邂逅遭遇

水無月暦

邂逅遭遇

出会いや恋愛経験、そんなものとは無縁な生活だった。

だが、この日のこの瞬間は運命の出会いだったとしか言いようがない。

千載一遇のチャンスをモノにした、そんな表現がぴったり当てはまる幸運な日だった。


その日、僕は身体に突然電流が走るような痺れる感覚に遭った。

人生で初めて感じた不思議な感覚、そして視界に映りこむ美しい彼女。


「あっあのっ……」


突然の僕の声掛けに、怪訝そうに振り返る女性。

彼女に駆け寄ろうとするが、身体が上手く動かない。


「ふふっどうされました?」


彼女は天使のように、にこやかに微笑む。


「あっ、あのっ、そのっ……。」


何時もは饒舌な口が今日は鈍く、上手く言葉が出てこない。

一体僕はどうしてしまったのだろうか?


「あのっ大丈夫ですか?」


心配そうに僕の腕をとり、覗き込む彼女に顔が赤らむ。

しかし、身体に力が入らない。


「あっ、あの……あねっ……。」


そして口からは、自分の意図した言葉とは違う言葉が吐き出される。


「大丈夫?少し落ち着いてください。」


彼女はそう言うと、ポンポンと僕の背中を軽く叩いた。


「はひ、ふひまへん」

(はい、すいません)


もはや人類の言語かも怪しい言葉だ。


「******************」


彼女がなにか語りかけてくるが、舞い上がりも最高潮で何を言っているのかも理解できない。

ダメだ、頑張れ、これは僕にとって最初で最後のチャンスなんだ。

僕は最後の力を振り絞り彼女に声をかけた。





「ひゅうひゅうひゃ……。」

(救 急 車)


気がつくと、僕は病院のベッドの上だった。


「脳梗塞でした、発見が早くてよかったですね。後遺症も残らないでしょう」


意識がもどった僕に、医師はそう告げた。


「しかし、たまたま声をかけた女性がナースだったのも運が良かった。応急処置も完璧だった」


そして、僕の幸運を医師が褒め称えた。


僕は答えた。


「ええ、たまたま近くの病院の看護師さんの顔を覚えていたのは幸運でした」

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邂逅遭遇 水無月暦 @yuo626

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