第4話 冴えない嫉妬の抑えかた【原作4巻 加藤視点】

 カタカタ……。

 私は、夢中になってキーボードを叩いていた。


 ここは、自分の家でもなければ、あの賑やかなオタク安芸くんの部屋でもない。閑静な住宅街にたたずむイギリス外交官の豪邸。澤村さんに無理を言って、今日は、スクリプトの勉強のための合宿をひらかせてもらった。


 合宿とはいっても、今日は、私と澤村さんのふたりだけ。

 霞ヶ丘先輩は、分からないところをメールで教えてくれている。私たち、三人は頑張っていた。それなのに……。


 サークルの代表といったら……。


 家出をしてきたいとこの女の子に鼻の下をのばしている。

 だから、今日は、代表抜きの合宿なのだ。


「よく、空中分解しなよね~、このサークル~」

 澤村さんが、台所にコーヒーを淹れにいっている間、私はひとりごとをつぶやきながら、キーボードを叩く。

 少しだけ、力が入ってしまうのは、どうしてなのかな?


 ※


 少しだけ休憩しようと、パソコンから目を離すと、少しずつまぶたが重くなっていく。徹夜慣れしてないから……。


 こんな状況で思いだすのは、私の幼馴染のイトコ圭一くんについて熱く語っていた安芸くんの姿だった。


「あれって、自分のことだったんだね、安芸くん?」

 勝手にねつ造された山で迷子になった思い出。泣きながらイトコと過ごすあのエピソード。たしか、ギャルゲーの”フラグ”とかなんとか言っていたはず。


 私には、そう言ったのに……。


 まさか、あれが自分の大事な思い出、実体験だったなんて……。

 驚くというよりも、むしろあきれてしまうよ。


 つまり、安芸くんは氷堂さんのことを……。


「よし、休憩終わり」

 私は雑念を消し去り、再び作業へと戻った。


 でも、雑念は何度も復活してしまう。


 それを考えると、キーボードを打つ手がドンドン強くなるのを私は自覚した。

 なんだか、怒れてきちゃう。

 どうして、だが、全然、わからないんだけど、ね。


「しかたないな~」

 なにがしかたないか自分でもよくわからないんだけど、とりあえずそう言ってみる。そうすれば、いつもの私に戻れるような気がしたから。


 そして、カバンからスマホを取りだした。

 録音アプリを起動する。


「見栄、ぐらい、張らせてよ。私だって、女の子なんだから、さ」

 

 私は、いないはずの彼に向かって語りかけた。

 

 私じゃない女の子たちを追いかけてばかりの、あの鈍感主人公に……。

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