第43話 冴えないふたりのたたかいかた【加藤視点】
「ねえ、英梨々? 聞きたいことがあるんだけど……」
「なによ、恵。あらたまっちゃって」
私は、彼女とふたりっきりなったタイミングで、私は切り出す。
前から一度、話さなくちゃいけないと思っていたことだった。
「去年の那須高原……あの時のこと」
「あ~、あの時ね」
「ごめんね。変なこと蒸し返して。でも、聞きたいんだ。どうして、あの時……あのチャンスを……不意にしてしまったの?」
「私に勝った女にそう聞かれると、色々と思うことはあるけど……」
「ごめん。言いたくなかったら、言わなくていい……よ」
「まあ、親友の頼みだからね。教えてあげる」
「ありがとう」
「もしかしたら、怖くなったのかもしれない」
「怖い?」
「うん。倫也とちゃんと仲直りできて……倫也が私の絵を褒めてくれて……倫也を独占できて……最高に幸せだった」
「……」
「でも、怖くなった。これ以上、先に進んだら、私はすべてに満足してしまう。たぶん、これ以上先には進めなくなる」
「英梨々のモチベーションって、結局は倫也くんなんだね」
「たぶんね。だから、倫也本人が手に入るのが怖かったんだと思う」
「だから、私がいなかったあの時期も積極的になれなかったの?」
「そう考えると、私は好きなひとよりも、絵を取ったってことになるのね。ホント、馬鹿だよね、私。倫也以外、選ぶことがない恵にこんなんじゃ勝てるわけ、ないよね」
「……」
英梨々は私の質問に答えなかった。でも、私の質問の裏にある本質をつかんでちゃんと答えてくれた。
「だからね、恵。私のことは気にせずに前に進みなさい。でも、油断はしないでね。私はもしかすると、まだあきらめていないかもしれないじゃない」
「うん、ありがとう。英梨々」
「なんで、ライバルにお礼を言うのよ?」
「それもそうなんだけど……でも、本当にありがとう、英梨々?」
「どういたしまして、恵」
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