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午後一時頃、ARゲーセンの方へ移動を始めたのは照月(てるつき)アスカと秋月千早(あきづき・ちはや)の二人。現在向かっているARゲーセンに関しては、前回訪れた場所とは異なる。メイン店舗を決めるにしても、他店舗の環境を見てからでも遅くはない。ヒーローブレイカーは一度プレイ店舗を決定すると二度と変更できないような仕様ではないので、そこは問題ないのだが。
そもそも、プレイ店舗が固定でもされたら遠征に行く事さえも不可能になってしまうだろう。それでは他のゲーセンへ行く事もできなくなり、逆に不利となるかもしれない。遠征を醍醐味とするのは格闘ゲームで地方の強豪と戦ったり、もしくは思わぬレトロゲームにめぐり合う事も不可能だ。遊園地の名物アトラクションがそこでしか楽しめないようなものであれば、店舗固定の様な形式もありかもしれない。しかし、これはあくまでもARゲームだが、アーケードゲームでもある。
「それにしても、ヒーローブレイカーがVRでも展開されていたとは」
秋月の方は完全にミスをしていたと言える。VRも展開されているのをもう少し前に知っていたら、そちらをプレイしていた可能性が高いからだ。ARの方はARゲームで共通のインナースーツ等を準備する必要性があるが、それだけを用意すれば他のゲームでも流用が出来る。
しかし、初期投資が高い関係もあってARゲームがあまり流行していないのだろう。草加市等の限られたエリアでしか展開されていないのも、その為かもしれない。アンテナショップで一式をそろえる事も可能だし、ARガジェット等も通信販売で購入出来る。その辺りのハードルは低いはずなのに、どうして彼らはARゲームをプレイしないのか?
「ARが先って言っていたけど?」
「ロケテスト自体は、ほぼ同時期っていう話もあるけど、リリースはARが先よ」
「どうして、ARの方が?」
「VRの方には何かトラブルがあったという話もあるけど、真相は不明。一説にはサーバー関係の管理やシステム調整って話だけど」
「結局、どっちをプレイした方がいいの?」
「好きな方をプレイすればいいというのがSNS上のテンプレだけど、VRの方はライバルが多い。だからARをプレイするユーザーが微妙に多いのかも」
二人が話をしているうちに、目的地であるARゲーセンへ到着する。自動ドアにもARゲーム専門と書かれており、それを目当てに訪れる客が多い。客の目当ては様々だが、ここに設置されている機種は指折り数える程度しかなかったりする。
店内に入った二人は、自動ドアが開いた先に広がっていた光景に驚く。設置されていたのは、何とサバゲ―をベースとしたARゲームである。スペース的に広い場所を確保しないといけない為か、これが場所を取っている原因だろう。しかし、サバゲ―に関しては様々な問題を抱えている関係もあり、リアルでプレイできるような場所は少ない。
それを差し引いてもARゲーセンでプレイする価値は高いと考えている。実際、ARのCGで作られた重火器類は再現率が高く、BB弾を発射する訳ではないので環境にも配慮、ゲーセン内でプレイすれば周辺住民の迷惑にもならないだろう。今では、そういったサバゲ―ユーザーを取り込んで人気の機種となっていた。こう言った需要があるからこそ、様々なジャンルでARゲーム化が進んでいるのかもしれない。
「確かに、サバゲ―を市街地とかでプレイは出来ないよね」
照月の一言にも一理ある。映画の撮影でもない限り不可能と言えるし、廃墟でサバゲ―をやるにしても事故が起こる可能性も否定できない。ARゲームであれば安全は保障されているのに加え、まとめサイト等でマナーの悪さが原因の炎上リスクも減るだろう。ただし、ARゲームでもジャンルによってはマナーの守られていない箇所もある為、炎上が『絶対起きない』保証はない。
「それもあるけど、廃墟でプレイするような問題行為もあるし。それを踏まえて、ARゲーム化を進めたのかも」
秋月もプレイ光景を見て、ふと思う。将来的にはアイドルのライブイベントもVRとARを併用してアーティストは専用の施設でライブを行い、それを中継したりするような事もあるかもしれない。それ以外でもバーチャル動画投稿者のイベントをVRフィールドで行い、それを動画サイト等で流す方法も注目されている。
こういう形でのVR化やAR化は今に始まった事ではない。過去に起こったハロウィンによる騒動もきっかけだったし、更に言えばSNS上の炎上を招いた事件も絡んでいるかもしれないだろう。将来的にはVR専用サーバー設備を草加市に誘致し、VRイベントを開こうという考えもあるとか。それを踏まえた聖地巡礼計画と言えば、聞こえはいいかもしれない。
「何でもかんでもAR化して、草加市は何を狙っているのか」
照月は疑問を抱いた。ARと言う拡張現実技術を草加市が広めようという意図が、現状では分からない。聖地巡礼であれば他にもコンテンツがあるはずだし、そもそもここまでARゲーム推しをするような状況になったのは――。
二人が奥の方へと歩いていくと、そこにはヒーローブレイカーのフィールドがあった。既に混雑しているようで、三〇分待ちと言うモニター表示も出ている。キャンセルが出てくれば待ち時間も減るだろうが、それが期待できるかは分からない。有名プレイヤーがいる訳でもないようだが、ならば混雑する理由はなんだろうか。
「ここに設置された情報は――って、まさか?」
秋月がタブレット端末で情報を調べた結果、本日になって設置されたという情報が更新されていた。おそらく、穴場と考えて押し寄せた結果かもしれない。考える事は誰も一緒という事なのだろう。
「チュートリアルで時間を取られるのは確実だし、センターモニターが空いていれば」
秋月は周囲を見回し、センターモニターで空いている場所がないかを探す。モニター自体は五台設置されており、既に三台がギャラリーで見えない状態だ。歩いて数歩程度の距離にあるモニターが空いていたので、二人はそちらへと向かう。そして、モニターの近くに配置されているボタンを操作して動画を呼び出した。
「とりあえず、簡単な説明だけしておくわね。残りはチュートリアルで」
秋月が呼び出した動画はチュートリアルではなく、クラスの使用率を表す円グラフだった。そのグラフでは赤、緑、青で色付けされているのだが、一番多いのは緑だろうか? 次に赤、最後は青である。
「現状だと、一番多いのはヒーローみたいね。バランスがとれているから使いやすいのかも」
四割程のプレイヤーが使用しているクラスはヒーローのようだ。タイトル通りにヒーローが主役と言う事か。
「二番目はESP(超能力者)、一番低いのはパワードアーマーみたいね」
(パワードアーマー? あのSFで見かけるようなアレの事?)
照月は秋月の話を聞き、パワードアーマーが若干気になり始めていた。ヒーローの様な多数派のクラスを使うよりも、少数派のパワードアーマーを使った方が良いのでは――と。
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