番が回って来た頃にはチュートリアルをプレイし、照月が選んだタイプは秋月が一番懸念していたタイプだった。



 周囲のギャラリーも照月の姿を見て動揺をしている人数が若干多いが、彼女のメイド服に関しての物ではない。それは彼女が選択したタイプだったのである。それは、まさかのパワードスーツだった。


(えっ!?)


 秋月の方も、思わず変な声が出そうになったが何とかこらえる。それ位には衝撃展開だろう。パワードスーツはVR版であれば操作系統で苦労する事はないが、AR版では的になりやすいと攻略ウィキで書かれているほどである。


 それは、リアルで歩いたり走ったりする行動が必要とされるARゲームで重装甲のパワードスーツを使うのは、ある意味で自滅行為と言われていたからだ。


 他のプレイヤーがいないのはチュートリアルプレイと言う事情もあるかもしれないが、それでもいきなりパワードスーツは無茶があると考えている。


「あのプレイヤー、まさかのパワードスーツ使いか?」


「他のプレイヤーがいないと事を見ると、チュートリアルだな」


「まさか、最初からパワードスーツを使うのか。それは無茶と言う物だ」


 周囲からも無謀という声が出るほど、初心者プレイヤーが最初から使うのには無理がある代物だ。VR版で慣れていれば問題はないかもしれないが、それでもプレイ感覚の違いには苦労するだろう。


(他人のプレイに口を出すのは、さすがにアレだからやる気も起きないけど)


 あくまでもプレイスタイルは人それぞれなので、そこに関しては秋月も言及しない。しかし、セオリー無視な照月のプレイには口を出したくなくても、周囲の反応を踏まえると何か言いたくなってしまう。


「これが、ヒーローブレイカーなのか」


 照月に装着されていたARアーマーは軽装タイプの物で、パワードスーツと言うよりはSFで見かけるようなノーマルスーツにも近い。しかし、舞台は地上がメインなので、そこまで重装備と言う事もでもないので動きは問題ないと秋月は考える。


(思ったよりも感覚が違う様な――)


 アーマーの装着具合よりも、チュートリアルを流しでチェックしている関係もあって操作に違和感を覚える事もあった。しかし、その辺りは何回かプレイすれば慣れてくるだろう。今までのゲームもそうやって覚えてきたので、不可能なことはない。


「チュートリアルが終わって、次は何が始まるのか」


 チュートリアルが終了した照月の目の前にはSFに出てきそうな四本足の歩行兵器が現れる。おそらくは多足歩行戦車と言う部類かもしれないが、あれが最初に戦うターゲットと言う事か?


《最初は使用する武器を選んでみましょう》


 パワードスーツのバイザーに表示されたメッセージを見て、ようやく何かが足りない事に気付く。彼女は素手だったのである。チュートリアルを一通りプレイしていれば武器の一つも支給されるのだが、それを飛ばしたのが痛い。むしろ、支給されても武器の呼び出し方をチェックし忘れていては、素手でチュートリアルバトルに突入するのも当然だろう。


「これは、さすがにアドバイスした方がよかったかな」


 ゲームエリア外で様子を見ていた秋月も、さすがに『チュートリアルを下手に飛ばさない方がいい』と言うべきだったと後悔している。それに加えて、この状況だとチュートリアルなのでライフが0になって即ゲームオーバーはないものの、非常にまずいと思っていた。


(チュートリアルで、あまり動けないで終わるのって――ARゲームではあるあるだけど)


 秋月はゲームスタイルは人それぞれでも、ここはアドバイスをするべきとも思い始める。しかし、次の瞬間にはそれが不要である事を思い知ることになった。

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