第7話 冴えないけんかの終りかた【原作7巻、加藤視点】

<ぷるるるる>

 学校の課題をしていたらスマホが鳴った。

 私は数学の問題集をから目を離して、それを凝視する。この半年で何度もみた名前が映しだされた。


 電話の主は安芸くんだった……。


 彼とは、冬コミの後の喧嘩から避けてしまっている。学校ではぎこちなく挨拶するくらいで……。気分を切り替えて、私はもう一度数学の問題に取り組むのだけど、いつの間にか視線はスマホに向いてしまう。


 ※


「わたし、反対なんかしなかった」


「許せない」


 ※


 自分があの日、言ってしまったセリフを思いだす。あの日から、なんど思いだしたかわからない。


「なんだかな~」

 いつもの独り言をつぶやく。その独り言は、いつものセリフなんけど、いつものようなセリフじゃなくて……。


 ちょっとじゃない後悔と、嫉妬が含まれていた。

 そのことに私は気がついて、「はぁー」とため息をつく。


 いつから自分は、こんなめんどくさい女になってしまったんだろうか。冬コミの帰り道に安芸くんに言った別のセリフ。それがまさに私の心境だ。

「これじゃあ、まるで瑠璃だね」

 そのセリフは、もう一度私の口から発せられた。


「勝手にキレて、なに後悔してるんだろうね、私」


 あの日、どうして私はあんなことを言ってしまったのだろうか。安芸くんが暴走するのは、いつものことだし……。それに今回の暴走は、いままでの中で一番悪くない暴走だし……


 那須の別荘にひとりでいるエリリが急病で倒れて、気が動転した安芸くんが、ゲームの完成をあきらめて助けに行ったと思えばよかった。気が動転していたし、時間もなかったから、私に連絡もできなかったんだ。だから、安芸くんが私を裏切ったわけでも、気にしていなかったわけでもない。


 でも……。


 どうしても、黒い感情を止めることができなかった。

 安芸くんが、その選択をしたという事実に、私は勝手に怒れてきてしまった。


 そして、わかってしまったんだと思う。


「私は、あなたの望む素敵なメインヒロインに、なれなかったの、かな?」

 目からは、冬コミの帰り道に落ちたものと同じものが流れてきていた。

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