第12話 冴えない後輩の落としかた
俺は、いつものように校門を出る。
いつものようにひとりで。
「オタメガネ」とか「校内一のオタク男子」とか言われている俺に、リア充なハプニングなんて起きるわけがないと信じていた。今日も、いつものようにバイトで貯めたお金でオタクグッズ漁りをしようと街に繰り出そうとしていた。
「倫也、先輩」
名前を急に呼ばれた。俺のことをそんな風に呼ぶ後輩におぼえはなかった。ひとりの女の子が校門で待ち構えていた。いや、後輩から下の名前で話しかけられたこともなかった。誰だろう。制服をみると、豊ケ崎の生徒じゃないみたいだけど……
「やっぱり、倫也先輩だ~ よかった、また、会えた」
声の主は、泣きそうな声で俺の名前を呼ぶ。
その声に聞き覚えはあった。中学の時の後輩で、俺によく懐いていたオタク友だちの……
「もしかして、出海ちゃん?」
親の仕事の都合で、名古屋に引っ越してしまった後輩だった。
波島出海。
数年ぶりの彼女は、当時のボーイッシュなイメージとはかけ離れた可愛い姿になっていた。
「はい、波島出海です。わたし、帰ってきたんですよ」
※
「やー、出海。また、倫也くんのシナリオ読んでいたのかい?」
お兄ちゃんが、そうちゃかしてくる。もう、いつもそうだ。
「だって、倫也先輩が、わたしのために書いてくれたシナリオだよ。読み返さないわけがないじゃない」
「いや、それは出海のためだけじゃなくて……」
「なにか、言った?」
「いや、なにも言ってないよ」
苦笑いしながら、お兄ちゃんに下の階に逃げていった。
わたしは、また幸せな時間に潜りこむ。
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