第2話 ふたりのモールの帰りかた【原作2巻 加藤視点】
「澤村さん、眠いの~?」
「当たり前でしょ。昨日は、次のイベントの準備で、完全に徹夜、なんだから……」
彼女は、本当に眠たそうにそう言っていた。
六天場モールで、安芸くんと別れた後、私は澤村さんと偶然、出会った。
そんな、偶然ありえるわけないんだけどね~
そのまま、お茶をしながら、いろいろと挑発された。
彼女は、私の怒った顔を描きながら……。
それについては、もう思いだしたくも、ないんだけど……。
帰りの車に乗せていってくれるという彼女の厚意に甘えて、私は車の中にいた。その車は、彼女がお嬢様ということを如実に示していて乗るのがとても怖かったんだけど……。黒くて大きい立派な車だった。
「じゃあ、どうして今日は六天場モールに来たの?」
私は、さっきの仕返し……じゃなくて、当然の疑問を彼女にぶつける。
「そりゃあ、倫也のデートを監……もとい、どうしても欲しかったものがあるからよ」
「いま、すごく不穏な言葉を聞いた気がするんだけど~」
そう言うと彼女はしまったという顔をして、慌てて顔を隠した。
「気のせいよ、加藤さんっ」
「それに~、忙しい中、せっかく来たのに、何も買ってないよね~」
「売り切れてたのよ、売り切れ。だから、しょうがないのっ!」
もうやぶれかぶれの主張だった。
「じゃあ、なにを買いに来たの?」なんて追及は口に出さなかった。
ああ、これが安芸くんが言う「キャラが立っている」ということなんだな~と私はぼんやり思った。
「そうなんだ~。じゃあ、しかたないね~」
「そうよ、しかたないのよっ。もう、ねむいから、寝るわよ」
ぷいと金髪ツインテールを振り回して、彼女は眠りの世界に旅立っていった。
そのしぐさが、とてもかわいらしかった。
私も、帰りの車に同乗させてもらった手前、これ以上の追及は終わりにする。
朝早くて、たくさん歩いたからか、私も少しずつねむくなってきた。
安芸くんが求めている冴えてるキャラクターってこういうひとのことなんだろうな~
そう素直に考えながら、どこかに黒い感情を見つけてしまう。
なにを馬鹿なことを考えているのだろうか。
そもそも、私と安芸くんは、単なるクラスメイトで、サークル仲間で……。
車の気持ちがよい振動で、睡魔はもう間近にまで迫ってきた。
(私を誰もがうらやむような幸せなメインヒロインにしてくれるんだよね?)
メインヒロインをおいて、別の女に走った男の子に私は少しだけ恨み節をこめつつ、まぶたが重くなっていく。
「今日は、楽しかったな」
かろうじて、私はそうつぶやき夢の世界へと向かった。
彼のことを、考え、ながら……。
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