第23話 下準備をしておく


 メニューも決まったことで、気持ちを引き締めて仕事に取り掛かる。あたしが担当するのはパン、サラダ、スープ、それに付け合せだ。ロッシーニの付け合せと言えば何と言ってもマッシュポテトだ。コックによっては焼いた牛フィレ肉の上にマッシュポテトをこんもりと盛り付けて、その上にフォアグラのソテーを乗せると言う人も少なくない。それほどまでにマッシュポテトとロッシーニの組み合わせは相性が良いのだ。

 マッシュポテトはまず、じゃがいもの皮をむき、薄くスライスをする。塩を加えた水で身が崩れ始める直前まで茹で、ざるに開けて水を切る。鍋に牛乳、生クリームと茹でたじゃがいもを加えて、ナツメッグをすりおろす。火にかけて沸騰させ、軽く水分を飛ばしてから、ムーランか裏ごしをしてもう一度火にかける……と言うのが一般的ではあるが。今日は裏ごしをせず、そのまま鍋の沸騰させ、それを泡立てで強引に砕くように混ぜ合わせていく。裏ごしをすれば口当たりが滑らかで、まるでソースのようなマッシュポテトができるが、この方法だとキメが粗く、ゴロゴロとした口当たりになる。ソースとしてなじみにくくはあるが、食べ応えのある付け合せになる。

パンはロッシーニの味を邪魔しないようにシンプルなバゲットを焼く。そしてロッシーニは高カロリー、高脂肪な料理なので、スープはきのこのポタージュにする。きのこ類に含まれる多糖類の一種、きのこキトサンは脂肪分解酵素リパーゼの働きを抑制し、脂肪燃焼を促進させる働きも期待できる。

玉ねぎとシメジ、シイタケ、マッシュルームなどを炒めてブイヨンを加え、ミキサーで細かく砕いてから裏ごしして、牛乳を加え、塩こしょうで味を調える。粗挽きの黒胡椒を仕上げに加えるとアクセントに良い。

サラダは通常のグリーンサラダに入り大豆、りんご、くるみを加えてあえる。どれも脂肪の吸着を抑制する効果が期待できる。

それらひととおりをあたしが準備しているあいだに堂嶋さんは朝から仕込んでいたフォン・ド・ボー(仔牛のだし汁)を八時間かけて完成させ、赤ワインソースのベースを完成させた。

ひととおりの準備を終えたあたしたちはそれらをひとまとめにした大きな荷物を抱え、アトリエを出発した。仕上げは現地に到着してから行う。

途中、ひいきにしている肉屋に寄り、注文をしていた牛フィレ肉を受け取った。とてもおいしそうな肉だった。牛フィレ肉の中でも最も膨らんだ、わずか数人分しか取れない希少部位、シャトーブリアンだ。ほどよくサシが入っており、しっかりとした赤身、脂っこくなくて、歯ごたえも一番やわらかい。西洋料理ではステーキとして供する時、最も好まれる部位だ。さらに今回は、岡山県産の千屋牛を用意した。

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