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 午後二時頃、照月(てるつき)アスカと秋月千早(あきづき・ちはや)の訪れているゲーセンとは違う場所、そこではあるプレイが物議となっていた。あるプレイヤーが使用していた武器、ソレは明らかにヒーローブレイカーで使われている物とは大きく異なる形状だったのである。その威力もケタ違いであり、ヒーローブレイカーでの最大攻撃力が十万と言われている中で、百万は叩きだせるシロモノだ。


(明らかにおかしいぞ?)


(本来の火力以上の火力でレイドボスを倒している)


(スコア計算も何かおかしい。明らかにあのプレイヤーが不正をしているとしか思えない)


 周囲のギャラリーも疑問を抱くが、証拠がないので通報できないというべき状況でもある。データログで何とか不正プログラムを使っていると分かれば、通報も容易なのだが――。


「スコア挙動がおかしいだけでは対応できないのか?」


 ギャラリーの一人が指摘するが、それだけでは通報不能なのがARゲームでの宿命だろう。大容量データを扱うARゲームでは多少のデータラグは、排除しようと調整を行っても誤差が出てしまうのは仕方がない。スコア一ケタ程度の集計ミスやゲームの進行に問題ないような物は仕様として処理される。


(あのスコア単位では、どうする事も――!?)


 身長一七〇位のロングヘア、それに周囲が注目をしない方がおかしいようなカジノディーラーコスプレをしている女性、彼女は別のモニターを見ていた。そのモニターではヒーローブレイカーとは別のFPSゲームが表示されており、そちらの中継を見ていた形である。


 しかし、あるギャラリーの声が聞こえたことで、彼女はヒーローブレイカーのモニターをチェックするのだが――そこである異常な挙動を発見した。


(そう言う事か。これならば、他のゲームもプレイしていないと分からないレベルだ)


 彼女がスコアの挙動に気付いたのは別FPSの中継をチェックしていたからである。そちらのスコア挙動が、そのままヒーローブレイカーにも出ていた事で不思議に思った。明らかに別FPSの武器をそのまま向こうへ持ち込んだようなスコア挙動は、彼女にとっては見破るには容易な物だったと言える。


 その後、周囲が証拠がないという事で通報できなかった一件は彼女が代わりに通報することで、不正プレイだという事が発覚した。


(明らかに、このプレイは何かがおかしい)


 不正プレイ以上に彼女は、別の何かが介入している事を疑う。SNS上ではダークフォースと言う存在やまとめサイト等もあるのだが、そちらとは違う可能性もある。今回の行動は、どちらかと言うと計画性はない。しかし、あるコンテンツを持ち上げようとする為に仕掛けた物には変わりがないだろう。


 彼女は別件でSNSの動向や不正プレイを探っていたのだが、ヒーローブレイカーでも類似案件が出ている以上は向こうとの関連も探る必要性が浮上した。



 今回のプレイ動画は、案の定だがまとめサイト等にもアップされた。一見すると普通のプレイに見えなくもない。実際にはスコアを注目すると明らかに該当プレイヤーの物だけ挙動がおかしかったのである。


【まさかのチートか?】


【やはりこうなったか】


【やはり、日本で優秀なコンテンツは超有名アイドルの――】


 まとめサイトにはさまざまなコメントが書かれており、明らかに炎上狙いの煽りコメントが目立つ。このサイトに関しても周囲に表示されている広告も多い事もあって、明らかに広告料狙いと言う意見も多かった。まとめサイトをソースとする記事にはフェイクニュース疑惑もあり、迂闊に拡散しないようにとは徹底されている。


 しかも、草加市では特定のまとめサイトが閲覧できないように通新遮断をしていると言噂も出てくるほどだ。それ程にまとめサイトの話は草加市では聞かれない。今回の一件は偶然の重なりとはいえ草加市でも閲覧できたという意味では、様々な憶測記事が拡散されるレベルだった。


「やはり、こうなるのか」


 まとめサイトを草加市と足立区の境界線にあるコンビニで見ていたのは、大和(やまと)である。彼女は別の用事でゲーセンめぐりをしていたのだが、コンビニでモニターに表示されたニュースを見て、その内容に驚いた。そのニュースが、今回のまとめサイトを巡るニュースだったのである。しばらくして、該当サイトは削除されたようだが――これで終わりと言う訳ではない。


(間違いなく、彼らは動きだす。一連のSNS炎上がきっかけとなって)


 大和が懸念するのはヒーローブレイカーが他のゲームと同じようにSNSで炎上することだ。大なり小なりSNS上でニュースが出るのは確実であり、ニュースにならない方がおかしい。新機種が出れば何処かのサイトが取り上げるし、サービス終了や稼働終了でも個人サイトで取り上げるケースだってある。


 ニュースにならないゲームが存在するのは、コンテンツ的な部分を踏まえてあり得ない。二次創作の同人ゲームでも個人サイト等で取り上げられるような時代で、話題のないゲームがある事自体がおかしいと言える。


「話題にならないゲームは、この時代ではあり得ない。逆に盛り上げようとメーカーかプレイヤーが動く以上、何も起きない事がおかしいだろう」


 ため息をつきつつ、大和はペットボトルの緑茶を片手にモニターに表示されたニュースをチェックしていた。今回のニュースは、全ての始まりに過ぎないだろうとも予測している。つまり、これがヒーローブレイカーにとってはSNS炎上に巻き込まれる事を意味していた。


「イースポーツ戦国時代とは、よく言った物だ」


 それこそマスコミの戦略と言えなくもないような『イースポーツ戦国時代』と言う単語。それが無意味な物なのか、それとも流行語になる程の物になるのかはまだ分からない。彼女にとって皮肉なのか、それとも別の何かなのかは――まだ分からない。むしろ、他のパリピ等が煽り目的でワードを利用しようとするようなイメージまで彼女にはできていたのである。

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