第3話 ありえた未来の見つけかた【原作3巻 英梨々視点】

「どうして、あんなこと言っちゃったの、かな」

 私は、そう言ってため息をつく。こんなに落ちこんだのは久しぶりだ。今日はパパの大事なパーティーがあるのに……。こんな落ちこんでいては、パーティーに参加できない。いつもの外交官令嬢の表情を作らなくてはいけないと焦れば焦るほど、昨日の後悔が増していく。


 後悔は、後悔を生み、過去の黒歴史まで思いだしてしまう。


 コーディネーターさんが選んでくれた赤いドレスを見ながら、私はもう一度ため息をついた。


 昨日の出来事を思い出す。

 あれがいけなかった。

 コミケ2日目の午後。私は、あのバカのサークルに顔をだした。


 単なる冷やかし、そして倫也の顔をみることが目的だったのに、私は完全に暴走した。


 嬉しそうにあの女の同人誌を売りさばく倫也の姿と、倫也が持っていた宣伝用の見本絵。


 それを見たとき、私は恐怖を感じたのだ。

 私の大事なものをすべて持っていかれたと……。それと同時にどす黒い感情が、私の心を包み込んだ。


 私が本来ならいるはずのポジションにどうしてあんなガキがいるのよ。


 そう思うと、気持ちの暴走は止められなかった……。


 そして、今に至るわけである。


 今日はずっとふて寝をしている。

 自慢の金髪ツインテールはほどけて、ベッドに散乱していた。


「もう少しだけ寝よう」

 そう言って、私は夢のなかへと逃げだした。


 ※


「倫くん」

 夢の中で、私は彼と一緒にいた。

 不思議なことに、私と倫也は高校の制服を着て、呼び方は小学生のままだった。


「おう、英梨々。昨日のあのプリ見たか?」

「もちろん見たに決まっているでしょう。最高だったね」

「だよな~。あの幼馴染コンビが仲直りするところなんて、特に」

「そうそう! これで夏コミの題材は決まったわ。また、売り子として手伝ってね、倫くん」

 私たちはいつものように通学路を歩いていた。


「なんて、夢を見ているのよ、私っ」

 夢からさめて、ひどい自己嫌悪に陥る。ありえたかもしれない、今。それをまざまざと見せつけられて、私はひどく狼狽した。


 もし、あの時、すぐに謝っていたら……。

 周囲の目を気にせず、彼のことを第一に考えていれば……。


 そんな馬鹿なことまで考え始める。


「違うっ、私は悪くない」

 、感情を爆発させた。もう何年も続けている堂々巡りだ。


 窓を見る。日が暮れ始めていた。そろそろ、パーティーの準備をしなくちゃいけない。


 私は、外交官の令嬢へと変身する。


 でも、ひとつだけバカな考えは捨てることはできなかった。


(私って、あいつのメインヒロインになれたんじゃないのかな?)

 私は赤いドレスに身を包んだ。

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