vs. 戦場
「――らあああああああっ!」
「っ!?」
狩神へ殺意が
想定外の特攻に、狩神は武器を構える暇すらなく、間一髪で地を蹴って
頬を掠めた
「まだまだぁ!」
戦場の猛攻は止まらない。
「チィ――ッ!」
右腕を真上から振り下ろす
「守ってばっかりじゃあ勝てない――ぜっ!?」
大口を叩いていた狩神が防戦一方となる展開に、会場は
まるで、散々こけにしてくれた分を狩神へ返してやれ、とでもいいたげに。
しかし。
「らあああああっ! く、うううううっ!」
「ふっ――、くっ――、っ!」
会場の熱気とは裏腹に、
まるで、あえて
届きそうで届かない、苦痛にも似た
攻撃と防御の均衡もまったく崩れない。
「くっ、ぅ」
やがて、息もつかせぬ連撃を続ける
無酸素状態での激動は、いかな
「く、そがっ!」
普段であれば十分に仕留められるだけの手数を放ち、それでも有効打の一つも与えられない展開に、思わず感情を吐き出したのは戦場だ。
そして。
「そろそろ、終いか?」
「――っ」
ついに攻守が入れ替わる。
戦場が呼吸を立て直すために攻撃の手数を緩めた瞬間だった。
「股下ががら空きだ」
「なっ!?」
死角から突き上げる大鎌の
意識を刈り取らんとする反撃を戦場は辛くも剣で受け止める。だが、酸素
「――が、はっ!?っ」
唐突な展開に、会場が静まりかえる。
あまりにも華麗で、苛烈で、息を呑まずにはいられない完璧なカウンター。
多くの観客が、たった一撃――それだけで、二人の力量差を感じ取ってしまう。
防戦一方だったにもかかわらず汗一つ流さない狩神の、狙い澄まし、確実に叩き込んだ反撃の精度と威力はすでに規格外の神業だ。
侮っていたのは、果たしてどちらだったか。
観客の多くが、そもそもを見誤っていた。
戦局を
局面――盤上そのものを操れる技量を持った者であることを。
防戦一方など、とんでもない。
全ての所作はあの痛烈な一手を叩き込むために狩神が描いた、
「攻撃の筋が甘い。体幹は良いようだが、活かせていないな。槍にも斧にも重さを感じない。しまいにはカウンターをまるで想定していないときた。だから受けた衝撃を逃がせずにそうなる。で、これでお終いってわけじゃあねぇよなぁ?」
内壁に身体を沈めたままの戦場に向かって挑発する狩神。
――この程度では足りない。
そうけしかけるようにどこか
ややあって。
「ちきしょうが……」
額から流れる紅がぼたぼたと血溜まりを作るのを無視して、
「……てめぇが強いってことは認めてやる。ここまで歯ごたえがないのは初めてだ」
「そいつは光栄だ。だが、
「言われなくたって、臨み通り叩き潰してやるってのぉ! ――ッ」
次の瞬間、観客たちは
闘技場の中心ではただただ激しい
亜音速でコロシアムを駆ける飛び回る戦場の姿を捕捉できないのだ。
だが。
その速度を
「ば、馬鹿な……この早さに対応できるはずが……っ!?」
縦横無尽にコロシアムを
「……こんなもんなのか、本当に」
常人の視界では捕捉不可能な速度で放つ死角からの攻撃が、届く頃にはすべて真正面から受け止められ、あろうことか弾き返される始末。
「ありえねぇ、ありえねぇぞこんなのはっ!」
経験のない威圧感が焦燥を掻き立てる。
疑念を振り払うように苛烈を極める殺気はしかし、どこまでも息の根に届かない。戦場がその手に掴むのは、ただただ虚しい鋼鉄の感触だけ。
対峙しているのは同級生のはずだ。
たかが十数年を生きた程度で、ここまで歴然たる実力差など開くはずもない。
なのに。
いくら叩いても壊れないダイヤモンドの壁のようだった。
打ち壊せる気がしない。突破口がまるで見当たらない。
ただただ積み上がる無数の
「このっ……、化物が……っ!」
そんな戦場の罵りに、
「くははっ。そいつはなんとも光栄な呼び名だ」
コロシアムの中央で、化物がせせら笑う。
「
「ふ、ふざけんじゃねぇ! 今度こそ、沈めてやるっ!」
「……そうかい。丁度こっちも頃合いだと思ってたんだ。そろそろ終わりにするか」
狩神が退屈そうに呟いたのと、
(今度こそ、届くっ――)
槍がその肉を抉る感触を掴み取る刹那、
(――あァ?)
極大の刃がその心臓を貫き、一瞬にして意識を刈り取る。
「勝者……黒乃くん」
静まり返るコロシアムに、州欧のか細い声はよく通った。
勝負は一瞬だった。あまりにも突拍子のない展開に、本当に勝負が決したのかすら瞬時には理解できない大多数の観客。動揺を隠せず、歓声をあげることすら忘れてしまう。
防戦一方だったはずの狩神が、瞬く間にその大鎌で戦場を沈めた――その事実をどう評すれいいのか、この結果にどう反応すればいいのか、そんな戸惑いの空気が支配する。
賞賛もブーイングも忘れ、誰もが沈黙に沈むなか、次第に、ぽつりぽつりと沸き立つのはどよめきだった。
狩神が宿す神格のなせる業なのか、そもそもの実力によるものなのか、それさえ見当がつかないけれど。
ただ。
圧倒などという言葉ですら足らない戦力を狩神が見せつけたことだけは確かで、戦場の姿すら捉えきれなかった一年生の多くは戦慄し、唖然とする他なかったのだ。
戦場は一年生の中でも相当な手練れだった。売られた喧嘩を買っただけのことはある戦闘力は、学内でも上位に食い込む。
だからこそ、多くの一年生が戦慄するのも無理はない。
目で追うことすらできなかった戦場の猛攻の全てを見切っていたかのように立ち回り、圧倒し、無傷でコロシアムの中央に立っているのだから。
底のみえない狩神の実力をどう捉えればいい?
彼我の差はいかほどにある?
全てが、空を掴むような感覚だった。数値化も、想像も、なに一つできやしない。
音速を超える斬り合いですらかすり傷の一つもないなら、いったいどうすれば一矢報いることができるのだろうか。
そんな同級生たちの心境なぞつゆ知らず。
「…………呆気なかったな」
無傷の狩神は大鎌を器用に振るい、鋭利な切っ先で気絶した
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